3年前に発売してから売れ続けている紀ノ国屋のジッパーバッグ。「Suica版」や「江ノ電版」もある(撮影:今井 康一)

ふと周りを見渡すと、最近増えていないだろうか? “かわいい”ジッパーバッグ。これまでは機能一辺倒の無味乾燥なデザインのものばかりだったのに、いつのまにかおしゃれなモノが続々登場している。

メイソンジャーやジャムジャーの形をしたジッパーバッグが登場した2016年頃からじわじわと、変わった形だったり、イラストが入ったバッグが増え、いまやセリアやダイソー 、キャンドゥといった100円ショップから3コインズ、イケア、ニトリ、郵便局などにもおしゃれなジッパーバッグがずらりと並んでいる。

年間30万パック売れている

このブームを決定的にしたのが高級スーパー「紀ノ国屋」オリジナルのジッパーバッグだ。横12僉⊇8.5僂半銭入れサイズの「SS」から、横27僉⊇21僂搬腓な野菜などを収納できそうな「LL」サイズまで5種類あるバッグは、全サイズ横長の長方形で底にマチが付いているため自立する。サイズごとにジッパーの色が違い、シンプルな透明の袋に白い紀ノ国屋のロゴが入っているのも特徴だ。

これまで女性誌のみならず、男性誌にも取り上げられており、昨年1年間の売り上げは30万パック。前年より2万パックほど増え、売り上げは右肩上がりだという。紀ノ国屋は東京と神奈川でしか展開していないが、ネットやSNSで知った人が、「東京土産」として買っていくこともある。

「会社としてブロガーさんに売り込んだわけではないのですが、ユーザーさん自らが『すごくいい!』とブログなどで紹介してくれて、それを見た雑誌やテレビなどのメディアが取材、流行に火が付いたようです」と、紀ノ國屋営業部の河奥雅子氏。「紀ノ国屋の全30店舗で取り扱っていますが、メディアに出るたびにオンラインでの売り上げが伸びています。送料を負担してでも欲しいと思っていただいているようで……」。

発売から3年経ってなお、人気が衰えない理由はどこにあるのだろうか。

同社の営業本部次長・坂井睦生氏によると、ジッパーバッグの企画が持ち上がったのは2015年頃のこと。 ナショナルブランドの製造元から「ジッパーバッグが最近よく売れている。オリジナル商品を作らないか」と提案をされたことが発端だった。

それまでも食品関連のグッズを数々手がけてきた紀伊國屋は、すぐに商品化を検討。2016年にはL、M、Sの3種類のジッパーバッグを発売した。すると、初回分の2万個はあっという間に完売。生産が追いつかず、長く欠品する状態が続いてしまった。その後、ニーズに応えてSSサイズとLLサイズが加わり、2018年にはSuicaのペンギン、2019年には江ノ電デザインが登場した(江ノ電版は鎌倉店のみ販売)。

人気に火が付いた理由の1つはジッパーバッグには珍しい長方形なことに加え、サイズ展開が豊富なことにある。紀ノ国屋は当初、例えば小さいサイズは小型の野菜や果物、大きめのサイズはパスタやそうめんなど食品を収納することを意図して商品開発を行ったが、フタを開けてみたところ、実にさまざまな用途で使われていることがわかった。

実際、ネットやインスタグラムなどでは、バッグの大きさに応じて化粧品、薬、文房具、パソコン周りのアイテム、折り畳み傘、マスク、お金など、さまざまなモノを収納している様子がうかがえる。前述のとおり、マチがついているため、冷蔵庫や食器棚などに立てて収納できるのも重宝されているようだ。


食品だけでなく、化粧品や文房具、薬などさまざまなモノを収納するのに利用されている(撮影:今井康一)

サイズによってジッパーの色が違ったり、ロゴが入っているという「ちょっとしたオシャレ感」も利用者の心をくすぐるポイント。加えて、「高級スーパーの商品」にもかかわらず、1パック152円(サイズによって入っている枚数は異なる)という値頃感もウケているようだ。

口コミでじわじわときている

「単価が安いので手に取りやすいのと、自分がいいと思ったものをSNSで共有したい、という欲求がうまく重なってヒットになったのでは。 1袋買ってお裾分けしたり、友達にもらったのがきっかけで買ってくれるようになった方もいるようです。口コミでじわじわときています」と、同社営業本部商品部でグッズを担当している古山瑛理子氏は話す。

