DIGIDAY+ 限定記事 ]今年7月、フリーランスのクリエイティブディレクターで、クリエイティブエージェンシー、ドリーム・ネイション・ラブ(Dream Nation Love)の創業者であるユリア・ラリチェヴァ氏は、ニューヨーク、ロウアー・イーストサイドにあるカクテルバー、レセプション・バー(Reception Bar)でネットワーキングイベントを開催していた。15人が参加し、飲み物を片手に自分のやりたいことを話したり、連絡先を交換したりして、目標の達成につなげようという集まりだ。ただ、その飲み物が、よくあるネットワーキングイベントでふんだんに飲まれているアルコールではなかった。彼らが飲んでいたのは「エリクサー(Elixirs)」と呼ばれる、おしゃれだけどもノンアルコールのカクテルだった。

「目指したのは、アルコールが入っていなくても心地よくすごせるイベントだ」と、ラリチェヴァ氏は語る。「お酒を手にしていれば、気が楽になり、話しやすくなるのはわかる。けれども、飲まねばというプレッシャーを感じなくてすむ空間、そこに集まれば強力なネットワークを作れるという場所を作りたかった。結局はそういう場が求められているのだと思う」。

このように、社交の場における潤滑剤としてはごくごくありふれた、たやすく手に入るものであるアルコールをイベントから排除しようとする動きは、新しいものではない。しかし、ミレニアル世代やZ世代は上の世代よりも飲酒量が少ないと言われており、「ドライジャニュアリー(Dry January)」と称して1月中は禁酒したり、酒を飲まずに社交するスペースを作ったりといった飲まない取り組みは、これまで以上に増えていると言えるだろう。ベレンベルクリサーチ(Berenberg Research)が実施した2018年の調査によれば、Z世代の飲酒量はミレニアル世代より20%少ないという。また、この調査に回答したZ世代の64%は、自分たちは今後も上の世代ほど飲むようにはならない、と考えていることもわかっている。上の世代ほど飲まない、というのがどの程度のものなのか正確に数値化することは難しいが、今年の春にアトランティック(The Atlantic)の記事が詳しく報じたように、飲まないカルチャーの人気は高まっており、脱アルコールのインフルエンサーまで生まれているほどだ。ニューヨークではここ1年半のあいだに、ゲッタウェイ(Getaway)、アンブロジア・エリクサーズ(Ambrosia Elixirs)、ポップアップバーのリッスン・バー(Listen Bar)など、アルコールを出さない、いわゆるソーバー・バー(sober bar)が次々と登場している。

ウェルネスの盛り上がり

「これはウェルネス分野の盛り上がりと直接的に結びついているトレンドだ」と、デジタルエージェンシー、ムービング・イメージ&コンテント(Moving Image & Content)の創業者であるクィン・マイ氏は、飲まないカルチャーに魅かれる人が増えている現状について話す。「25ドルのカクテルよりも、25ドル払ってブティックフィットネス(特化型フィットネス)のクラスに参加することを選ぶ人たちが多い。トータルで健康に気を使うのが、最新のラグジュアリーだ。素晴らしい出来のカクテルを飲むことが格好いい時代はほぼ終わり、ウェルネスブランドの商品を購入したり、そのイベントに参加したりすることのほうが自慢になる。そのほうがインスタグラム(Instagram)でも映える」。

酔っ払うことに代わり注目を集めているのが、マインドフルネスである。充実した生活といえば、派手に飲んで羽目をはずすことではなく、バランス良くさまざまな経験を積み重ねることなのだ。なにしろ、激しい二日酔いと夜明けの瞑想は相性が悪い。ありとあらゆるタイプのブティックフィットネススタジオが現れてきているのと時を同じくして、飲まないカルチャーが盛り上がっているのは偶然ではない。アメリカで広く蔓延しているオピオイド(Opioids:医療用麻薬)の乱用にしても、もともとは痛みを和らげたいという欲求に端を発している。

