服が似合うかどうか根本的に押さえておくべきことは?(写真:monzenmachi/iStock)

「とても高価なジャケットのはずなのに、これを着ると、どうにもカッコ悪いんです」

東京都内の有名企業に勤める40代男性の井川浩一さん(仮名)から相談を受けたのは今年8月末です。クールビズスタイルがそろそろ終わる時期に、タンスから取り出してきた秋冬用のあるジャケット。井川さんが羽織ってみたところ、奥さんから「そのジャケットを着ると、すごくおじさんに見えるね」と言われてしまいました。

改めて、鏡の中の自分を見ると、確かにそのとおりでなんだかダボダボ。実は大変お世話になった人から1年半ほど前にもらった贈り物で、詳しい値段こそ聞いていませんが、素材やデザインなどの要素から考えて、少なくとも10万円前後の値札がついていてもおかしくないほどの高級な作りの品なのに、です。

高級な作りでもカッコ悪く見える、致命的な要因は…

「もしかしたら色や柄が合っていないのでしょうか?」

井川さんは私にこう切り出したのですが、実際にジャケットを羽織った姿を見させてもらったところ答えがはっきりしました。致命的な要因は「サイズが合っていなかった」ことだったのです。

色や素材、デザインは服が似合うかどうかについて、もちろん大切な要素の1つではあります。目に入りやすいうえに、購入時に比較する際には非常にわかりやすい。

ただし、それよりも何よりも服が似合うかどうかで、最も重要なのは自分の体に合ったサイズかどうかなのです。逆に言えば、どんなに美しいデザインや色、また有名なブランドであったとしても、サイズが合わなければどんな服を着てもカッコ悪くなってしまいます。

一方で、自分の正しいサイズを選ぶのは、そんなに簡単ではありません。それは自分の体に合っているという状態を判断する基準が、不明瞭であることが原因です。

例えば、国内最大のファッションECサイト「ZOZOTOWN(ゾゾタウン)」がPB(プライベートブランド)事業の展開を狙って配布した採寸用のボディスーツ「ZOZOスーツ」がなぜあれだけ多くの反響を得たのかを考えてみましょう。

ZOZOスーツは生産トラブルに伴う配送遅延などがあり、ビジネス的にはあまりうまくいかなかったと指摘されていますが、そこには「ZOZOスーツでサイズを測れば自分に似合う服が失敗なく手に入るのではないか」「自分に似合う明確なサイズ基準が手に入るのではないか」という期待があったはずです。

ところが、ZOZOスーツの配布後に起きたことは、「便利だ」「ZOZOスーツで測ったうえで注文した服が自分にピッタリだ」などという賞賛の声も聞かれた一方で、計測データの精度の低さが指摘されたり、届いたプライベートブランドのオーダースーツが体に合わなかったりなど批判も見受けられました。

数値だけでは完璧には判断できない

私自身、とても面白い試みだと思っていましたし、AIにもまだまだ課題はあるかもしれませんが、サイズ問題へ大きな一石を投じる出来事であったと感じています。

ZOZOスーツを通じて明確に浮き彫りになったことは、サイズというのは明確に数値化されていますが、人間の体は直線だけではなく曲線もまじった立体で構成されているため、数値だけでは自分の体に合う服かどうかを完璧に判断できないという事実です。

だからといって、AIの完全なる発達を迎えるまで、我慢するというわけにもいきません。

今は数値だけを絶対視するのではなく、着用した姿を確認するときに、自分に似合うという状態を判断できるような基準を持つことが最良の選択です。

実際に、井川さんがジャケットを着てきたときの写真も参考にしながら見ていきましょう(なお、外部配信先では写真を全部閲覧できない場合があるので、その際は東洋経済オンライン内でお読みください)。


頂いたものをそのまま着用した状態(筆者撮影)

体に合うジャケットを選ぶのにまず注目すべきは肩です。着用した際に肩幅が大きすぎると肩先が落ちてしまい、ハの字型のシワができます。これは肩幅が合っていなかったり、なで肩のために肩先点が低くなったりするケースが考えられます。どちらが原因か判断が難しいときもあるので、そのときはアパレル店員などのプロや専門家に見てもらうといいでしょう。

肩幅は指が1本入るか入らないか程度のゆとりが丁度いいサイズ感になります。指がまったく入らない場合は逆に小さすぎて、二の腕上部にシワが出たり、腕が動かしづらくなるため窮屈に感じるので注意が必要です。

横からも必ずチェックを!

次に胸回りとお腹回りをチェックしてみます。

ここが大きい場合はやたらと余裕があってスカスカしたり、横から見たときに必要以上にお腹が出ているように見えたりします。とくに横から見ると判断しやすいので、着用した状態で鏡を見るといいでしょう。

見るポイントは背中とお腹の余り具合と、肩から腕回りのダブつきがないかです。正面から鏡を見るだけでは、判断がつかないため必ず横からもチェックすることが重要です。

このとき、背中側のダブつきがないかどうかに注目します。適切なサイズを選んでいる場合、背中からお尻にかけてのラインは直線でストンと真っすぐに落ちるか、背中のカーブに合わせて美しいS字ラインを描いています。

大きすぎる場合は、背中側が本来の自分のお腹回り以上の大きさに出っ張って見えます。横から見たときにアルファベットのAのように広がってしまっている状態です。完全にオーバーサイズなので、注意深く見てください。

お腹回りは前ボタンを留めて、自分の軽く握ったこぶしが1つ入るくらいが適度なゆとりです。逆に小さすぎるとボタンの両サイドに負荷がかかるような、引っ張りジワができます。ボタンが外れる原因になってしまいます

井川さんのジャケットで不要な余り部分を、針を使用して留めてみました。すると不要な余りがかなり見受けられました。


サイズの合わない部分を詰めます(筆者撮影)

最後に袖の長さと、着丈をチェックしましょう。袖の長さはジャケットを着たときに手をおろした状態で、下に着たシャツの袖が1〜1.5センチ覗く長さがジャストサイズです。これより長いとやぼったく見えてしまったり、だらしない印象になってしまったりします。逆に短すぎるとシャツの袖が大きく出すぎてきれいに見えないので、こちらもバランスが重要です。

着丈はお尻が丁度隠れる長さがクラシックで正統とされていますが、現在はそれよりも1〜2センチ短い程度がいいバランスになります。お尻とももの境目より下になると、着丈が長すぎて足が短く見えてしまいます。また、お尻が出てしまうようでは着丈が短すぎてアンバランスな印象を与えてしまいます。

「お直し」をするという選択肢も

しっかり選んで購入したとしても、体型による変化は避けられないことがあります。また、頂き物や親からのお下がりなどを着ることもあるかもしれません。ジャケットが体に合わない場合は、肩幅や身幅を詰めるなどの「お直し」をするというのも選択肢の一つになります。

井川さんのジャケットを「お直し」してみたところ、リメイク後のジャケットはかなり体にフィットするサイズになりました。井川さんによれば奥さんはもちろん、外で着ても「似合うね」という評判を聞くようになったそうです。


「お直し」後の状態(筆者撮影)

お直しする箇所が多くなると、その料金は決して安くはありませんが、金額の多寡にかかわらず、思い出があったり、大切だったりするのにサイズが合わない服をよみがえらせることができるのです。

イギリスのチャールズ皇太子もスーツや靴をお直しして愛用し続けており、日本のみならず世界中でモノを大切にする文化が見直されています。ファストファッションでつねに新しいものを身に着けるのもいいかもしれませんが、時には愛用品をお直ししながら大切に身に着けていくのも、素敵な選択肢になりえます。