女性向けAV作品に数多く出演し、「エロメン」として人気を博すAV男優の一徹さん。

新著の『セックスのほんとう』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)では、等身大の失敗エピソードを開示しつつ、「男らしさ」「女らしさ」から自由になってセックスを楽しむことを提案しています。

一方、ウートピではおなじみの桃山商事の清田隆之さんの新著『よかれと思ってやったのに 男たちの「失敗学」入門』(晶文社)。こちらも私たちのジェンダー観をアップデートするための補助線となってくれる一冊です。

セックスについて、ジェンダーについて、失敗について。お互いの本を読んだ感想も含めて、じっくり語り合ってもらいました。

あだ名は「勃起するフェミニスト」

--一徹さんは40歳、清田さんは39歳ですが、20代〜アラサーのころと比べて、性の見方やセックスの楽しみ方って変わりましたか? 今、ウートピの読者はアラサーの女性が多いのですが。

清田隆之さん(以下、清田):実は僕、20代のころ友達から「勃起するフェミニスト」ってあだ名をつけられてまして……。

一徹さん(以下、一徹):なんかちょっとカッコいいですね(笑)。でもどうしてそんなあだ名が?

清田:男尊女卑的なものに憤るフェミニストっぽい感性があった一方、「あーセックスしたい!」「なんならヤリチンになってみたい」という思いにもとらわれていた部分がありまして……。

前に自分の男性性について分析してみる原稿を書いたことがあるんですが、そのときわかったのは、子ども時代は男子っぽいもの(鉄道とか争いごととか少年ジャンプとか)が苦手だったのに、中高6年間を過ごした男子校時代に「男らしさ」の空気に過剰適応しようとした結果、女性を性の対象としてしか見られない感性など、ミソジニー的な価値観がインストールされてしまった。しかし桃山商事の活動を通じてジェンダーへの意識が芽生え、そういうのはやっぱりイヤだな、気持ち悪いなという自分が色濃くなってきて、なんかいろいろゴチャゴチャになっていた。そんな自分を見た友人が「勃起するフェミニスト」っていう変なあだ名をつけてくれたんです。

一徹:「ヤリチンフェミニスト」じゃなくて「勃起するフェミニスト」ってところが清田さんっぽくて、わびさび感じます(笑)。

清田:いま思うと、フェミニストだったら勃起しちゃいけないのかよって話ですよね(笑)。ただ、30代になって以降、インストールされていた「男らしさ」の呪縛が少しずつ抜け、元々の自分の感覚に戻っててきた感があり、ずいぶん生きやすくなりました。

--一徹さんはどうですか?

一徹:20年前、2000年前後って、恋愛してない人はちょっと足りてない人っていう空気がありませんでした? 僕は妹が2人いたので少女漫画も読んでいたんですが、そこでは恋愛は大きな要素でしたし、少年誌でも『ドラゴンボール』の悟空にはチチがいるし、『北斗の拳』のケンシロウにはユリアがいるし……。だから、「恋愛できない自分はおかしい」という空気をすごく感じていました。

一徹:性欲はあるけどそれを女の子に見せたら「体目当てなのね」って思われるんじゃないかと気にして、女の子とはうまくしゃべれない。男の人にも「お前、なに色目使ってんだよ」と言われそうだし、どうやって恋愛すればいいのかわからないんです。恋愛はしたいんだけど、ヤンキーがたしなむものっていうイメージを持っていました。

清田:たしかにそうですよね。恋愛できる人は勝ち組というか。

一徹:そう、恋愛は一部のリア充がたしなむものと思っていた。

清田:わかります。僕も男子校で恋愛とは無縁の生活をしていました。

一徹:恋愛の道からはずれ、ひたすらオナニーをしていました(笑)。

恋愛できない自分は何か欠けている?

