韓国・ソウルの光化門広場


(古森 義久:産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授)

「日韓対立のそもそもの原因は、米国政府が日本を韓国よりも大切にしすぎたためだ」――米国の歴史学者がこんな独自の見解を表明した。「だから日韓両国は米国を非難すべきだ」とも主張する。

 この歴史学者は一貫して韓国を支援し日本を非難してきた人物である。ところがこの見解には日本への非難がない。現在の日韓対立の原因を日本側に帰することは、韓国びいきの学者にとっても難しくなったということなのか。日韓対立が国際的な波紋を広げ、米国の対応にも注目が集まるなかでの米側の面白い動きの1つと言えよう。

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ダデン氏と韓国の親密な関係

 この見解を発表したのは米国コネチカット大学教授のアレクシス・ダデン(Alexis Dudden)氏だ。朝鮮半島や日本の歴史を専門に研究してきた女性歴史学者である。

 ダデン氏は、日本と韓国の間での歴史認識関連の対立に関して常に日本糾弾を鮮明にしてきた。2000年の「女性国際戦犯裁判」では主宰者の1人となり、昭和天皇を有罪とする“判決”を下した枢要の活動家だった。2007年の米国下院の慰安婦問題に関する日本政府非難の決議でも推進役の一員となった。慰安婦問題では、「性的奴隷」「日本軍による強制連行」「20万人が犠牲」など朝日新聞の誤報と歩調を合わせる形で日本叩きを続けてきた。

 ダデン氏は、とくに安倍晋三首相に対しては「軍国主義者」「裸の王様」など口汚い言葉を浴びせ、「危険な人物」として攻撃してきた。

 その一方、ダデン氏は韓国政府に頻繁に助言を与え、頼りにされてきた。韓国との関係はきわめて親密であり、2015年には韓国民間機関から「安倍首相の歴史歪曲にノーを告げた」との理由で「平和大賞」を受けている。

 そのダデン氏がニューヨーク・タイムズ(9月23日付)に「東アジアでの米国の汚い秘密」と題する投稿論文を載せた。副見出しには「いま日本と韓国が衝突するのは米国が長年(日本を)えこひいきをしてきたからだ」と書かれている。

 ダデン氏によると、米国政府は1965年の日韓国交樹立の頃から日本ばかりを優遇してきたという。そもそも米国政府が日本を不当に支援しすぎ、韓国を見下してきたことが、現在の日韓対立の原因になっている、というのがダデン氏の主張である。

日韓は非難の矛先を米国に向けるべき

 ダデン氏のニューヨーク・タイムズへの投稿には、以下のような趣旨が書かれていた。

・日韓の現在の争いは、米国政府が1965年の日韓基本条約の仲介にあたり、日本ばかりを重視して、日本の朝鮮半島支配の実態や韓国側からの賠償請求の権利を無視したことがそもそもの原因だ。

・当時の米国政府担当者たちは、日本の共産化を最も懸念し、日本の立場を優先的に配慮した。一方、朝鮮民族を見下す傾向が強かった。この傾向が日韓の当時の条約にも反映され、韓国側の賠償請求権も曖昧にされた。

・米国は当時、自国の利益だけを求めた結果、日本の立場を優先して考え、韓国側の賠償請求権などを不明確にした。このことが現在の日韓衝突の真の原因となっている。だから日韓両国とも非難の矛先(ほこさき)を米国に向けるべきだ。

 ダデン氏は以上のように述べて、日本に対しては、慰安婦を依然として「性的奴隷」と呼んだほかは糾弾をほとんど浴びせていない。これは、ダデン氏としては異色の見解と言える。なぜなら、同氏がこれまで日韓間の諸問題について論評する際、日本を攻撃しないことはほぼなかったからだ。

米国は韓国を蔑視していた?

 ダデン氏は往時の米国政府の日本優先傾向を「汚い秘密」と評し、その政策の代表的な推進者として、1940年代から60年代まで米国外交官として活動したW・J・シーボルド氏の名前を挙げていた。シーボルド氏は日本占領軍のマッカーサー総司令官の政治顧問やビルマ(現在のミャンマー)大使、東アジア担当の国務次官補代理などを務め、米国政府の日本や韓国への政策形成に大きな役割を果たしたという。

 ダデン氏はシーボルド氏の回顧録から以下の記述を「韓国側への偏見」として引用していた。

「朝鮮民族は暴力に走りやすい。韓国というのは抑圧され続けてきた、みじめで貧しく、むっつりとした、いつも不機嫌な人々の国家であり、時代に取り残されてきた」

 ダデン氏によると、シーボルド氏のこの記述は、韓国や朝鮮民族に対する明白な軽蔑の表れである。1960年代の米国政府はこのように韓国を蔑視していたため、韓国の日本に対する賠償請求権を不明確のままにしてきたのだという。

あまりに無理がある米国非難

 だが、米国の日本に対する「えこひいき」が現在の日韓対立を生んだ遠因だという、以上のダデン氏の主張は、あまりに無理があると言わざるをえない。

 これまでひたすら日本を非難してきたダデン氏だが、ニューヨーク・タイムズへの投稿論文では日本の非をほとんど述べずに、米国政府の過去の態度を責め立てている。

 徹底した韓国びいき、日本叩きで知られた人物でさえ、そんな無理までしないと韓国の立場を擁護できないのだ。今回の日韓対立では、日本を悪者にして韓国側の主張を正当だとする議論の展開がきわめて難しいということだろう。

筆者:古森 義久