堀場製作所が買収 トップギアのテストコース なぜ? 中では何が? 現地ルポ 前編
MIRAとは? 元英国空軍基地text:Matt Prior(マット・プライヤー)
MIRAのことをミッドランズにある単なるテストコースだと思っているのは、決してあなたひとりではない。
2015年、日本の堀場製作所がこのヌニートンの企業を買収したとき、英紙テレグラフはMIRAのことを、「トップギアやフィフスギアといった自動車番組の撮影場所でもあるテストコースと開発センター」だと紹介していた。
こうした有名なテストコースは、英国空軍リンドリ―基地が英国政府の研究機関であるMIRA(Motor Industry Research Association)として生まれ変わった1948年に、滑走路と誘導路上に設置されたものだ。
当時、オープンセレモニーのためにやってきたオースチン社の会長は、MIRA責任者のアルバート・フォッグ博士がテープを爆破して粉々にするつもりであることを知らずに、テープカット用の特別なハサミまで持参していた。
当時のMIRAにはわずかな数の滑走路と誘導路、それにコントロールタワーと格納庫がひとつずつあるだけだった。
英国版Autocarが頻繁にパフォーマンステストを行うため、12年ほど前からMIRAに通い始めているが、当時テストコースを使用するための手続きはまだコントロールタワーの1階で行っており、タワー屋上のガラス張りの監視台はスタッフが温室として使っていたに違いない。
相応しい買い手 多くの価値
コース正面の1950年代に建てられた研究施設やオフィスを含め、MIRAには多くの課題があり、実際、全力で対応にあたっていたものの、基盤設備を維持するために必要な多額の資金を準備することは出来なかった。
確かに、コントロールタワーは新設したかも知れないが、それだけでは不十分だったからこそ、彼らは2010年代初頭からスポンサーを探し始めたのであり、最終的には日本の堀場製作所という相応しい買い手が現れ、2015年に8500万ポンドでMIRAを買収している。
排ガステスト施設はほぼ24時間フル稼働だ。基本的には部外者であり、時にはMIRAでテストを行ったわたしでさえ、この買収の目的はMIRAの施設であり、雇用は維持されないのではないかと思ったが、それは単なる杞憂であり、買収以降、投資は継続的に行われている。
堀場製作所はアンティークの芸術品に使われる分光器から、廃棄物に含まれる有害物質を検出するためのガス分析器など、正確性が求められるテスト装置を作り出すことで名を知られており、ドイツと米国にある自動車用テスト施設を含めすでにさまざまなテストセンターを保有していた彼らだが、MIRAには多くの価値を見出している。
技術開発とテクノロジーパーク
「なぜ、堀場製作所は決して新しいとは言えないMIRAを欲しがったのでしょうか?」と、ホリバMIRAで経営トップを務めるデクラン・アレンに訊いてみた。
「彼らはわれわれの経験に魅力を感じたのであり、長い歴史を持つ日本企業として、新たな技術開発を進めるMIRAと一体になることで、将来の発展に繋がると考えたからです」
デクラン・アレン(左)は誇らしげにMIRAの施設を紹介する。いま、MIRAのテスト施設では数々の堀場製測定装置が稼働しているが、その投資はこれだけに留まらず、はるかに興味深いものだ。
新WLTPルールへの適合試験のため、3つある排ガステスト装置が3交代制で対応を進めるなど、いまもホリバMIRAのビジネスの45%はテスト関連が占めているが、「テストだけでは、不安定になってしまいます」と、アレンは言う。
技術開発が45%を占めるとともに、残りの10%はOEMやサプライヤーメーカー向けの新たなテクノロジーパークとしてのビジネスであり、ホリバMIRAでは単に場所を提供するだけでなく、こうした各企業との協業も行っている。
「新たな設備が十分に活用されるよう、協業を行っているのです」と、アレンは話している。
真の能力 ポジティブな影響
長くMIRAのエンジニアリングノウハウが広く世間に知れ渡ることはなかったが、それは多くの顧客企業がここで行っていることを口外して欲しくないと考えているからでもある。
MIRAが対応できないこと、対応しないことは非常に明快だ。クルマのエクステリアグデザインは行わないし、自動車の大量生産にも対応していない。「10台程度であれば、もちろん対応します」と、アレンは言う。「50台程度でも対応可能かも知れませんが、5000台になれば外部に委託するでしょう」
こうした専用車両では、いちどに最大15台の自動運転モデルを、最大2cmという高い精度で制御することができる。それでも、実際にはホリバMIRAは自動車のデザインや設計のすべてに対応するだけの能力を備えており、ゼロから1台のクルマを創り出すことも可能だ。ほとんどのOEM案件でそうした必要はないものの、ちょうど2年前、MIRAでは1年も掛けずに即応軍事車両を生み出している。
だが、近年彼らが目指しているのは、こうした特殊車両への対応に留まらないようであり、ホリバMIRAが開発に関与した技術の本格展開という形で、「世界中のすべての移動にポジティブな影響を与える」姿を目にすることになるかも知れない。
そして、未来のテクノロジーの重要さは、少なくとも現在の道路交通に対するものと何ら変わらない。
(後編へつづく)