--オナニーでは「恋愛したい」という気持ちは満たされなかったんですよね、きっと。清田さんの本の中にもありましたけど、射精して身体的に得られる快楽とは違う、本当は誰かと触れ合いたいという欲求をうまく言語化できなかった。

一徹:そうです、そうです! 困っちゃいましたよね。

清田:あの感じ、なんなんですかね。みんなはすごい楽しいこと、気持ちいいことをやってる気がして、そんな中でオナニーばっかしている自分は何も満たされないみたいな。

一徹:そう、だから自分は何かが欠けている人間なのかなって思ってたんですよ。当時と比べて今は逆に初めての性交年齢がだいぶ後退していて、20歳以上で童貞処女の方もざらにいますし、「恋愛する必要がない」という方も増えてきた。あのころの自分に比べて、すごく生きやすくなったんだろうなって思います。

清田:そうか、当時のほうが「恋人がいないやつはダメなやつ」という圧力が強かったかもしれませんね。

一徹:少なくとも、僕の中にはすごくありました。

清田:わかります。SNSとかも普及してなくて、「恋愛しなくても楽しく生きられるんだ」っていうオルタナティブなモデルが全然なかったですよね。自分の観測範囲では、ドラマでもマンガでも映画でも雑誌でも、恋愛至上主義的な価値観が支配的でした。

一徹:まさにそうですね。

清田:僕もひたすら鬱屈としていて、20代のころは学生時代の同級生と一緒に働いていたんですが、夜中まで仕事をしたあと、よく夜の歌舞伎町を自転車でウロウロしてました。何かドキドキするようなことが起きないかなって……。

--何を期待していたんですか? パンをくわえた女の子と角でぶつかるとか?

清田:ほんとそのレベルです(笑)。急にエロいお姉さんが「君たち何してるの?」とか言ってくるのを期待したり……。怪しい掲示板とかに、そういう嘘くさい体験記があるじゃないですか。そういうのを真に受けて、キャッキャ夢をふくらませていましたね。

一徹:何か起きました?

清田:いや、当然ながら何も起きず、二人でラーメン食って帰ってくるというしょーもない夜を繰り返すだけでした(笑)。

アダルトサイトの意外な検索結果

--おふたりとも、欲望が行き場を失ってぐるぐるしている感じの20代だったんですね。

一徹:清田さんの「勃起するフェミニスト」じゃないですけど、僕の中にも、女の子には優しくしてあげたいという思いと、ゲスな欲望みたいなのがゴチャゴチャしていていました。

--そういうゲスな欲望のほうを可視化したのが、AV作品のレイプものとかなんですかね?

一徹:レイプものといえば不思議だったのが、去年のFANZA(アダルトサイト)のAV検索ランキング。男女比が6:4で、女性の検索率が意外に高いのにも驚きましたが、その検索ワードの2位が「痴漢」なんですよ。

--以前、AV好きの女性たちにお話を聞いたんですけど、痴漢やレイプものって、ファンタジーの世界の中でという限定された視点においては、「自分から何かする必要なく、ただただ気持ち良くしてもらう動画」だからいいそうです。

一徹:まさにおっしゃる通りで、ファンタジーとしてはそういったものが喜ばれるんだなっていうのが、僕の中ではけっこう目からウロコだったんですよ。もちろん、現実の痴漢やレイプは絶対になくさなきゃいけません。でも、絶対安全なファンタジーとして消費するぶんには、女性ユーザーのニーズがあるというのは驚きでした。

清田:そのFANZAのデータ、見たことあります。知り合いの女性が痴漢に対する憤りをツイートしたら、そこに見知らぬ男性から「痴漢されたがっている女性も結構いますよ」というクソリプがついたんですね。で、クソリプ男性がその意見の根拠にしていたのがFANZAのデータだったんです。ご丁寧にリンクまで貼っていて。

清田:このように、ファンタジーと現実の区別がついてない人は確実に一定数いると感じます。だからこそ、一徹さんのような作り手が「ファンタジーはファンタジーだ」と発信してくれることの意味は大きいと思います。

一徹:そうですね。AVと同時に、僕の本や清田さんの本に目を通していただけたらうれしいなぁって思います!

清田:本の宣伝で締めくくる形になってしまって恐縮ですが……2冊同時にぜひ(笑)。

(構成:須田奈津妃、撮影:青木勇太、編集:安次富陽子)