競泳・池江璃花子も頼った…? がん「民間療法」の知られざる実態 すがりたくなる気持ちもわかるけど

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がんを患い、得体の知れぬ民間療法にハマる著名人の話を聞くと、「よせばいいのに」と感じる人も多いだろう。だが、もし自分が同様にがんを宣告されたら、そうした治療に頼らないと断言できるだろうか。

なべおさみの「施術」

〈NHKの#病院ラジオ(注:ドキュメンタリー番組)を見てると病気と戦ってる人たちが沢山いて、みんな強い意志を持って治療に取り組んでいて、とても勇気を貰いました。辛いことも沢山あるけど、皆さん少しずつ良くなっていくことを願います。わたしもがんばろ〉

9月16日、約1ヵ月ぶりに更新された競泳の池江璃花子(19歳)のツイッターには、「血液のがん」である白血病との闘病への前向きな姿勢が綴られていた。

今年2月に罹患を発表してから7ヵ月あまり。抗がん剤治療を経て、8月末にはディズニーランドを訪れ、9月6日には所属する日本大学の水泳部を応援するため大会会場に姿を見せた。

徐々に明るいニュースが増えてきた池江だが、最近になってコメディアンでタレントのなべおさみ氏(80歳)のもとを、治療の相談のため度々訪れていることが報じられている。

なベ氏は、がん患者などに「気」や「パワー」を送り病気を根絶する能力を持っているとかねてから公言している人物だ。

著書の中でも、ソフトバンクホークス会長の王貞治氏をはじめ、多くの人々に「施術」してきた過去を披露している。

なべ氏の施術の仕組みは〈病巣に存在している悪きものの本質を、一度私の体に移動させて、それを私は滅してしまう〉(『スター万華鏡』)という、にわかに信じがたいもの。

だが、池江に限らず、がんに罹った著名人たちがこうした常識を超えた治療法に頼る様子がたびたび伝えられてきた。

昨年8月、乳がんで亡くなった漫画家のさくらももこさん(53歳没)は、「波動を利用して難病を治療する」という「バイオレゾナンス療法」(週1回の通院で約2万円)を熱心に試していたという。

また、'17年に乳がんで亡くなった小林麻央さん(34歳没)が通い続けていたのは、「高温の水素風呂に浸かるとがん細胞が消える」という謳い文句の「水素温熱免疫療法」を売りにするクリニック(週1回の通院で約3万円、現在は閉院)だった。

いずれも、なべ氏の施術と同じく、科学の常識からは大きく外れている。

「基本的には、『保険適用になっていない』=『がんに効く治療効果は証明されていない』と考えたほうが無難です」(日本医科大学武蔵小杉病院腫瘍内科教授の勝俣範之氏)

確かにそうだろう。その一方で厚生労働省が'05年に発表した調査では、がん患者の44.6%が、何らかの補完代替医療(民間療法)を利用していることが明らかになっている。実に2人に1人は民間療法を利用している計算だ。

民間療法市場は約1兆円

いまや、すべてのがんをあわせた場合の「5年生存率」は6割を超え、「がんは治る時代になった」と言われる。だが、裏を返せば、4割の患者は、現在の医療では進行を食い止められていない。

また、抗がん剤治療は強い副作用を伴うため、苦しみに耐えられない場合や、再発・転移に怯える患者は他の治療法を模索するようになる。そうしてたどりつく先が、こうした民間療法なのだ。

その種類は、免疫細胞療法や温熱療法といったものから、漢方などの伝統的な東洋医療やアガリクス茸などの健康食品を利用したものまで数多存在する。

市場規模は'05年の時点ですでに1兆円に近く、がん患者やその家族に高いニーズがあることを物語っている。

こうした状況に、心ある医者は胸を痛める。

「標準治療と聞くと、『並の治療』というイメージになりがちですが、実際には『標準』という言葉は『Standard』の和訳で、『最高の、最良の』という意味があります。

保険が適用される治療こそ、現時点で政府・厚生労働省が承認した『べストな治療』なのです。

ところが、そうした科学的に効果があると承認された治療や医薬品は、法的な縛りがあるため誇大な広告は打てません。

いっぽう、自由診療の場合、『がんが縮んだ』とか『消えた』など宣伝する書籍やホームページが野放しになっている。そのため、民間療法があたかも標準治療よりも効果があるのではないかと思い込んでしまうのです」(前出・勝俣氏)

実際、患者の「がんが快癒した」とホームページで謳っているのが、'15年に亡くなった川島なお美さん(54歳没)が拠り所にしていた「ごしんじょう療法」を施術する「貴峰道」だ。

同療法を主宰する「日本貴峰道協会」のパンフレットには、同会の患者として作曲家の三枝成彰氏や、指揮者の小澤征爾氏、デザイナーの高田賢三氏ら著名人の名前が並ぶ。

かつてがん性リンパ管症と闘い、'09年に亡くなったミュージシャンの忌野清志郎さん(58歳没)が、様々な民間療法を試した末に頼ったのも、この療法だった。

川島さんが亡くなった当時も話題になったように、「金の延べ棒」で体を擦り、邪気を払うことで「気」の流れを良くして様々な病気を癒やすというのが同療法の仕組みだ。

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ホームページで紹介されている症例によれば、スキルス性の胃がんにかかり、「手術は不能。化学療法も期待できない」とされた50代の患者が、ごしんじょう療法を受け続けたことで、次第にがんが縮小し、終いには消滅したという。

