6600万年前、恐竜の時代の終焉を招いた隕石の衝突。生物の世界はどう変わったのか。(画像はイメージ)


 6600万年前、白亜紀末の恐竜絶滅は、その理由が長年議論されてきたが、現在ではカリブ海におちた直径10kmほどの隕石(小惑星)が要因であったことが定説として受け入れられている。この共通認識を前提にして近年、この隕石衝突前後の生態系はどうなっていたのか、何が起きていたのか、その詳細について深掘りして研究されるようになってきた。

 当時暮らしていた75%以上の生物種を絶滅に至らしめた隕石衝突。その前後は、時代区分としても白亜紀(中生代)と古第三紀(新生代)に分かれるが、巨大隕石が落ちた証拠である地層は「K/Pg境界」と呼ばれている。このK/Pg境界の地層には、地表にはほとんど存在しないはずのイリジウムという元素が急増すること、石英の結晶の中に物理的な衝撃が及ぼされた痕跡などが確認されている。

 このK/Pg境界付近の化石について調べることが、古生物学の世界でいま最もホットな研究のひとつとなっている。K/Pg境界の地層には、まさに恐竜たちが大量死して、屍が累々としているような化石があるのかもしれない。その化石の解析から、絶滅の詳細や恐竜なき時代の生物たちの進化の様子がより明らかになるだろう。

 6600万年前の大量絶滅の前後から分かることについて、国立科学博物館 標本資料センター・コレクションディレクターの真鍋真氏に聞いた。

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化石で分かる太古の環境

――K/Pg境界付近の化石について調べることで、どんなことが分かると期待されているのでしょうか?

国立科学博物館 標本資料センター・コレクションディレクターの真鍋真(まなべ・まこと)氏。近著に『』監修。真鍋氏の右側にあるのは、10月14日まで開催の「恐竜博2019」のデイノニクスのかぎづめの展示。


真鍋真氏(以下敬称略) 恐竜たちの一部は鳥となって現在も生きていますが、6600万年前に恐竜の大部分は滅びたわけです。6600万年前に恐竜の時代がどのようにして終わったのかを調べることは、環境の変化と生物の進化の関係を知ることにもつながります。

 鹿児島県にある甑島(こしきじま)の7000万年ほど前の地層から、カモノハシ竜(ハドロサウルス類)の化石を2018年に発掘しました。6600万年前の白亜紀最末期とはいえませんが、日本で発見されている恐竜の中では最も新しい、つまり最後の恐竜のひとつです。さらにK/Pg境界に近い地層に迫るべく、現在も調査を続けています。絶滅直前期のアジアにはどんな恐竜が闊歩していたのか、そこを知りたいという思いがあります。

 衝突の直前まで恐竜たちがどう変化(進化)していたのか、白亜紀より前のジュラ紀、三畳紀にわたる、恐竜の各グループごとの栄枯盛衰を知ることとはまた別の意味があります。

 例えば、隕石衝突前に角竜類とカモノハシ竜を含む鳥盤類の植物食恐竜は、種の多様性が減少し、衰退しかけていたという、エジンバラ大学などの研究などがあります。北米では、白亜紀末に大型植物食恐竜が衰退し始めていたため、生物多様性、生態系がやや脆弱になっており、そうした最悪のタイミングで隕石衝突が起き、大きな影響を受けたという説です。

――巨大なブラキオサウルスやディプロドクスなど多様な竜脚類たちが闊歩したのはジュラ紀後期ですが、白亜紀後期にはアラモサウルス1種ぐらいに減ってしまっていました。一方で、同じく巨大な竜脚類のアルゼンチノサウルスやパタゴティタンは、南米大陸で白亜紀後期まで栄えていました。地域(大陸)ごとに、種やグループの繁栄も違っていたということでしょうか?

真鍋 北米大陸と南米大陸は当時、海で隔てられており、生態系も異なり、同じ竜脚類でも異なった進化が起こっていたのです。逆に、北米大陸とアジア大陸は「ベーリング陸橋」によってつながっていたので、東アジア起源の角竜類が北米大陸に渡って、そこでトリケラトプスなどのようにフリル(襟飾り)や角を大きくし、北米で多様な進化をとげたりしています。

 他に恐竜ではありませんが、海ではジュラ紀に栄華を誇ったイクチオサウルスなどの魚竜が、白亜紀の中ごろ(約9000万年前)には絶滅しています。別の海生爬虫類のモササウルスなどに捕食者としての地位を取って代わられたわけですが、原因として海中の貧酸素状態が広がる「海中無酸素事変」が何度か起きたことも魚竜の衰退に影響したとも考えられます。

 白亜紀の空では、鳥類が増えるにつれて、翼竜は大型化し、海洋など、より長距離を飛ぶ必要がある場所で生きるなど、棲み分けが進んでいたようです。

隕石衝突から生き延びた生物

――そんな中、6600万年前の隕石衝突、K/Pg境界を越えることができた生物、できなかった生物の間にはどんな違いがあったのでしょうか? 恐竜、海生爬虫類、アンモナイト、翼竜などは越えられなかった(絶滅した)わけですが、そこで大型化ということはどんな意味をもったのでしょうか?

隕石衝突の想像図。 Image by .


