事態は急展開

10月8日昼、NHKから国民を守る党(以下N国党)党首の立花孝志氏は「国会議員辞めます」と題した動画を自身のYouTubeチャンネルに投稿した。立花氏は同日夕方に会見を開き、7月に当選したばかりの参議院議員を辞職すること、10日告示・27日投開票の参議院埼玉県補欠選挙に出馬することを表明した。

また1日には、実業家のホリエモンこと堀江貴文氏がN国党の「公認候補者」に決定したとの報せもネット上を駆け巡った。やはり発信元は、立花氏の投稿した動画だ。早速テレビ局が堀江氏に出馬の意向を問い質したが、「分からない。現時点では断言はできない」という趣旨のコメントが返ってきた。

筆者はこれまでも、N国党の特異性と、立花氏が起こした「社会現象」の背景を分析してきた。しかし今回の一連の動きで、同党を取り巻く情勢は一変し、事態は早くも「新たなフェーズ」へと移行するかもしれない。それは一言で言えば、N国党のスタンスがより鮮明になり、「戦線」が拡大するということである。

最初に具体的なポイントをまとめると、以下の対立軸が進行する未来図が予想される。

・マスコミを中心とするオールドメディア発の情報に依存する人々と、「当事者」による直接発信を含むインターネットメディア発の情報に依存する人々との間で、「情報の非対称性」に基づく分断と戦いが深刻化する

・NHKに象徴される既得権益層に加えて、オールドメディアと関係の深い検察、警察、国税なども本格的に彼らのターゲットとなり、N国党と「国家権力」との緊張が強まる

N国党に関しては、選挙直後の狂騒が落ちつき、9月以降は報道機関も再び「黙殺」する状況になっていた。10月2日に関係者の談話として、離党議員に対する脅迫容疑で立花氏が書類送検されたことが報じられたくらいだ(これ自体が検察や警察のリークの可能性がある、と立花氏は批判している)。

つまり、刑事事件のような公的機関の発表ベースでしか取り上げなくなっているのである。新聞もYouTube上での発言を切り取った「揚げ足取り」的な攻撃に終始しており、これが「ソース」である立花氏のYouTubeをウォッチしている視聴者や、N国党支持者の反発を呼んでいる。

「正しい者が勝つ」わけではない

分かりやすかったのが、YouTubeの対談における立花氏の「『虐殺』発言」と、それに対する他党からの批判を伝える報道だ。

これは、立花氏と地方議員による超党派団体「龍馬プロジェクト」全国会会長の神谷宗幣 (そうへい)氏の対談での発言で、世界の人口増加問題について理想論的な解決策を語る神谷氏に対し、立花氏が人口増加を止める手段としての戦争や、「下等な人類については潰してしまうという無茶苦茶なこと」を、「やれとは思わないし、やるべきではないと思う」と付け加えた上で言及したものだった。

一方で、マスコミは前後の文脈を無視し、立花氏は爛献Д離汽ぅ鼻別餌佳腟垰Α豊瓩鰺毒Г垢觧彖曚了ち主であると一斉に報じた。

今後N国党をめぐっては、このような「情報の非対称性」に基づく対立が拡大していくことが懸念される。

「情報の非対称性」とは、分かりやすく言えば「どのメディアに依存しているか」で「見ている風景が異なる」という状況を指している。N国支持者からは一般人がリテラシーのない「情報弱者」に見え、反対に一般人からは、N国支持者こそがカルトに洗脳された「情報弱者」に見えるのだ。この両者の溝、分断こそが「戦線」となる。

しかも立花氏は、このような炎上を招く「非対称戦」をわざと仕掛けているふしがある。「炎上の種」となることを理解した上で発言し、いわゆる「マスコミによる印象操作」を誘発することによって、ソース=YouTubeを参照するフォロワーや、コアなファン層を獲得するのである。

立花氏は自身の言動に関して、オリジナルコンテンツだけでなく、公式の会見や取材を受ける際の動画もYouTubeにノーカットでアップしている。「非対称戦」における「武器庫」として、自らのすべての言動を、誰もが閲覧可能な状態にするためだ。

ここで重要なのは「非対称戦」で優位に立つのは、道義的に「正しい」側ではなく、あくまで「物語」を支配する側であることだ。

P・W・シンガーとエマーソン・T・ブルッキングは、ソーシャルメディア時代の「注目争奪戦」において、「物語」が人々に定着するかどうかを決めるのは「シンプルさ」「共鳴」「目新しさ」の3つだと述べている。