事実であれば、驚くべき「奇跡」だが、いったいどのようなメカニズムでがんが消滅したのかについては、一切説明がない。施術料金は1回約1時間程度で1万1000円とさほど高額ではないためか、「予約は先々まで埋まっている」(同院)という。

当然、多くの医師はこうした民間療法のがん治療効果に極めて懐疑的だ。

'18年に雑誌『AERA』が現役医師に行ったアンケート調査では、「民間療法は有効」と答えた医師は553人中わずか11人しかいなかった。

「試せば助かるかも」

科学的な根拠が証明されていないうえ、医師たちも推奨しない治療が、なぜこれほどがん患者たちを惹き込むのだろうか。

医療法人社団鉄医会理事長で血液内科が専門の久住英二医師は、「免疫療法を筆頭に、民間療法に『がんを治す効果』があるとは思えない」と前置きをしつつも、そこに救いを求める患者たちの心境に一定の理解を示す。

「意図的に騙そうとしている悪質なケースは別として、民間療法を行っている多くの医師や施術者は『自分たちの治療法には効果がある』と心から信じている。

そういう人々から熱心に説明を受けることで、がん患者は『治す方法はあるんだ』という希望を見出しやすくなるのでしょう。

とりわけ、標準治療の現場で『これ以上やりようがない』と医師から率直に告げられた患者の場合、『自分にもまだ闘う方法があるのだ』と、希望を感じるのは無理からぬことです」

また、代替医療に詳しい島根大学医学部附属病院臨床研究センター教授の大野智氏は「家族が民間療法を薦めるケースも多い」と語る。

「本来は、事前に標準治療の医療現場で医師に相談してもらうのが一番良いのですが、主治医と患者さんの間で十分なコミュニケーションがとれていないと、『そんなことを話したら先生に叱られるのではないか』と遠慮されてしまう。

こうした状況が、患者さんや家族を代替医療に走らせる一因になってしまっているところは否定できません」

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'14年に膀胱がんを告知された元ボクサーの竹原慎二さん(47歳)も、いろいろな民間療法を経験した一人だ。

「リンパ節に転移して、医師から『ステージ犬悩念の場合、余命1年』と宣告され、頭が真っ白になりました。あのときの絶望感って、本当にどうしようもないんです。

インターネットで調べると膀胱がんのステージ犬5年生存率が20%とか書かれている。『絶対無理だ、俺死ぬんだ』と思い込んでしまい、体から力が抜けてうつのような状態になってしまった」

不安に苛まれていた竹原氏が出会ったのが、「免疫細胞療法」だった。

これは、がん患者の体内から採取した免疫細胞を加工して活性化させてから点滴で戻し、がんを攻撃させるというもの。現状、「効果があったという報告はなかなか出ていない」(前出・久住氏)が、竹原氏にとっては、この治療が輝いて見えた。

「本を読んでいたら『免疫細胞療法でがんが消えた』という患者の体験談が書いてあったんです。治療費を見ると、保険適用外なので1クール12回で500万円近くかかるのですが、どうにかすれば工面できない金額でもない。

何度も何度も食い入るように読んでいるうちに、だんだんと『これを試せば自分も助かるんじゃないか』という気持ちになってくるんです。

女房に、『おカネがかかって悪いけど、やっていい?』と相談したら、『いいよ。いいよ。また体を戻して頑張ろう』って言ってくれて、試すことになりました」

たとえ奇跡だとしても

結局、標準治療も受けていた竹原氏は、手術で膀胱を全摘出し、発見から5年たったいまも転移は見られていない。

「正直、大枚をはたいて受けたあの免疫細胞療法に効果があったかどうかはわかりません。でも、後悔はありません。

詳しい人たちからは『エビデンスがないからやめたほうがいいよ』と何度もアドバイスをもらいました。それは自分でもわかってるんです。でも、当時の僕の心理状態では、すがれるものには何でもすがる他なかった。

あるときは、おふくろが連れてきた気功の達人の施術を受けたこともありました。体を触られて、『パワーを送ったからもう大丈夫だ』なんて言われて。

『そんな訳あるか』と頭のどこかでわかっているのに、『もう大丈夫』というその一言が、涙が出るほど嬉しかった」

このまま標準治療を受けていても治る見込みは極めて薄い。しかし、目の前にある未知の療法なら、たとえ0.01%の確率でも現代の医学では説明できないことが起きるかもしれない。そして、その万に一つの「奇跡」が起きるのは自分自身かもしれない。

先の見えない治療の不安のなかで、患者や家族が、効果の不明な民間療法にすら希望を見出そうとする気持ちを、第三者が訳知り顔で批判することは容易い。しかし、その言葉は彼らには届かない。自分や家族の命がかかっているのだ。

「結局、『座して死を待つより、病気に対して何とか闘い続けたい、生きながらえたい』という気持ちが、これだけがんに効果がないと言われている民間療法を試す人が減らない理由です。

折れそうな心を支えながら、なんとか生きている患者に『その治療は効かないですよ、やめなさい』と言っても『じゃあ、代わりにあなたが救ってくれるんですか』という話になってしまう。もはや理屈ではなく、気持ちの問題だからこそ難しいテーマです」(前出・久住氏)

民間療法に頼るにせよ、頼らないにせよ、一番大切なのは、自分も家族も悔いの残らない選択をすることだ。

「週刊現代」2019年9月28日号より