「自分たちの体調や、心身の健康、環境問題などへの関心が高まり、いろいろと気にする人も増えるなか、ウェルネスは爆発的なトレンドになっている」と語るのは、早朝に開催されるダンスパーティ、デイブレイカー(Daybreaker)をヒットさせている同名企業の共同創業者で、CEOを務めるラダ・アグラワール氏だ。「私たちは、上から目線で禁酒を説くような場ではなく、シラフ(素面)でいることを実践でき、自分自身を見つめられ、人との出会いがあり、お酒や薬でハイにならなくてもダンスフロアで恋に落ちることができる、そんな環境を作りたいと考えた」。

「居場所が欲しいから」

5年半前、ネバダ州の砂漠で毎年開催されている大型アートフェス、バーニングマン(Burning Man)に参加し、早朝にシラフで踊るという素晴らしい体験をしたアグラワール氏は、その旅から戻ってきてデイブレイカーを立ち上げた。人気が出るかはわからなかったが、人々はこういった場を望んでいるはずだという確信があり、コミュニティを作ったのだという。アグラワール氏の読みは当たっていた。いまや約50万人が、デイブレイカーのパーティースケジュールを知らせるメールアラートに登録しており、同氏は、そのうちの70〜80%が実際にイベントに参加したことがあると見込んでいる。

「結局なぜ酔うのかというと、それは人とのつながりや居場所が欲しいから、それがあると感じられていないからだろう」と、アグラワール氏はいう。「私がアルコールを飲むのは、もっと打ち解けた感じで、その場に馴染みたいからだ。シラフでいると、その場に属していないような気がして、何かでテンションを上げなければと感じてしまう。アルコールや薬物の乱用には、その根底に自分の居場所が感じられないことがある。シラフでいるために一番大切なのは、居場所があると感じられることだ」。

こうした飲まないカルチャーの盛り上がりは、ペプシコ(PepsiCo)のティーブランド、ピュア・リーフ(Pure Leaf)や、スパークリングウォーターブランドのバブリー(Bubly)などアルコールフリーのブランドにも認識されつつある。ピュア・リーフは今年8月、子供向け絵本『エロイーズ(Eloise)』をテーマにアルコールフリーのミックスドリンクを提供する、モダン・デイ・ティー・ソーシャル(Modern Day Tea Social)と題したイベントを開催した。同じ頃バブリーは、ミクソロジスト(創作カクテルを作るバーテンダー)のジュリア・モモセ氏と組んで「スピリッツ・フリー」のカクテルを作り、飲まない層にアピールしている。

カルチャーを専門とするコンサルティング会社のスパークス&ハニー(Sparks & Honey)は、こうしたトレンドはまだはじまったばかりだと見ている。バーやレストラン、飲料会社はいま、その需要を把握しつつあり、それに応える製品や体験の提供は、今後はじまるだろうという。

シラフでいることの意味

とはいえ、今回の脱アルコールトレンドは、シラフでいることの意味が変化しつつあるなかで起こっているものだ。これまでなら、依存症から回復しようとしている人にとってのシラフとは、心理状態や気分を変える身体に悪いものは、どんなものでも摂取しないという状態を意味していた。だがいま、飲まないカルチャーを取り入れようとしている人たちにとってのシラフは、必ずしもそういう意味ではなさそうだ。「新しく流通するようになった製品などがあり、シラフの定義が変わってきている」と、飲食料品、健康分野などのクライアントを抱えるデジタルエージェンシー、ザ・キンバ・グループ(The Kimba Group)の共同創業者であるレベッカ・ロソフ氏は指摘する。

大麻に含まれる成分のひとつ、カンナビジオール(CBD)を使った製品は、以前よりも入手しやすくなっている。ここ10年間、シラフを通してきているというあるクリエイティブ担当者は、CBDを使うことで不安に対処しやすくなったという。「心の健康を維持し、シラフのままでいるのに役立っている」と、この人物は語っている。そして、幻覚作用のあるマッシュルームなどを超微量摂取するマイクロドージングも、流行の兆しを見せていると教えてくれた。「自分はシラフだと思っている人も、こうした物質を摂取していることはあるだろう。ほんの少しだけ気分を変えるというわけだ。正直なところ、シラフの新たな定義としては、自分探しや、自分にとってシラフとは何かを見出すといった面が大きくなっていくと思う」。

Kristina Monllos (原文 / 訳:ガリレオ)