発症頻度第2位、実は「原因不明」とされていた「めまい」の正体 ふらつきが怖くて電車に乗れない

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めまいがする病気といえば、有名なのは「メニエール病」だが、実は一番多いのは「良性発作性頭位めまい症」だ。そして2番目は…なんと、2017年の暮れまで「原因不明」だった病気がランクインする(※1)。原因も治療法もわからないまま、途方に暮れていた人が、あなたの傍にもいるはずだ。あるベテラン編集者が体験した事例と、「原因不明」の疾患を数多く診ている千葉大学医学部付属病院 総合診療科の生坂政臣教授へのインタビューを紹介する。(事例は、個人のプライバシー保護のため、本人が特定できないよう変更を加えています)

突然ぐるぐると目が回って

椅子から立ち上がろうとした瞬間、目の前がぐらりと傾いたように感じ、ベテラン編集者のN氏(男性・54歳)はデスクに手をついた。かろうじて転倒をまぬがれ、膝から床に崩れ落ちる。

(立ちくらみか。このところ風邪気味で熱もあったのに無理したからだろうか)

同僚たちが驚いて集まってきた。大騒ぎはしてほしくないので、急いで立ち上がろうとしたがダメだった。遊園地の回転するアトラクションのようにぐるぐると目が回る。あの手の乗り物は苦手だ。こみ上げる嘔吐をこらえ、横になる。

「救急車を呼びました。しっかりしてください」

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搬送されたのは、会社の近くの総合病院だった。

「前庭神経炎(ぜんていしんけいえん)ですね。身体の傾きの感覚を脳に伝える前庭神経に異常が生じると、傾きの感覚がおかしくなり、めまいが起こります。どうして炎症が起きるのかはよくわかっていませんが、ウイルス感染や血管障害のせいではないかと言われています。けれど、はっきりとしたことは分かっていません。ただ、多くの場合、風邪を引いた数日後に起こるので、ウイルス感染や感染後の炎症と考えられています」

聴力検査、温度眼振検査、頭位眼振検査、血液検査に加え、MRI検査も受けた後、医師からこう診断を聞かされた。

「つらいめまいは明日か明後日ぐらいには治まるでしょう。その間は入院していただきます。退院後、1週間もすれば、めまいは大体消えますよ。でも、ふらつきやぐらぐらする感じは数ヵ月から1年以上、続くこともあります。リハビリも必要ですから、気長に治しましょう。しっかり治せば、再発はまずしません」

※1 めまい専門医療機関の統計

自動車や電車に怖くて乗れない

医師の言う通り、ぐるぐると目が回る、回転性のめまい(※2)は3日ほどで治まった。だがふらふらする感じはいつまで経っても消えない。数秒〜5分以内のめまい発作が一日に何回も繰り返し起きる。左を向く、上を向く、立つ、歩くといった動作をするとひどくなるが、寝転んだり、座っている分にはふらふらしない。外出はできるが、めまいがいつ起きるか分からないため、自動車や電車には怖くて乗れない。

※2 めまいには、自分の周囲がグルグル回っているように感じる「回転性めまい」と、フラッとしたり、船に乗って揺られているような感じがする「非回転性めまい」がある。いわゆる立ちくらみ、一瞬の失神感も非回転性めまいに含まれる。

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そのまま3ヵ月が過ぎたあたりから主治医に対する不信感と、このまま治らないのではないかという焦りが募り、N氏はべつの医療機関を受診するようになった。

めまいは耳鼻咽喉科の領域なので、まずはその専門病院へ。そこでは「メニエール病の疑いあり」ということで、前庭神経炎とはべつの薬を処方された。めまいを得意とする大学病院の専門外来では、原因不明の「めまい症」と診断され、漢方薬を処方された。結局、5ヵ所の病院を回ったが、診断名が変わり、処方される薬も変わったが、症状は変わらず。藁にもすがる思いで、今度は知人が紹介してくれた遠方の鍼灸院を訪れた。

「1年はかかりますが、治りますよ」

鍼灸師に励まされ、週4回のペースで、教えられたツボに妻の手でお灸を施す治療を開始した。1ヵ月に一度は飛行機に乗り、鍼灸院で診察を受ける。しかし、効いているという実感はまるでないまま、気が付けば発症から1年以上が経過していた。

(俺の人生はこのまま終わってしまうのか。定年後にやりたいこともたくさんあったのに、こんなんじゃ何もできやしない)

