日本人には縁がないといわれた前立腺がんだが、いまや男性が罹患するがんの2位だ。しかも65歳以上の高齢者に限定すると、胃がんを引き離して全罹患者数のトップであり、高齢者が最も恐れるがんの一つであることは間違いない。

 急増したのはここ十数年だが、なぜこれほど増えたのか。原因がわかれば予防の手立てもあるのではないか。そこで、前立腺がん治療の第一人者といわれる順天堂大学大学院泌尿器外科の堀江重郎教授にうかがった。

男性は40歳を過ぎたら牛乳を控えるべき

 前立腺がんの発症に大きな影響与えているのが動物性脂肪と言われる。その中でも日本人が日常的に摂っている食品が牛乳で、国民一人当たりの牛乳消費量と前立腺がんの罹患率は比例しているのだ。

「コップ1杯の牛乳には、ベーコン5枚分もの脂肪が入っています。2杯だとベーコン10枚です。成長期には必要でしょうが、男性は40歳を過ぎたら牛乳を控えるか、無脂肪乳か低脂肪乳を飲むべきです。PSAの数値が高い人ならなおさらそうすべきです」

 さらに予防効果のある野菜を食べなくなったことも前立腺がん増加の理由だという。

「予防に最も有効な食品にアブラナ科の野菜があります。ブロッコリー、小松菜、大根、キャベツ、カリフラワー、カブ、ワサビなどですね。昔は大根やカブを味噌汁に入れたりして日常的に食べましたが、今はあまり食べなくなりました。それに、同じ野菜でも昔より栄養価が減っています。例えば、昔の小松菜は苦くてまずかったのですが、あの苦みに予防効果がありました。食べやすくなった代わりに、予防効果が減ってしまったのです」

イタリア人の前立腺がん発症率が低い理由

 カルシウムを摂るために牛乳を飲んでいる方は多いが、実はアブラナ科の野菜にはカルシウムがたくさん含まれていて、特に小松菜は牛乳の約1・5倍も含まれていることはあまり知られていない。

「アブラナ科の野菜以外に予防効果が高いのがトマトです。例えばフランスとイタリアは隣りあっていますが、前立腺がんの発症率はイタリアの方がはるかに低い。なぜなら、フランス人は牛乳とバターをよく使うのに対し、イタリア人の食事はトマトとオリーブオイルだからです。トマトの影響は大きいですね。では、最近のプチトマトやシュガートマトでもいいかというと、それはクエスチョンですね。手に入れるのは難しいかも知れませんが、露地栽培のトマトがベストです。ちなみに私は一日に1本、無塩のトマトジュースを飲んでいます。

 その他に魚の油もいいのですが、何といってもいいのは大豆です。豆腐とか納豆、お味噌汁。つまり味噌汁と焼き魚とご飯のような和食を食べている人は前立腺がんになりにくいのです。昔の食事は基本的に味噌、魚、野菜、貝類、菜っ葉でした。これが前立腺がんに予防的効果があったのです。

 もちろんこれらの食材は、若い時から食べるに越したことはないのですが、高齢になってから食べても効果はあります」

亜鉛不足ががん化の引き金に

 今の野菜は昔にくらべて亜鉛が減っているうえ、貝類を食べなくなったことなどから、現在の60歳以上の人の8割が亜鉛不足だといわれる。

「前立腺は精液の成分を出す以外に、尿道や前立腺が炎症を起こさないように殺菌する物質を出しています。この殺菌する物質を生成するために大事なのが亜鉛なのですが、これが劇的に不足すれば炎症が起こりやすくなります」

 炎症が多発すればがん化の引き金になる。

 では、前立腺がんと診断されたら、食べてはいけないものはあるのだろうか?

「がんが進行した人はフライドチキンを食べている人が多い」

「牛乳のような動物性脂肪は避けた方がいいのはもちろんですが、焼いた鶏の皮はよくないですね。アメリカの疫学データですが、がんが進行した人はフライドチキンを食べている人が多いと分かっています。日本でいえば焼き鳥の皮ですね。ささみはいいのでしょうが、フライドチキンや焼き鳥の皮は避けた方がいいと思います」


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 その他に、予防効果があるとはっきりわかっているのが運動である。「がんが転移している方でも、歩く距離が長い方は長生きする傾向があり、 一日1万歩ならさらに効果的」だそうだ。

「さらに、食事やストレスマネジメントなど(がんであることの不安を誰かに聞いてもらうなど)で日常の生活環境を変えると、前立腺の遺伝子の働きも変わってきます。その変化は、当然、体に影響を与え、時には免疫力が高まってがんの進行が遅くなったり、治ってしまうこともあるのです」

 堀江教授の予防法はそんなにむずかしいことではない。まずは日本人が本来食べていた和食に戻し、適度な運動とできるだけストレスフリーの生活に戻す。これが前立腺がんにならないための最強の予防法なのだ。40歳以上の男性諸君、前立腺がんになりたくなければ、日常生活を変えるしかないだろう。

 上記、「前立腺がんを防ぐ食事」以外にも、前立腺がんになってからの進行を抑える「ストレスマネジメント」、正しい治療の選び方、信頼できる医師の見分け方についても詳述した堀江重郎先生のインタビューは、「文藝春秋」10月号に掲載されている。

(奥野 修司/文藝春秋 2019年10月号)