とはいえ、紀ノ国屋もジッパーバッグが売れるのをただ見守っていたわけではない。初速で手応えを得たこともあって、例えば実店舗が周年を迎える際などに、ジッパーバッグのサイズ違いの「お試しセット」を、2000円以上の買い物客にプレゼントをするなどしてきた。これを手にした客が、その後リピーターになるケースも少なくないという。


5種類のサイズのジッパーバッグが入ったお試しセット(撮影:今井康一)

そもそもスーパー紀ノ国屋といえばオリジナルグッズに強く、ファンが多いことでも知られている。有名なのは紀ノ国屋のロゴの入ったオリジナルバッグで、誕生したのはなんと今から24年前の1995年 。

発売当初は2種類しかなかったが、お客さんから「自転車のカゴに入りやすいものが欲しい」という声が上がったかと思うと、2年後には“サイクルショッピングバッグ”として商品化。その後も、時代とともに種類が増え続け、新店舗の開店やリニューアルのたびに限定バッグが登場、現在は色違いも含めると60種類ほどのラインナップに上っている。

オリジナルバッグの販売数は絶頂期に比べると10分の1ほどになったというが、それでも一定数のファンは健在する。羽田空港の国内線ターミナル店では“お土産需要”のためにバッグの売り上げはつねにトップで、昔は九州で紀ノ国屋のバッグを持って歩いていると、「どうしても欲しいから、ここで売ってくれ」と言われた人もいたとか。

現在はオンラインで購入できるようになったものの、「東京、神奈川限定」という地域限定ブランドであることは、消費者の渇望感を刺激する1つの要因にもなっているだろう。

また、店舗でスタッフが耳にした顧客の声がしっかりと吸い上げられ、商品化につながる社風もジッパーバッグ人気の勝因につながったかもしれない。「店舗のスタッフと営業のコミュニケーションはしっかりとっています。もちろん、1人2人の声だけで動くことはなかなかできませんが、複数になってくると、私たちも無視はしません。いつもできるだけお客様のニーズに応えようと思っていますね」と、坂井氏は話す。

同社にとってオリジナルグッズの位置づけは、まずは「他社との差別化」。そして新しいグッズを出すことで注目を集め、客足増加につなげたいとの思いがある。

消費増税に伴ってジッパーバッグ値上げ

現在店舗は青山、国立、等々力、鎌倉、吉祥寺の大型店に加え、百貨店内の店舗、駅ナカ店、ベーカリーなど東京、神奈川に大小30店を構える。駅ナカなどの小さな店舗では手に取りやすい価格帯を中心にそろえ、若い人を取り込むことにも力を入れている。そういった意味では、今回のジッパーバッグは普段の客層とは異なった層にリーチしており、戦略としては成功といえるだろう。


各サイズが入ったSuica版と江ノ電版の価格はそれぞれ420円(撮影:今井康一)

紀ノ国屋は、1910年、青山に果物商として創業して以来、来年で110年を迎える。11月1日には、渋谷に31店舗目となる新業態の店舗、「グルマンマーケット紀ノ国屋 渋谷スクランブルスクエア店」をオープン予定だ。節目を向かえる同社は、今後どのような方向へ進んでいくのだろうか。

「私たちはあくまで食品会社なので、中心にあるのは食品。グッズを出すとしても食品関連に絞って力を入れていきたいと思っています。今後の目標としては、まずジッパーバッグを欠品させないことですね。中国で製造しているのですが、10月と2月は国慶節で工場が休みになってしまうので、今から調整しています。あとは、来年のオリンピックで限定モデルのジッパーバッグを出せたらいいですね」(古山氏)

ちなみに、これまでお得感がウリだった同社のジッパーバッグは、10月の消費増税を機に1パック200円に値上げする。これまで3年間価格は据え置いてきたが、「原材料価格や、人手不足によって海外で製造した商品を乗せた船の停泊料が上昇している」(古山氏)ことが背景にある。

新たなサイズ展開やデザインにより、これまでになかった用途を開拓した紀ノ国屋のジッパーバッグ。商品としては地味かもしれないが、商機は意外なところに転がっており、それを見逃さなければ今でもモノは売れるということではないだろうか。