捕獲したイノシシを微生物で分解する発酵槽を説明する半沢さん(宮城県村田町で)

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 農産物の鳥獣被害削減に向け、宮城県村田町は全国の先駆けとなる新たな一手を打った。課題だった鳥獣捕獲後に穴を掘って埋めるという重労働を、減容化施設の導入で克服。同施設では、発酵槽にイノシシを丸ごと入れれば、微生物が分解する。同町ではイノシシの発生件数が急増し、その被害で離農する農家も出ている。同施設の導入で捕獲数を増やし、被害を減らす狙いだ。捕獲後の処理に悩む自治体は多く、同町の取り組みに注目が集まっている。(高内杏奈)

 同町は人口1万937人のうち65歳以上が約40%と、高齢化が進む。同町のイノシシの捕獲頭数は2008年はほぼ0頭だったが、14年に100頭を超え、18年には383頭に増えた。イノシシ被害を食い止めるために、16年には村田町鳥獣被害対策実施隊を発足。隊員は30人で平均年齢は67歳だ。町が許可を出し、年間を通して有害駆除に当たっているが、捕獲後の処理が重労働なことが、大きな課題となっていた。

 捕獲後は、地域資源として野生鳥獣の肉(ジビエ)として流通させるのが理想だが、加工施設が遠く、捕獲直後に食肉処理ができないなどの場合は現地埋設するしかない。同町は加工・処理施設がない。さらに町の半分が中山間地のため、重機が入れず、手作業での埋設となるケースが多い。埋設作業は、他の野生動物に掘り返さることを防ぐため、スコップで2メートル以上掘る。1時間以上かかることもあるという。

 カボチャなどを栽培する隊員の佐山芳照さん(71)は「浅く埋めると他の動物に掘り返されて腐敗臭がひどく、山の景観も損なう。処理作業は大変で体力的に限界」と顔をゆがめる。特に秋はイノシシが民家に押し入ったり、水稲被害が甚大だったりで「離農や移住を考える人もいて深刻な問題だ」(佐山さん)。

微生物が分解 処理頭数増加


 減容化施設に目を付けたのは同町役場農林課総括主査の半沢剛さんだ。自ら害獣駆除に当たろうと、13年に狩猟免許を取得。狩猟後の処理の苦労を体感し、加工処理施設などの情報を集める中で、全国的に珍しい減容化施設の存在を聞いた。施設の導入を町に提案したが、当初は「本当に分解できるのか」「臭いや人体への害はないのか」と相手にされなかった。だが諦めずに、視察や計画書を書き続けた。その間3年。国の支援事業などで費用を賄い、ようやく予算を確保することができた。

 同施設は、スクリューの付いた発酵槽にイノシシを丸ごと入れ、水を含んだおがくずと混ぜ合わせる。60度に保つことで微生物を増殖させ、分解処理を行う。1基当たり一度にイノシシ8頭を投入でき、肉は約5日、骨は1カ月で分解できる。 狩猟者は軽トラックにイノシシを載せたまま施設へ進入。イノシシの足にフックを引っかければ自動的に発酵槽に入れられる。4〜8月の処理頭数は85頭。手作業で埋設した昨年は同時期で68頭が限界だった。「穴を掘る手間もない。効率化させたことで捕獲頭数も上がっている」(半沢さん)。施設の設置は、発酵の臭いなどを考慮して100メートル内に住宅がない場所を選んだ。

 「狩猟者の負担軽減に向けてフル稼働させ、町を守りたい」と半沢さんは意欲を燃やす。