米国「雇用統計」が「思ったより悪くない」は本当か…その意外な真実 「誰が見ても悪い」頃には手遅れ

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米国の雇用統計「思ったより悪くなかった」…?

10月第1週は米ISM製造業景気指数ならびに非製造業景気指数、9月ADP雇用統計など、市場予想を割り込む米国の重要な経済指標が相次いだ。そして4日にはその仕上げとも言える米9月雇用統計が発表された。

既報の通り、「思ったほど悪くなかった」という受け止めが大勢であり、結果を受けた金融市場ではリスク許容度が改善、米金利やドルは上昇し、円安が進んだ。

しかし、「思ったほど悪くなかった」は結局のところ「悪い」のであり、基調をしっかり見極めるようにすべきであろう。

〔photo〕gettyimages

9月の非農業部門雇用者数(NFP)変化は、前月比+13.6万人と市場予想の中心(同+14.5万人)を割り込んでいる。「思ったほど悪くなかった」との受け止めとは裏腹に、市場予想には届いていなかった。

また、平均時給も前年比+2.9%と市場予想の中心(同+3.2%)を▲0.3%ポイントも下回り、過去1年で最も低い伸びにとどまった(▲0.3%ポイントは2017年8月以来の大きな失速幅となる)。

失業率が3.5%と50年ぶりの水準にまで低下したことが好感されているが、そこまで雇用市場の需給が逼迫しているのに賃金の騰勢が衰え始めていることを憂慮すべきだろう。

明確な「減速」

周知の通り、雇用統計は振れの大きい統計であり遡及改訂は日常茶飯事である。

単月の市場予想と比べて「思ったほど悪くなかった」と安堵するのではなく、「趨勢的にどうなってきているのか」を評価するようにしたい。


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上図に示される通り、3か月ないし6か月平均で見たNFPは過去5年で明確に減速してきている。

今年1〜9月で創出されたNFPは144.7万人だが、これは過去5年の同時期の雇用創出幅としては最小である。

米経済が創出できる雇用の「量」は徐々に、しかし確実に少なくなっているとの認識が必要である。

真っ当に考えれば50年ぶりの低水準に達した失業率は完全雇用状態への接近を意味している可能性が高く、今後、上昇に転じる公算が大きい。

一国における「働ける人の数」は決まっているのだから「完全雇用状態を経て減少に至る」こと自体は何ら不思議ではない。米景気の拡大局面は10月で125か月目に突入しており、これまでの過去最長記録(120か月)を更新中である。

かかる状況下、「働きたい人が全員働けている状態」(≒完全雇用状態)に直面し、雇用統計のヘッドラインが徐々に弱くなってくることは必然の展開でもある。

問題はそこまでの状況に至っているのに平均時給が騰勢を強めることなく、むしろ失速の兆候すら出始めていることだ。

「失業率の低下」と「物価の下落」

昨年まで利上げ局面にあったFRBはこうした完全雇用とも言える労働市場の状況を踏まえ、「非線形に賃金が上昇してくる恐れ」も念頭に利上げを敢行していたが、その恐れはまだ顕現化しておらず、利上げ局面は終了、今や連続的な利下げを強いられている始末である。


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上図は米国の失業率と物価基調(コアPCEデフレーター)の関係を示したフィリップス曲線のイメージだが、金融危機前には「失業率の低下」と「物価の上昇」の間に安定した関係が見られていたものの、過去5年では「失業率の低下」と「物価の下落」が安定した関係を持ちつつある。

労働市場の需給が逼迫しても賃金の上昇に跳ねず、一般物価の騰勢にも繋がらない状況であり、中央銀行として引き締めに転じるタイミングを推し量るのが非常に難しくなっていると考えられる。

9月雇用統計で最も着目すべきは(1)「NFP増加幅は減速基調にあること」、(2)「50年ぶりの水準への失業率低下」と「平均時給の失速」が同時に起きたことであり、「思ったより悪くなかった」などという抽象的な感情論で結果を糊塗すべきではないだろう。

景気に遅行する労働市場が「誰が見ても悪い」という状況になる頃には米金利やドルも新たな下値を見に行く地合いになっているはずである。現時点では「当面、米金利やドルが上がりそうにない」という見通しで備えたいところである。