時折湧き上がる絶望感と闘いながら、なんとか自分を鼓舞し、N氏はPCで調べたり、知人の助けを借りて病気を治す術を探し続けた。

そうしてようやくたどり着いたのが、千葉大学医学部附属病院 総合診療科のセカンドオピニオン外来だった。

「Nさんは、持続性知覚性姿勢誘発めまい(以下PPPD)です。2017年にめまいの国際学会が新たに発表した慢性の病気です。従来、原因不明とされていためまいの大部分がこれだと考えられつつあります」 

「謎の病気」に苦しんで

「PPPDは、まだあまり知られていませんが、患者さんは非常に多いと思います。実際、当科外来でめまいを主訴とする患者さんでは一番多い疾患です」

そう語るのは、千葉大学医学部附属病院 総合診療科の生坂政臣医師。同科は、謎の病気に苦しむ患者が頼る”最後の砦“として知られている。

生坂医師にさらに詳しく聞いてみた。

千葉大学医学部附属病院 総合診療科 生坂政臣医師

――PPPDとはどのような病気ですか?

生坂:何らかの急性めまいに続いて起きてくる、慢性的な持続性のめまいです。発症のきっかけは耳石のずれ(良性発作性頭位めまい症)や炎症(前庭神経炎)など様々ですが、慢性化した時点(回転性から非回転性のめまいになった時点)で、耳石のズレや炎症は改善しているにもかかわらず、症状が続いているのがこの病気の特徴で、病態解明が待たれるところです。

――2017年に診断基準が定められるまでは「謎の病気」だった?

生坂:日本では、メニエール病や良性発作性頭位めまい症、前庭神経炎、頸性めまい、心因性めまいなど、日本めまい平衡医学会が示している16のめまい疾患のいずれにも合致しない場合に「めまい症」と診断されてきました。つまりめまい症は、診断が付かなかったことを意味します。診断が付かなければ原因はわからないし、治療法もありません。当科には、気のせい、年のせいと片付けられ、困り果てて来院される方が多いです。

――PPPDの患者さんはどのくらいいるのでしょう?

生坂:めまいを診る専門機関では、良性発作性頭位めまい症に次いで多い(15〜20%)ことが分かっています。

治療法はあるのか

――診断はどのように行われるのでしょう?

生坂:以下に示す診断基準5つを全て満たす場合に、PPPDと診断しています。

(1)浮遊感、不安定感、非回転性めまいのうち1つ以上が、3ヵ月以上、ほぼ毎日認める。
(2)持続性の症状を引き起こす特異的な誘因は存在しないが、「立位」「特定の頭位によらない動き」「動いているものや複雑な視覚パターンを見たとき」の3つの状況で増悪する。
(3)他の神経疾患や疾病、心理的ストレスによる平衡障害が先行して発症する。
(4)苦痛が強く、 機能障害を引き起こす。
(5)他の疾患では説明がつかない。

――治療法はあるのでしょうか?

生坂:あります。この疾患概念は従来の恐怖性姿勢めまい (phobic posturalvertigo:PPV)と類似(これを包括)した概念であり、従来当科では、類似例をすべてPPVと診断し、治療は当科または心療内科で認知行動療法と抗不安薬ないしSSRIで対処して来ました。

ただ実際には恐怖症の要素が少ない場合もあり、そのような症例は現在、PPPDとして、治療も認知行動療法+SSRIで対処しています。

――2017年に新しい疾患として発表されて以降、「原因不明」ということで千葉大学に紹介されてくる患者さんは減ったのではないですか?

生坂:それが、減っていないのです。PPPDどころかPPVすら一般医はもちろんのこと専門医にも浸透しているとは言えない状況です。患者さんの多い疾患ですので、医師はもちろん、一般の皆さんにも、この疾患に関する知識を積極的に広めていかなくてはならないと感じています。

めまいは、生命に別条はなくとも、QOL(生活の質)を著しく低下させるため、当事者にとっては死活問題になる。発症頻度が高いにもかかわらず、これまで「原因不明」とされ、治療されてこなかったPPPDに診断名が付き、治療できることが分かったら、救われる人の数は恐らく、医療界が想定している以上に多いに違いない。ひとりでも多くの患者さんをPPPDに理解のあるめまいの専門医に繋ぐべく、読者のみなさんにもぜひ情報のシェアをお願いしたい。

生坂政臣(いくさか まさとみ)
千葉大学 医学部附属病院総合診療科科長。同大学院医学研究院診断推論学教授。同医学部付属病院副病院長。1985年、鳥取大学医学部卒業。東京女子医科大学大学院博士課程、アイオワ大学家庭医学レジデント修了後、東京女子医科大学助手、聖マリアンナ医科大学講師、診療所副院長などを経て、2003年より現職。米国家庭医療学会認定専門医、日本内科学会総合内科専門医、日本内科学会指導医、日本プライマリ・ケア連合学会認定プライマリ・ケア認定医・指導医。