ワインでは珍しく、透明なボトルを使用している、ルイ・ロデレールの「クリスタル」。『高いワイン』(ダイヤモンド社)より抜粋

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ベストセラー『教養としてのワイン』の著者が、数々の一流ワインをオールカラーで解説した注目の新刊『高いワイン』(ダイヤモンド社)が9月19日に刊行された。今回は本書から抜粋する形で、透明なボトルが特徴的なシャンパン「クリスタル」について紹介します。

ボトルが透明な理由=「毒」を盛られないため

 シャンパーニュ地方で、古くからシャンパンを造り続け、世界的にも高い知名度を誇るのが「ルイ・ロデレール」です。1833年に叔父からメゾンを継承したルイ・ロデレール氏は会社を自らの名に変更し、海外市場をターゲットにビジネスを展開しました。大きな輸出先はロシアで、生産量の3分の1を出荷し、ロシア皇帝アレクサンドル2世のお気に入りにもなったほどです。

 そして、ロシア宮廷御用達のシャンパンとして誕生したのが「クリスタル」でした。クリスタルのボトルが透明なのも、実はロシアが深く関係しています。そもそもワインは繊細で日射の影響を受けやすいため、特にシャンパンボトルは色を濃くして日射からワインを守ります。しかし、政治情勢が非常に不安定で、常に暗殺を恐れていたアレクサンドル2世は、シャンパンに毒が盛られないよう透明なボトルに、そして瓶の底に爆発物が隠されないよう平らな形状にすることを要求したのです。

 クリスタルはアメリカのセレブたちにも愛され、成功者のシンボルともなりました。特に黒人を中心とするヒップホップアーティストたちに気に入られ、ミュージックビデオでクリスタルをラッパ飲みする姿が映されたり、クリスタルを使った品のないカクテルが作られたりもしました。

 これに対し、2006年、ルイ・ロデレールのマネージングディレクターがエコノミスト誌のインタビューで「こうした現状は不本意である」「ドンペリやクリュッグは彼らが買うことを喜ぶだろう」と発言し、物議を醸しました。この発言は人種差別として話題となり、アメリカではクリスタル不買運動が起こったほどです。

 特にクリスタルを気に入っていたラッパーのジェイZの呼びかけで、ヒップホップ業界からは一切姿を消し、以来、クリスタルに変わりアルマンドブリニャックを目にするようになりました。