給料をアップさせるにはどうしたらいいか?(デザイン:熊谷 直美)

給料を上げたい──。ほとんどのビジネスパーソンは、そう考えているだろう。実現するにはどうしたらよいか。

究極的には2つの方法しかない。1つは今勤めている会社で自分の評価を上げ、昇給すること。もう1つは給料の上がる会社へ転職することだ。

『週刊東洋経済』は9月24日発売号で、「給料 最新序列」を特集。独自試算した各社の生涯給料をはじめ、給料アップの具体的ノウハウや方法論をふんだんに紹介している。

人手不足の中、転職市場は活況

とくに「転職する人」が、最近は増えている。2018年の転職者数は前年比5.8%増の329万人。8年連続の増加で、10年ぶりの高水準だ。背景にあるのは人手不足。一定期間(通常2カ月)内の求人数に対し、どれぐらい求職者がいるかを示す有効求人倍率でみると、2018年は1.61倍と1973年以来の高い水準になっており、多くの企業が中途採用を増やしている。


厚生労働省の雇用動向調査によると、2018年に転職した人にうち給料の上がった人の割合は37.0%で、2017年と比べても0.6ポイント上昇した。2000年以降の最高だった2014年の36.6%を上回り、最低だった2009年の25.7%より約11ポイント多い。しかも給料が1割以上アップした人が25.7%に達している。

ただし、転職すれば給料が増えるわけではない。同じ調査で2018年に転職した人のうち34.2%は給料が減少した。その割合は2017年に比べても1.2ポイント増えている。転職者が増える中で、給料を上げられる人と下げる人はハッキリと明暗が分かている。

転職で給料を上げるにはどうするか。『転職と副業のかけ算』の著者moto氏は、「転職で年収をアップさせるには、業界か職種のどちらかを、年収の高いほうに『ずらす』といい」と語る。

実際、業界によって給料水準は異なる。たとえば、『会社四季報 業界地図2020年版』を見ると、最も高い総合商社の40歳推計平均年収が1270万円を筆頭に、以下、コンサルティング(1125万円)、携帯電話事業者(817万円)、海運(798万円)、アプリ・ネットサービス(791万円)と続く。いずれも40歳で700万円台後半以上の年収を稼ぐ。

一方で、介護(418万円)や百貨店(449万円)、ホテル(462万円)、家電量販店(476万円)といったサービス・小売業界は平均年収が低く、500万円を下回っている。

厚生労働省の賃金構造基本統計調査を基に、職業別の平均年収を計算すると、航空機操縦士(2048万円)や医師(1161万円)など資格が必要な職業の年収が高いが、給仕従事者(307万円)や販売店員(330万円)などの給料は低い。年収水準の低い業界・職種にいるのであれば、「転職」が給料アップの有力な選択肢になる。

年収の高い業界への転職が給料アップの有力な選択肢

ニーズも影響する。最近は、AI(人工知能)などに詳しいITエンジニアの求人が多く、高額の給料を用意している企業が多い。

外資系企業の採用意欲も旺盛だ。ロバート・ウォルターズ・ジャパンの中島英紀インダストリー部門ディレクターは、「英語でコミュニケーションできる人材の需要は高い。最新の技術に詳しいエンジニアで、英語での営業もできれば、従来の給料の1.5倍を支払うケースもある」と語る。

では、どんな人が転職で給料アップに成功しているのだろうか。

森ユカさん(仮名、29歳)は、広告営業から大手IT企業の広報に転職した。年収に関しては、「現状維持かそれ以上。年収アップは譲れない条件」で探した甲斐があり、広報という未経験の仕事にもかかわらず、年収を600万円から670万円にアップさせた。

「前職では、広告枠を売るだけでなく、顧客企業のブランディングにも深く関わっていた」というユカさんは、もっと企業のブランディングの仕事に専念したいと考えた。そこで、広報やPRの会社に絞り込み、転職活動をスタート。広報の仕事は未経験でも、営業時代に作成したブランディングの提案資料などを面接の場に用意してアピールした。

この専門スキルを極め、独立も視野に入れる。「30代で年収800万円、最終的には1000万円を目指します」。

新田裕司さん(仮名、30歳)は、化粧品メーカーで営業職や経営戦略室の経験を経て、大手情報メディアへの転職を実現。営業職として年収は350万円から450万円に上がったが、営業の成果は自分の実力より、媒体のブランド力による部分が大きいと感じていた。そんなとき、広告代理店が募集するスポーツに関わる業務の求人広告に目が留まったという。

すぐに応募し、2回の面接を経て採用に至った。スポーツへの思いやこれまでの営業や企画の経験が評価され、年収700万円と、最初に勤めていた会社の年収の2倍にまでアップした。

「今できていることに、新しくやりたいことを加える。転職はそのための手段。そうやって得意とするスキルを積み重ねていけば、年収はおのずと上がっていく」と新田さんは自身の転職を振り返る。

キャリアアップ志向が給料アップには重要

将来のステップを見据えて転職したものの、給料アップに成功した例もある。

渡辺かよさん(仮名、32歳)は、人材サービス企業から大手商社へ転職。営業から人事に仕事も変え、年収は600万円から650万円にアップした。

ただ、「年収にはあまりこだわっていない」と話す渡辺さんは、あくまでも「選択肢を多く持つ人材」になれる仕事を探したという。人材業界と営業職は候補から外し、自発性や実行力を生かせる環境や、チャレンジしやすい土壌がある今の会社を選んだ。

そうしたキャリアを積んでいけば、連動して年収も上がっていくかもしれない。

専門性を極めたい、スキルを積み重ねたい、選択肢を増やしたい……。いずれのエピソードを見ても、給料アップだけが目的ではなく、キャリアップを図りたいという共通点が垣間見える。

最近は、キャリアアップや、職場環境を変えるためという理由で転職するケースが増えている。給料アップの成功者は、自分が会社でどう貢献できるか、新しい仕事をキャリアにどう繋げていくかというビジョンが明確に描けている。その考え方が評価されて給料アップにつながっているのだろう。

『週刊東洋経済』は9月28日号(9月24日発売)の特集は、「給料 最新序列」です。