『ソロモンの偽証』の堂々たる演技で、「日本映画批評家大賞新人男優賞」を受賞してから4年、板垣瑞生の出演作が本年は軒並み公開され、俳優としての真価を発揮している。初主演作となった『初恋ロスタイム』では、1日1時間だけ時間が止まる中で出会った少女に惹かれる主人公を演じ、等身大の姿で儚い煌めきを刻んだ。

浪人生の相葉孝司(板垣)は、いつものように予備校で授業を受けていたが、突然「自分以外のあらゆるものが突然ぴたりと静止する」という不思議な現象に遭遇する。時刻は12時15分。戸惑いながらも街に出ると、自分以外に唯一動ける高校生の篠宮時音に出会う。毎日12時15分から1時間だけ起きる、その不思議な時間を「ロスタイム」と名付けたふたりは、一緒に時間を楽しみ、距離を近づけていくのだが……。

孝司とともに「ロスタイム」を過ごし恋に落ちる時音を、本作が映画初出演となった吉柳咲良が演じ、板垣と心地よい演技のアンサンブルを披露した。さらに、不思議な現象の真実を知るらしい医師(竹内涼真)とその妻(石橋杏奈)のサイドストーリーも物語を盛り上げ、フレッシュなだけでない味わいも残す映画となっている。初主演にして、初めてストレートな恋愛映画に挑戦した板垣に、俳優としての昂ぶりを聞いた。

――意外にも『初恋ロスタイム』が映画初主演ということで、おめでとうございます。気合いを入れて臨んだ部分はありましたか?

板垣 ありがとうございます。初主演なんですけど、気負わずやりました。僕は何でもかんでも気負うのがいいわけではないと思っていたのと、特にこの作品においては、自然体でやること、等身大でやらないといけない部分があったんです。物語の内容的に暗い話だったら、プレッシャーみたいなものが出てもいいかもしれないですけど、『初恋ロスタイム』はキラキラした明るい話ですし、素敵さをお客さんに届けないといけないので、そういった意味で、楽しんでやりました。ほかの現場でも楽しんでやっているときはやっていますし、アプローチ自体は変わらなかったです。

――浪人生で「頑張っても仕方ない」と何事も諦めがちだった孝司は、時音と出会うことで変化していきます。演じる上で準備したことは何でしたか?

板垣 これまで僕はあまり爽やかなお芝居をしたことがなかったんです。孝司を演じるにあたって、自分にあるけだるさを排除することから始めました。その上で、とにかく爽やかにしたかったので、爽やか要素を足していきました。あとは声のトーンをちょっと上げることを意識して、どれだけ青春っぽく見えるかは考えましたね。

――相手役の吉柳さんとの息の合わせ方もばっちりだったように見えます。

板垣 吉柳さんとは、カメラが回っていないときから、しっかりしゃべるようにしていました。最初は大変でしたけど、コミュニケーションを取るにつれて、段々、人となりもお互いにわかってきて、お芝居しやすくなりました。

準備に関しては、時音との恋愛度を数値化したりもしていましたね。このときは何%、このときは何%、と書いて整理して。シーンによって「今何%くらい好き」ときちんとわかっておかないと、直前のシーンではすごい好きっぽかったのに、その次のシーンではそうでもないみたいに温度差があったりすると、説得力がなくなるので気をつけてやりました。……普段、あまりそういうことはやらないんですけど。

――普段はやらないことをやったのは、感情の幅や表現を大事にしていきたかったからですか?

板垣 というより、わかりやすさの部分ですかね。何せ、こういうテイストの作品をやったことがなかったので、どうやっていいのかわからなくて。お芝居の先生に相談して、「可視化するにはどうするんだろう?」と作っていった感じです。

――初めて青春恋愛映画のど真ん中に立ってみて、楽しかったですか? 振り返ってみれば、苦労もあった、という感触ですか?

板垣 青春を出すって……大変でした(笑)。“マジ”じゃないと出せないので、相手を本気で思わないとダメだし、本気でチャリンコを漕いで相手のもとに向かわないとダメだし。恋愛しているとき……、いや、青春しているときって本気があるからすごく素敵だと思うんです。全力を出すのは大変だったし、疲れもしました。それくらい劇中では青春したと言えます。

この作品は、キュンキュンしたりする恋愛要素ももちろんありますし、笑いもありますけど、最後まで諦めない気持ち、親子関係のリアルさ、命や夢についてまでも描いているんですよね。今、悲観的な作品も多かったりしますけど、「最後まで諦めないって素敵だよね、格好いいよね」という人物でありたいと思って、僕はずっと演じていました。

――本作では、竹内さんとの共演シーンもありました。ご一緒して、印象深かったことなどは?

板垣 とあるシーンで、台本には書かれていなかったんですけど、「こういう展開になったらいいのにな」と僕が希望する流れがあったんです。竹内さんには何も伝えていなかったのに、段取りで僕の気持ちを汲んでくれて、まさに応えるような芝居をしてくださったんです。驚きましたし、お芝居の凄さをすごく感じました。「ありがとうございます!」とお礼を言ったら、「こうしたかったのかな、とわかったから」と優しく言ってくださって、うれしかったです。撮影以外、現場では普通にお話もしてくださって。実は僕、竹内さんと地元が近いんですよ。ごはんをご一緒したいというお話もしているんですけど、僕がまだお酒が飲めないので、20歳を超えたら、と思っています。

――そうした竹内さんのような方、板垣さんよりキャリアの長い俳優さんと共演する機会も多いと思いますが、「いつか自分もああなれたら」という具体的な思いはありますか?

板垣 こうしていろいろな先輩と共演させていただくと、「全部盗みたいな、吸収していきたいな」という気持ちになります。あと、「勝ちたいな」と思う気持ちもあるんです。というのは、(手元に置いてある雑誌に書いてある映画タイトルを見て)『そこのみにて光輝く』とか、すごくいいじゃないですか。そうした映画を観ると、観た後にズドーンとして「やらなきゃ」という気持ちが出るんです。役者としての立場で観て、自分と比べているから「いいなあ」と思いつつ、「自分でもできるのかな……?」とかは結構考えるんです。勝ちにいきたいという気持ちを大切にして皆さんの背中を追いかけていきたいです。

――勝ちにいくためにどんな俳優になりたい、などのビジョンはありますか?

板垣 何でもできる人でいたいな、と思います。ひとつのテイストしかできないとかではなく、「コメディをやって」と言われたらコメディができるし、「キラキラをやって」と言われたらキラキラもできる、という人間でいたいです。どこから何を振っても、いつでも何でもできる役者になっていきたいです。(取材・文=赤山恭子、撮影=iwa)

映画『初恋ロスタイム』は、2019年9月20日(金)より全国ロードショー。

出演:板垣瑞生、吉柳咲良、竹内涼真 ほか
監督:河合勇人
脚本:桑村さや香
公式サイト:hatsukoi.jp/
(C)2019「初恋ロスタイム」製作委員会