過剰な薬、不要な手術…「人生100年時代」の病院がやめるべきこと このままでは財政破綻が待っている

写真拡大 (全4枚)

人生100年時代、身体と心の健康を保ったまま、寿命をまっとうするにはどうすればよいのか。誰もが気になる問いに答えるのは、老年医学の専門家で、著書『「人生100年」老年格差』がある和田秀樹氏だ。現在の日本で行われている、「過剰な医療」に警鐘を鳴らす和田氏。財政破綻を防ぐためにも、病院が今すぐやめるべきこととは……。和田氏がタブーに斬り込む。

世界の医療はこんなに違う

人生100年時代における病院像を考えるうえで、まず、現在の諸外国の高齢者医療の現場がどうなっているかをご紹介したいと思います。

Photo by iStock

アメリカの老年医学は、その教科書や論文をみても、非常に進んでいることがわかります。しかし、その進んだ医療を受けられるのは、おそらく人口のわずか5%ほどです。

医療費がとても高く、年寄りになってから病院に入れるのは富裕層だけなのです。金を持っている人は医療が受けられるが、そうでなければ受けられないということが、はっきりしているのがアメリカ社会です。

一方でヨーロッパでは、高齢者には原則、医療をやりません。たとえばスウェーデンの介護施設で、高齢者の口元にスプーンを持っていっても、そこでもう食べなければ、生きる意志がないとみなされます。

高齢者が肺炎になったり、脱水になったりして食欲がガクッと落ちることはよくありますが、そうなると、そこでもう寿命だと判断されるのです。

しかし日本であれば、老人医療が普及していますので、食べないという理由だけで、放っておかれることはまずありません。いろいろ検査をしたり、原因を調べて処置をします。

その意味では、日本ではこのままいけば、寿命の延びとともに高齢者にかかる医療費はますます増大し、国の財政をさらに圧迫することになるでしょう。

そのような医療費の増大を抑えるために、1990年代の後半に、国は高齢者の長期入院に対して、医療費を定額制にしました。いろいろな医療処置をしても、決められた額しか、国から病院に支払われないようにしたのです。

薬を減らすと健康になる?

さらに現在は、外来においても、定額制を導入したらどうかという意見も見受けられます。

Photo by iStock

しかし、入院と違って通院の場合、患者をひとつの病院だけにかかるように強制することはできません。

内科の医院で血圧の薬をもらっている人が、別の整形外科医院で腰痛を治療してもらい、眼科の医院で白内障の治療をするということは普通にあることです。もし、眠れないということがあれば、精神科にかかって睡眠薬を処方してもらうこともあるでしょう。

こうなると、いくら外来を定額制にして医療費を抑えようとしても、現実的には患者はいくつもの病院に行って薬をもらったり、診てもらったりしますので、あまり効果がみられないはずです。

高齢者の医療費抑制のための本質的な解決策を考えるのであれば、そのヒントは高齢者の長期入院に対する定額制にみることができます。

この制度が導入されたとき、長期入院の老人に対して、いくら点滴をしたり、薬を出しても病院に入ってくるお金が同じになったことから、どこの病院でも患者に出す薬や注射が大幅に減って、その量が3分の1程度になったとされています。

すると何が起こったかというと、これまで薬漬けにされていた老人たちが元気になって、寝たきりの人が歩きだすようなケースがあちこちで見られたのです。

高齢者に対する薬漬けや、不必要な手術を控えれば、生活の質は向上し、より健康的になって医療費の抑制にも結果的につながると考えられます。

日本の老年医療の大きな過ち

2007年に財政破綻した北海道夕張市では、これまであった171床の総合病院が閉院し、19床の診療所だけになってしまい、市内にCTやMRIが1台もなくなりましたが、市民の平均寿命が下がることもなく、心筋梗塞やがんの死亡率がむしろ減ったことで注目を集めました。

Photo by iStock

いままで私たちが持っていた、高齢者に手厚い医療を行ったほうが長生きできるし、健康であるという考えは、どうやら間違っているようなのです。

ただ問題なのは、高齢者に対する薬物の適正な使い方を明らかにするような大規模調査が、日本ではこれまで行われていないのです。もし、医療費増大による財政破綻を防ごうというのであれば、そういった大規模調査をまず、速やかに実施するべきです。

その調査結果によって、高齢者への薬の過剰な処方を適正レベルに改めることが解決策となるはずです。

本来であれば、すでにこのような研究が進んでいてしかるべきはずですが、日本の老年医療の学会、それもその学会のトップが製薬会社とズブズブの関係を続けてきた結果、高齢者にどんどん薬を使う方向に日本の老年医療はミスリードされてきたのです。

また、厚生労働省の役人たちも、製薬会社に天下りしたいものだから、医療大改革などするわけがないのです。実際、元役人が製薬会社の社長になるような国は、日本くらいです。

もし2000年前後から高齢者の薬剤を減らす方向に舵を切っていれば、当時で老年薬剤費が年間7兆円ほどでしたから、それを3分の1にしていたなら、年間4兆5000億円が浮きます。現在までに、100兆円近いお金を減らすことができたかと考えると、なんともやりきれなくなります。

今後はAIによる診断も?

ただ、このような医療を続けていたら、確実に財政破綻しますから、高齢者への薬剤を減らす研究は必ず始まるはずです。

Photo by iStock

そういったところから、過剰すぎて逆に高齢者の生活の質や健康レベルを落としていた医療が、今後改善されて100歳時代に見合った病院・医療ができあがっていくものと思われます。

ちなみに、未来の病院ということで考えれば、AIの進歩とも無縁ではいられないでしょう。医師会や大学医学部などの手ごわい抵抗勢力が日本にはありますが、まず、医療に導入されるとしたら、検査データの分析や、画像診断の領域が考えられます。

画像診断によるがんの見落としなどが昨今、報道されますが、AIが担うようになれば、そのようなミスはまずなくなるでしょう。

いまの医師は昔に比べて圧倒的に問診が少ないので、内科などは最初にAIに取って代わられるはずです。医師はAIの診断に、明らかな入力ミスや、患者の取り違えなどがないかチェックをしてサインするだけになるかもしれません。

人間のいいところは、経験的にちょっとおかしい、答えがあまりにも変だということがわかるところですので、なんらかのチェック機能においては、まだ医師が担うような形になるのではないでしょうか。あるいは、メンタル面の支え役としての役割が重要になるかもしれません。

少なくとも、数値の解析や画像診断においては、AIの診断に人間は間違いなくかなわなくなると考えられます。