このままでは日本の競馬はダメになる…アーモンドアイ調教師の警告 JRAは本気で凱旋門賞に勝ちたいのか

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昨夜行われた第98回凱旋門賞で、日本馬はまたしても悲願を達成することができなかった。残念な結果ではあったが、心機一転、来る10月27日に開催される天皇賞・秋を楽しみにしているファンも多いに違いない。近年稀に見る豪華メンバーが揃うと噂されているからだ。

上位人気に推されると予想されているのが、昨年の年度代表馬・アーモンドアイである。国内現役最強牝馬の名にかけて、まさに猊蕕韻蕕譴覆だ錣き瓩箸覆襪錣韻世、その調教師で、初の著書『覚悟の競馬論』(講談社現代新書/10月16日発売)を上梓した国枝栄氏が今、じつは日本競馬の行く末を案じているという。いったい、JRAの何が問題だというのかーー。

激変期を迎えている日本競馬界

近年、日本馬の進化が凄まじい。血統、馬格、スピード、フィジカル、ポテンシャル……どれを取っても、それらの進化は止まるところを知らない。私が1978年に調教助手になった時と比べると、隔世の感があるといっていい。

そうした中、私はこれまで、いかに人と馬とがより良い関係で共存するか、という部分に重きを置いてきた。

2020年の東京オリンピック・パラリンピック開催にあたって声高に叫ばれている爛▲好蝓璽肇侫 璽好鉢瓠6デ呂肪屬換えれば爛曄璽好侫 璽好鉢瓩箸覆襦いかに馬の邪魔をしないで、そのポテンシャルを引き出し、最高の走りをファンのみなさんに披露できるか。

競馬は事前の輸送状況や当日の天候、馬場状態、距離、枠順、位置取りなど、さまざまな条件で変化する。競走馬同様、レースも生きているのだ。

アーモンドアイが昨年のジャパンカップで出した世界レコードも、すべての要素が合致したからこそ、生まれたものに過ぎない。

1978年から中央競馬に身を置いてきた私はこれまで、馬主さんや騎手をはじめとする多くの競馬関係者やファンのみなさんに支えられてきた。

1990年に厩舎を開業後はなかなか重賞を勝つことができず、少なからず苦労もあったが、おかげさまで牝馬三冠を成し遂げてくれたアパパネやアーモンドアイなど多くの馬にも恵まれ、いよいよ調教師としてのゴール=定年を間近に控えるところまでたどり着いた。

そんな折、思いがけず「本を書いてみないか」という誘いを受けた。

たしかに、先述した日本馬の著しい進化だけでなく、この40年間で私たち調教師を取り巻く環境もずいぶん変わった。海外レースに挑む馬が増え、外厩も充実してくるなど、まさにいま、日本競馬界は激変期を迎えているといっていい。

そこで、私のこれまでと競馬界が抱える諸問題について記しておくには、いいタイミングだと考え、『覚悟の競馬論』を上梓した次第だ。

「詐欺師、ペテン師、調教師」!?

競馬界にはこんな言葉がある。「詐欺師、ペテン師、調教師」――。ずいぶんと乱暴な表現だが(笑)、言い得て妙だなあ、と私は思う。競争社会ゆえに夢もあり失敗もあり。酷い時には破綻も起こるのが競馬社会だ。

つまり勝てば官軍である。

もちろん、はじめから相手を陥れようとしているわけではない。しかし、一縷の可能性があれば、あの手この手で勝負を挑むのは、調教師の性かもしれない。

私にしても、絶対に走ると思った馬が、見立て違いでまったく芽が出なかったことがある。馬主に嘘をついてだましたつもりはない。逆に、期待していなかった馬が一世を風靡することもある。

馬主側も、これほどの経済動物を金儲けだけのために我々に託しているのではない。言ってしまえば余禄のなせる業である。夢を買っている――そこにあらゆるタイプの人間が集まって来るのも、競馬社会の現実である。

実は、私はそんな部分も含めて、この世界が好きなのである。馬も人もさまざまなタイプがいて、この世界で共存している。その狭間で口八丁手八丁で結果を追求し、あらゆるモノを手の内に入れて采配するのも、調教師の生業の一部分だと思っている。

そんな私たち調教師は、ふだん何を重視して馬と接しているのか、どうすれば強い馬をつくることができるのか。あるいは、このままでは日本の競馬界は衰退してしまうのではないかという問題意識や、それを防ぐための改革案について、『覚悟の競馬論』では、できる限りわかりやすく記したつもりだ。

次世代に繋げていく責任

日本の生産界は、JRA(日本中央競馬会)の莫大な売り上げがもらたす豊富な資金をもって世界中の名血を集め、すばらしいサラブレッドを生み育てている。それらサラブレッドは日本競馬界のレベルアップに貢献し、世界に誇れる競馬を築き上げてきた。JRAも競馬開催を滞りなく行い、国に多額の国庫納付金を納めている。

私たちにはこれからも、世界共通の財産であるサラブレッドをしっかりとした競馬のしくみの中で適正に扱い、その能力を競い、次世代に繋げていく責任がある。

ところが現在、JRAの現状においては、東西格差の問題や多すぎる除外馬の問題などの影響により、競馬の主役であるサラブレッドが適正に扱われていないという事態が起こっている。

まず東西格差に関していうと、2018年12月28日終了時点で、栗東(西)のほうが601勝も美浦(東)より多かった。昨年だけに限らず、過去30年間にわたって、栗東のほうが圧倒的な結果を残し続けている状況をどうにかしようと、JRAは、美浦トレセンの大規模改修計画を発表。2022〜2023年までに美浦の坂路コースの高低差を栗東並みにするというが、私にしてみれば「遅きに失した」というほかない。

東西格差は、もはや格差が格差を生み出す複合的な問題にまで発展しており、単に坂路コースを改善したからといって、一朝一夕には解決できない問題だからだ。

また、力はあるのに「運がない」という理由だけで除外される馬が多い現状は、本当の意味で、レースの猊兵訴歉抬瓩なされているとは到底いえない。本来なら抽選は出走優先順位を決める、最後の手段であるべきだろう。

想像してもらいたい。メジャーリーグの大谷翔平選手の場合、故障や不調などを理由に欠場することはあっても、実力が抜きんでていて絶好調なのに、抽選に外れて試合に出られない、ということはまず起こらない。

ところが、競馬ではそれが起きている。

いずれにせよ、馬にしてみれば、能力発揮の機会を十分得られなければ、正当な評価を受けることができない。これは馬に対したいへん失礼なことであり、競馬の世界においては重大な損失でもあるともいえよう。私が危惧するのは、まさにこの点なのである。

JRAは国に認められた唯一の競馬主催者であり、競合する同業他社が存在しない。ファンは地方競馬を除けばほかの商品=レースを選択することができないため、市場原理が適正に働いているとは到底いえない。

JRAにしてみれば、よりよい商品を提供せずとも、経営危機に陥ることはまずない。だからこそ事なかれ主義がはびこり、商品の品質保証の根幹に関わる東西格差や除外馬の問題などが何十年も放置されているのだろう。

JRAは、本気で凱旋門賞を勝ちたいと思っているのか。

本書によって一人でも多くの人々に、私の思いを共有していただきつつ、今後さらに日本の競馬界が発展していくことを強く願っている。