北千住は東京や大手町まで15分とアクセスもいい(※写真はイメージ)

写真拡大 (全2枚)

 東京の足立区に、どんなイメージをお持ちだろうか。“低所得者が多い”“犯罪多発区”“行くのが怖い”……、一般的には、あまり芳しくない評価が少なくない。「住みたい23区ランキング」では、常に最下位付近にいる足立区を統計データで徹底的に分析し、あるがままの姿を見つめ直したのが、『なぜか惹かれる足立区〜東京23区「最下位」からの下剋上〜』(ワニブックスPLUS新書)である。はたして、足立区に未来はあるのか。

 ***

 23区の最北端に位置する足立区の面積は、53・25キロ平方メートルで大田区、世田谷区に次いで3番目に広い。人口は約68万人で、23区で5番目となる。その数は鳥取県を上回り、島根県に匹敵する。

北千住は東京や大手町まで15分とアクセスもいい(※写真はイメージ)

 まずは所得水準を見てみよう。総務省によると、2016年の納税義務者1人あたりの課税対象所得額が23区で最も高いのは港区で1112万円。逆に一番低いのは足立区で、336万円。港区と足立区では3・3倍もの開きがある。足立区の最下位は、過去20年間ずっと続いている。

『なぜか惹かれる足立区』から一部を抜粋してみると、

〈2016年の足立区の生活保護率は3・73%。23区の平均(2・31%)を1・7倍も上回っている。23区の順位でいえば高い方から2番目。一番高い台東区(4・40%)は、山谷地区の簡易宿泊街(いわゆる「ドヤ街」)という少し特殊な要因を抱えているから、足立よりも高い区があると単純に考えてはいられない。ちなみに全国平均値は、厚生労働省の2017年2月時点のデータで1・69%。足立区と全国平均の間には2・3倍もの差がある。しかも足立区の生活保護率は、過去10年間、ほぼ一貫して上昇し続けている。〉(註:引用文は改行を省略。以下同)

 足立区では、小学1年生の4〜5人に1人は生活困難家庭だという。

『なぜか惹かれる足立区〜東京23区「最下位」からの下剋上〜』(ワニブックスPLUS新書)

〈(1)世帯年収が300万円未満、(2)子どもの生活に必需と思われる物品や5万円以上の預金がない、(3)過去1年に経済的理由でライフラインの支払いができなかったことがある、という3つの条件のいずれかに該当する家庭を「生活困難家庭」と定義している。小学校1年生の子どもがいる家庭のうち、この「生活困難家庭」に該当する世帯の割合は2017年調査で22%。〉

「ビューティフル・ウィンドウズ運動」

 家庭環境の悪化で、足立区は不良行為少年の補導件数も増している。足立区が“ヤンキーの街”と言われ始めたのには理由がある。

「1988年から89年にかけて足立区の綾瀬で起きた『女子高生コンクリート詰め殺人事件』が一つのきっかけでしょう。当時15歳から18歳の4人の少年が、通りすがりの女子高生を誘拐、監禁し、強姦した挙句殺害して、遺体をドラム缶にコンクリート詰めして遺棄した 。あれ以来、足立区は犯罪の街というイメージができあがってしまったようです」

 と解説するのは、本書の著者の池田利道氏である。同氏は、財団法人東京都市科学振興会事務局長・主任研究員等を経て、2011年に一般社団法人東京23区研究所を設立。23区を中心とするマーケットデータの収集・加工・分析を手がける。他にも『23区格差』(中公新書ラクレ)、『23区大逆転』(NHK出版新書)などの著書がある。

 足立区は、2006年以降、犯罪発生数23区最多 を続けていた。

「そのため足立区では、2008年から『ビューティフル・ウィンドウズ運動』を展開しています。割れた窓ガラスを放置していると街全体が荒れていき、犯罪も多くなるという“割れ窓理論”です。小さな犯罪を小さな芽のうちに摘み取ろうということで、足立区は、駐輪場で鍵のかかっていない自転車に施錠するというキャンペーンを繰り返し行っています。 昼間、駐輪場に職員を常駐させて無施錠の自転車に施錠し、利用者が戻ってくると開錠することになっています。このキャンペーンのおかげで犯罪発生数は減少してきています。犯罪発生件数を区の面積で割った犯罪発生密度に関していえば、昨年は、足立区は23区で練馬区に次いで犯罪発生密度が少なかった。いまや“安全な区”と言えると思います」(同)

 こんなデータもある。2010年の足立区の調査によると、糖尿病や高血圧症などの生活習慣病は、東京都の平均よりも高かった。また、医者にかかった人の中に占める糖尿病の割合は、足立区が23区で一番高い。

「糖尿病は様々な合併症を引き起こします。そこで足立区は2012年から健康対策の重点を糖尿病対策においています。区民に野菜を食べさせるために、『あだちベジタベライフプロジェクト』をつくり、野菜の豊富なメニュー提供するよう区内の飲食店(惣菜販売店も含む)に協力を要請。協力店は、区内の飲食店の1割にあたる600店を超えています。この結果、2010年に東京都の平均より2歳低かった足立区の健康寿命は、15年には約1・5歳にまで縮まりました」(同)

 足立区の統計データで、唯一誇れるのが「定住率」である。2015年の国勢調査によると、足立区は41・8%。23区で1位となっている。

「定住率が高いということは、愛着を持って街に住み続けている人が多いということを示しています」(同)

 足立区は、23区のなかで最も家賃が安い。相場は、1DKで5万円ほど、2LDK・3LDKで8万円ほど(リクルート社による2018年2月時点の月額相場)だという。

「この街はコスパがいい。北千住には、古いレトロな煮込み屋や焼鳥屋が残っていますし、昔ながらの銭湯もあります。休みの日は家族で銭湯に行き、そのあと居酒屋でビールで乾杯、という光景もよく見かけます。実際、日曜日は、千住の裏通りにある焼鳥屋などは、昼間からびっしり人が入っていますよ。激安スーパーは他の区では見られない安さだし、100均ならぬ、68円均一の店もあります。竹ノ塚の『生鮮市場さんよう』では、月に2回、ナスや玉ねぎなどの野菜が1個10円という“衝撃の10円祭り”がありテレビで話題になっています。さらに、北千住は東京や大手町まで15分とアクセスもいい。世田谷より都心へのアクセスがいいので、惹かれる人も多いのでしょう。定住率が高くなるのも頷けます」(同)

 もっとも、定住率の高さには、負の面もあるという。

「このデータに関して言えば、長く住んでいる人が多いということで、地域住民の絆が深まるという良い面もありますが、高齢者が増えるという負の面もあります。そこで足立区は、若い住民を増やすため、積極的に大学を誘致しています。足立区は、統廃合で廃校となった千住地区の小中学校跡地に大学を誘致。2006年には東京藝術大学・音楽学部の千住キャンパスが開校、07年には東京未来大学が新設、10年には帝京科学大学の千住キャンパスが開校、12年には東京電機大学が移転してきました。これで高齢化に歯止めをかけようというわけですね」(同)

週刊新潮WEB取材班

2019年10月11日 掲載