真鍋 白亜紀末の生態系の中で、恐竜は確かに大型化しているものが多くいました。生物が大型化するということは、一個体あたりの食べる量が増えるため、生態系の中でそれだけ生きられる個体数が減るということです。

 そんな中、隕石衝突によって環境が劇的に変わりました。隕石と海底の岩石の破片は水蒸気と一緒に巻き上げられて大気圏に層をつくり、地表に届く太陽光線は大きく遮られ、地上では28℃、海で11℃も温度が低下したという研究があります。植物が十分に光合成できない期間は2年に及んだようです。

 こうした厳しい環境下で、大型種の絶滅リスクが顕在化したのだと思います。明暗を分けた第一は、体のサイズだったでしょう。

 また、恐竜は変温動物から恒温動物化していたともされますが、自らの体温を一定に保つ恒温動物が生きるためには、変温動物よりも約4倍以上のエネルギーが必要とされます。気温が急激に低下し、植物が極端に減った地球で、植物食恐竜は食べるものを失い、肉食恐竜も捕食対象をなくし、多くの恐竜は比較的短い期間で絶滅していったようです。

 同じ恒温動物でも、鳥類と哺乳類はK/Pg境界を越えられました。それは共に、小さいサイズであったことが幸いしたと考えられます。生態系に恐竜や他の爬虫類がいたため、哺乳類は白亜紀まで大型化できませんでした。哺乳類は、当時最大のものでも全長が1mくらいで、小さな体サイズのため、少ない食べものでもやり過ごせ、サバイバル率を高めたのでしょう。

――6600万年前の大量絶滅を生き残った生物たちは、その後どのように生態系を回復させていったのでしょうか?

真鍋 従来、大量絶滅の前と同じ程度に生態系が回復するには、数百万年から1000万年くらいかかるのではないかといわれていました。しかし、恐竜のいなくなった新生代の古第三紀の哺乳類は、最初のうちは雑食性の小さなものばかりでしたが、最初の100万年以内の間に急速に多様化し、大型の哺乳類も出現していきました。

 私たちにつながる霊長類も、トレホニアという子イヌ大の最古の霊長類が衝突から300万年後には現れており、恐竜がいなくなった生態系ですみやかに多様化していったと、いまでは考えられています。新生代は「哺乳類の時代」とも呼ばれますが、恐竜のいなくなった地位を埋めるように、哺乳類の台頭はかつて考えられていたより急速に起こっていたのです。

 恐竜が生きた中生代という舞台では、哺乳類は恐竜たちに食べられる弱い存在でしたが、K/Pg境界よりすぐ上の(新しい)地層では、今度は哺乳類がワニなどの爬虫類を食べるようになるという生態系における地位の逆転が起きていたようです。

アメリカ・コロラド州のK/Pg境界。真鍋氏(右)が指や手で示しているのが境界。デンバー自然科学博物館のイアン・ミラー博士(古植物学、左)とタイラー・ライソン博士(古脊椎動物学、中)と、一緒に境界の上下の地層と化石を調査しているときのもの。「恐竜博2019」で展示されている標本の一部が、この地域から発見されている。(撮影:国立科学博物館 佐野貴司博士)


「第6の大量絶滅」に備えて

――先生が監修している「恐竜博2019」でも、最後に「絶滅の境界を歩いて渡る」という形でK/Pg境界を意識させる展示方法となっていました。その中で、K/Pg境界を越えたカメの記述が興味深かったです。

真鍋 白亜紀最末期の北米では、陸生、河川生、湖沼生など、カメ類の多様性が高くなっていました。他の脊椎動物と比べると、カメ類はK/Pg境界での大量絶滅ではごく一部しか絶滅しませんでした。K/Pg境界で生き残ったカメ類の中で最大のものは、スッポン類で140kgもの体重があったとされます。

 こうして古生代末、ジュラ紀末、K/Pg境界の大量絶滅を生き抜いてきたカメ類でしたが、現代では大変な危機に瀕しています。西暦1900年以降、約350種のうち3%が絶滅、9%が絶滅寸前種、18%が絶滅危惧種にリストアップされています。3度の大量絶滅を乗り越え、ものともしなかったカメが、いまは非常に受難の時代を迎えています。

 こうした記述から、現代が「第6回目の大量絶滅期」にあるという問題意識を少しでも持ってもらえたらと考えています。1500年以降、陸生の脊椎動物だけで338種が絶滅しており、加えて279種が野生では絶滅しているか、すでに絶滅している可能性が高いとされています。

 この第6回目の大量絶滅を引き起こしている主役は、私たちヒト、ホモ・サピエンスに他なりません。それだけ人間が与える環境変化が、ある種の閾値を超えてしまっているとも考えられます。

――6600万年前の直近の大量絶滅、および現在も密かに進行しつつある「第6の大量絶滅」を照らし合わせて、私たちが考えられることとは何でしょうか?

真鍋 6600万年前の大量絶滅は、巨大隕石(小惑星)衝突が、文字通り大きなインパクトを生態系に与えたわけですが、現代では77億人まで増えた人類の多さと、そのことが地球に与える環境変化が生態系にとって同じように、大きなインパクトを及ぼしています。

 生物多様性が失われ、脆弱になっていくということは、人類が今後生き延びるかどうかにかかわらず、もし万が一、今後何らかの環境変化があったときに、生物がサバイバルできる可能性を確実に狭めていってしまいます。

『恐竜の世界史』(みすず書房)の著者、スティーブ・ブルサッテが次のように書いています。

「恐竜がかつて収まっていたその座に、今では私たち人類が座っている。自らの活動のせいで地球がみるみる変わりつつあるのに、自然界での自分たちの地位は安泰だと思い込んでいる。だから私は不安で仕方がない。(中略)恐竜に起きたことは、私たちにも起こりうるのではないか、と」

 まさにこうした意識を持ってもらい、SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)の14条、15条にもあるような「海や陸の豊かさを守ろう」などの内容が少しでも実践されていくことを願っています。

筆者:依田 弘作