〈「いいね!」戦争はどれも、具体的な目的(候補者を売り込む、譲歩を勝ち取る、戦争に勝利するなど)を念頭に置き、対立者(自分たち以外の人間や集団や国家)を相手にして行われる注目争奪戦だ。勝利を収めるには、アテンションエコノミーのバイラル性と気まぐれさに対する理解と、「物語」、感情、信憑性をコミュニティ構築と絶え間ないコンテンツの供給(情報氾濫)と融合させて伝える能力が必要だ〉(*)

立花氏はYouTubeチャンネルを通じ、NHKに代表される既得権益層の打破という「シンプルさ」、マスコミなどの敵対勢力に向かう怒りや不満への「共鳴」、筋書きが読めない展開が続く「目新しさ」を提供している。つまり、この3つの要件すべてを満たしているのである。

これは、いわば政治版リアリティ番組といえる。無数のコンテンツに囲まれ、可処分時間の使い途を意識している若い世代の無党派層を取り込めるか否かは、「キャラクターの魅力」「コンテンツの面白さ」にかかっているからだ。

そのような文脈においては「警察からの事情聴取」や「書類送検」さえも、ドラマに真実味を与える数々の山場の一つとして消費されてゆく。「訴求力のあるコンテンツメーカー」であるか否かが勝敗を決めるのである。〈政治家、ポップスター、ヘイト集団、反ヘイト集団の誰であれ、『物語』を自分のものとし、観察者の感情を呼び込み、信憑性を与え、その結果コミュニティを構築できた者が新たな勝利者となる〉(*)というわけだ。

現に、マスコミからN国へのバッシングは既得権益層からの「弾圧」として受け取られ、ますますフォロワーや支持者らの結束を促すことになっている。

国家権力との対立が本格化

次に指摘しておくべきは、N国党と「国家権力」との緊張が高まる可能性である。

YouTubeで9月16日に配信された堀江貴文氏と立花氏との初対談では、検察改革の重要性について触れている。例えば「人質司法」だ。逮捕・勾留された被疑者に弁護士の立ち会いを許さず、否認すれば長期の勾留を行い、精神的に追い詰めることで自白を得ようとする捜査方法のことである。

周知の通り、堀江氏は2006年1月に証券取引法違反容疑で逮捕され、東京地検特捜部による取り調べを受け、2年6ヵ月の実刑判決を下されている。また立花氏は9月に脅迫の容疑で任意聴取を受け、今月2日には書類送検されており、前述のような捜査当局によるリークを、国家・地方公務員法の守秘義務違反と、それに便乗するマスコミの姿勢の両面で問題視している。

さらに、現在立花氏が擁立に向けた「ラブコール」を送っている「青汁王子」こと実業家の三崎優太氏も、この9月に1億8000万円の脱税容疑で懲役2年、執行猶予4年の判決を受けた。

共通しているのは、いずれの人物も当局に逮捕されたり聴取を受けたりし、さらにマスコミのバッシングを受けた経験があるということだ。そもそも立花氏の言う「既得権益層」にはマスコミだけでなく、「国家権力」(の内部にいる者)も含まれている。犖撃瓩量契茲向かうのはある意味必然ともいえる。

立花氏が「消えた」ときこそが…

冒頭でも触れた8日の会見で、立花氏は参議院埼玉県補欠選挙への出馬を表明した。なお立花氏の議員辞職に伴って、先の参院選でN国党から出馬し比例2位となった浜田聡氏が繰り上げ当選となる。これはいわば、立花氏の人気を利用して議席を獲得する「選挙制度のハッキング」ともいうべき戦略の実行だ。

今後、仮に堀江氏もN国党から選挙に立候補する場合、どのような事態が想定されるのか。

立花氏は10月1日の堀江氏との対談動画で、「比例区で出馬して当選した際には、次点の候補者に議席を譲ればいい」と述べている。これは、選挙の宣伝効果を最大化する犂振り役瓩函⊆駄海鮖覆訐治家とを切り分ける「政治と選挙の分離」である。

立花氏や堀江氏、あるいは前述した三崎氏のような著名人が出馬し、当選したら知名度の低い候補者へ議席を譲る――この選挙制度の穴を突いた「ハッキング」を、N国党はこれから本格的に仕掛けてゆくつもりなのかもしれない。

現在、世間の注目は炎上を繰り返す立花氏の言動に集中している。しかし、立花氏が表舞台で活動しているうちは恐らく「序章」に過ぎない。「NHKのスクランブル化」に向けた長期戦を意識している立花氏は、最終的には「自分がいなくても回るシステム」を作ろうとしているように思われる。持続可能な「既得権益をぶっ壊す」コミュニティである。

つまり、N国党から立花氏の姿が見えなくなったときこそ、本格的な狼煙が上がると見るべきなのだろう。

(*)『「いいね!」戦争 兵器化するソーシャルメディア』(小林由香利訳、NHK出版)