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圧倒的な得点を得たトップ3

translation:Kenji Nakajima(中嶋健治)

お手頃ベスト・ドライバーズカー選手権「BBADC」の採点結果を使い込んだラップトップPCへ入力するわけだが、一番初めに入力するのは少々気が引ける。ピットレーンでの順番待ちは、我先に、という感じながら、点数入力はギリギリまで悩む。できれば同僚の採点結果を盗み見したいところだが、そうもいかない。大抵は、エクセルの入力表を準備するのは自分、マット・ソーンダースで、その流れで一番最初に審査の点数入力も行うことになる。だが、わたしの次に入力しよう、という審査員は、なかなか現れない。

それでも今年は、借り上げ時間いっぱいになる前に審査員のマット・プライヤー、リチャード・レーン、サイモン・デイビス、マウロ・カロも配転結果を入力し終えた。採点方法は、ノミネート車両9台から、それぞれ最も評価の高かったクルマ1台に3点、2位に2点、3位に1点を入力するというもの。BBADCだから価格と走行パフォーマンスのバランスや、利便性の高さを評価していくが、AUTOCARだからドライバーに対しての魅力も忘れない。

フォード・フォーカスSTパフォーマンス・パックとホンダ・シビック・タイプR GT、マツダMX−5ロードスター 2.0 SE-Lナビ

結果として、ノミネート車両の中では大柄な前輪駆動でMTのハッチバック2台と、唯一のFRモデルによるトップ3が決まった。つまり残ったのは、以前にもBBADCで優勝したことのあるホンダ・シビック・タイプRとマツダMX−5ロードスターの2台と、フレッシュなメンバー、フォード・フォーカスRS。

より接戦になることを想像していた審査員もいるようだが、残ったクルマはドライバーズカーとして、突出した存在感を持っていた。5名の審査員のうち、全員がホンダかマツダを最上位に配点し、フォードも1名を除いて3位に配点していた。それほど圧倒的な差だった。

審査員好みの前輪駆動モデル

フォルクスワーゲン・ゴルフGTI TCRとミニ・クーパーJCW、セアト・レオン・クプラ、アバルト595コンペティツィオーネ、ルノー・メガーヌRSの5台は0点だった。いずれもドライバーへの訴求力は高いクルマに思えるが、見た目とは裏腹に、実力の差は小さくなかったのだ。ヒュンダイi30 Nファストバックは1点を獲得したが、トップ3入りは逃した。パフォーマンスカーとしての魅力的な中身は評価できるが、高いドライビングスキルに応えられるほどの熟成には及んでいないというのが本音。

そのため、結果は極めて明確に付いた。ホットハッチとして期待のかかった2019年のニューモデルは、残ることはできなかった。マツダの後輪駆動のスポーツカーのアイコンに、BBADCを再び与えることは適切なのだろうか。審査員同士で意見も別れたが、3ポイント差で2019年のゴールドメダルに決まった。

フォード・フォーカスSTパフォーマンス・パック

まずは2位と3位から。一般道とサーキットの両方で、ホットハッチのベストを選考するに当たり、フォーカスSTとシビック・タイプRは大きく異る印象を残した。一方の長所を認めることは、他方の短所を認めることになる。そして審査員好みの、俊足な前輪駆動モデルを選ぶことにもなったように思う。

例えば小柄で元気で、機敏で、熱烈なダイナミクス性能を求めるのなら、フォーカスSTを選ぶべきだろう。シビック・タイプRよりもフォーカスSTの方が個性や音響面での印象は濃い。ステアリングレスポンスは鋭く、操作性のバランスも高く、ドライバーとのダイナミックな一体感を生むフィードバックも強い。一方でシビック・タイプRは、一回り大きく、安定的に速く、アピアランスでの存在感が強い。

タイプRとST、エンジンの魅力は互角

フォーカスSTの魅力は、表層に現れたエネルギッシュさと、手に届く優れた速度域にあるパフォーマンス。一方でシビック・タイプRの魅力は、エンジンの回転数を高めた時という限られた条件で現れる、高次元の可能性を秘めているところ。ハイスピードでのコーナリングと、高速走行時のクルマの落ち着きを隠し持っている。その本領を発揮するならサーキットをお薦めするが、価格が2〜3倍するスポーツカーにも引けを取らない走りを叶えてくれる。速く走るほどに、好きになるだろう。

フォーカスSTのエンジンサウンドの方がシビック・タイプRよりも好ましいし、レスポンスも若干スマートで、中回転域でのパワー感も強い。一般道で積極的に運転すると、しっかり応えてくれる。コーナリングスピードも高く、タイトコーナーからの加速もトルクが太く鋭い。

ルノー・メガーヌRS300トロフィーとホンダ・シビック・タイプR GT

シビック・タイプRのエンジンはフォーカスSTより排気量の小さい4気筒ターボで、呼吸が激しくなる4500rpm以下ではかなり穏やか。しかしそこから7000rpmまでは鋭く吹け上がり、トップエンド付近でのパワーもフォーカスSTより上。サウンドは単調だが、より本物らしさがある。エンジンだけで比較すると、互角だと思う。

トランスミッションも甲乙付け難いが、ホンダの方が変速フィーリングが滑らかで、しっかりした操作感がある。一方でホンダのシンプルなメカニカル・ヘリカルLSDと異なり、電子制御されるeLSDを搭載するフォードの方が、エンジンのパワーをしっかり受け止めて、操作性を高めている。だがサーキットでは多くの審査員がシビック・タイプRの方を高く評価していた。

前輪駆動のポルシェ911 GT3

「操舵時の重み付けが素晴らしく、一切不安を感じることなく、クルマの向きを決めていけます」 とサイモン・デイビス。マウロ・カロは「他のホットハッチよりも遥かに自然なフィーリングで、操縦性が神経質になることもありません。ベストなエンジンとトランスミッションとの組み合わせで、刺激的で満足感の高いドライビングが味わえます」 とまとめている。

2年前に高く評価したシビック・タイプRのサーキットでのグリップレベルや安定性、高速での走行性能は、今も十二分に他を圧倒できるものだった。しかも4ドアのサルーンとして、日常的な一般道での利便性も高いといえる。

ホンダ・シビック・タイプR GT

リチャード・レーンは、スランドウ・サーキットでの操縦性の良さは、周回を重ねる毎に高まる印象があり、まるで前輪駆動のポルシェ911 GT3と評せる印象がある、とメモを残している。一方でフォーカスSTの一般道で披露した優れた操縦性と懐の深さは、複雑なコーナーにバンク、縁石が入り混じったサーキットではうまく光ることができなかった。ある程度のレベルまでは鋭く刺激的に走るのだが、ホンダの水準ほどに、突出した安定性とドライバビリティの高さを備えていないのだ。

初代や2代目フォーカスSTの、遊び心のある高水準のバランスを知っている審査員には腑に落ちないところもあったのだが、それが真実だ。その結果、フォーカスSTが3位で、ホンダ・シビック・タイプRが2位へと落ち着くことになった。

最後の(4)では優勝を果たしたマツダMX−5ロードスターについて触れていこう。