吉岡里帆が主演を務める『見えない目撃者』は、ダークな映像、鮮烈な描写、スリリングな展開に目が釘付けになる骨太なスリラーだ。視界が闇に包まれている元女性警官を演じる吉岡、彼女とともに行動し、図らずも「目」として動くことになる高校生を高杉真宙が演じ、バディ・ムービーとしてもフレッシュに名乗りを上げる作品となった。

自らの過失事故で視力と弟を失ってしまった浜中なつめ(吉岡)は、将来を有望視されていた警察官だったが辞職し、失意の中、暮らしていた。事故から3年がたったある日、なつめは車の接触事故に遭遇し、車内から助けを呼ぶ少女の声を耳にする。自分の感覚を信じて、同じ事故に接触していたスケボー少年・国崎春馬(高杉)と独自捜査に乗り出すなつめだったのだが……。

「犯人は一体……」という純粋なミステリー要素の面白さもありながら、なつめと春馬の成長譚としても堪能できる本作。事前準備を丹念に重ねて臨んだという吉岡と高杉の芝居は、物語にリアリティと緊迫感を与えた。手ごたえ十分といった表情のふたりの、あふれる思いをインタビューで聞く。

――なつめや春馬のような役をおふたりが演じるのは、映画ファンにとってはうれしいサプライズだと思います。オファーがきたとき、どう思いましたか?

吉岡 台本を読んで、率直に「面白いな」と思ったので、「ぜひ参加させてください!」と即決でした。

高杉 僕も台本を読んで「やりたいです!」となりました。本当に面白くて、引き込まれる作品で。日本でたくさんやるタイプの映画でもないなと思ったので、どれくらい攻めていくのか、「どんな風にできあがるんだろう?」と気になりました。やらせてもらえて、うれしかったです。

吉岡 そうだよね。最初に読んだときに「できないことだらけだな」と思ったんです。事前準備が相当必要な印象があったんですけど、挑戦してみたくて、心が動きました。

――吉岡さんは、近作『パラレルワールド・ラブストーリー』しかり、『音量を上げろタコ!なに歌ってんのか全然わかんねぇんだよ!!』しかり、挑戦する役が続いている印象です。挑戦はお好きですか?

吉岡 挑戦は……好きなんだと思います! 挑戦したいという気持ちに抗えないタイプです(笑)。

――なつめの姿に説得力があるからこそ、見ごたえのある作品に仕上がったのかと思います。役作りはどう準備していかれたんですか?

吉岡 労いの言葉、ありがとうございます。考えなければいけない要素があまりにも多すぎて、オファーをいただいたときから、ずっと緊張感のある作品でした。「『見えない目撃者』の撮影があと1年後にくるぞ……」、「半年後にくるぞ……」みたいな。

高杉 そうですね! わかります。

吉岡 目が見えないことをどう表現していくか、キャラクター造形が決まる前までは、私自身も揺れ動いていたんです。カメラテストの段階では、監督も「うーん……違うな」となっていて。実際、(役に関する)準備の取材が始まったのが2か月前で、目の見えない方、警察官の方たちの生の言葉を聞いて、背中を押されましたね。あとは、映画のスタッフさんにも恵まれていました。現場での話し合いやスタッフさんとの距離の近さも、この作品がプラスに動いた要素だったと感じます。それぞれの役職の皆さんの力がひとつになってこの作品が生まれたし、キャラクターが生まれた、という感じがしています。

高杉 この映画に関しては、間違いなく吉岡さんが一番大変な役だと思います。夜から朝までの撮影も多かった中、体力的にもつらいはずなのに、吉岡さんは一切そんな素振りを見せずに、スタッフさん含め、僕らにも優しく接してくれていたんです。そんな姿を見ていると、やっぱり僕らも「頑張ろう!」とか「ついていきたいな」となりましたから。

吉岡 そんな……ありがとうございます! 静かに集中力をみんなが持続しているような現場でした。まったくギスギスはしていないですし、やわらかさもあるんですけど、その中に長く灯っている集中力があると言いますか。

高杉 吉岡さんがずっとストイックに現場にいらしたし、面白いことを求めているのを皆さんが感じていたから、おっしゃったような集中しているモードでいられたんじゃないかな、と思います。みんなで集中して「面白い作品を作ろう」と盛り上がっていた感じがします。すごく刺激的な現場でした。

――吉岡さんから見て、現場の高杉さんは、いかがでしたか?

吉岡 こんな素敵なバディが一緒で、本当に心強かったです。……実は私、高杉さんの実年齢をずっと間違えていて(笑)。キレイだし、制服を(衣装で)着ていたのもあって、ずっと高校生だと思っていたんです。

高杉 そうなんですよ、「学校から来たんだね!」と言われて(笑)。

全員 (笑)。

吉岡 こんな大変な役なのに、学校が終わってから撮影なんて偉すぎる!、と思っていたんですけど(笑)。高杉さんは、素直でピュアな方で話しやすかったですし、相談もしやすくて、助けられました。劇中では、なつめの弟とかぶせて春馬を見るような表現もあるんですけど、私も実際弟がいますし、年齢差的にもその気持ちは強かったかもしれません。

――作品のみどころのひとつが、おふたりのキャラクターの深み、成長する部分かと思います。そのあたりの演技プランも立てていましたか?

吉岡 なつめはトラウマを抱えるところがスタートで、「これ以上の不幸はない」というどん底から這い上がっていくまでの成長を見せないといけなかったので、落差をしっかり出せたらいいなと思っていました。人前では見せない本当に弱い部分というか、人間としての素の部分と、警察官を志していたプライドや正義感みたいなものを出していく部分のふたつの要素があって。ひとりでいるときと人と会っているときとのメンタルの浮き沈みみたいな表現は、気をつけるようにしていました。

高杉 春馬も最初、完全にマイナスから入っていって、そこから積み上げていく人物でした。だから、最初の諦め感や夢や希望を抱いていない感じを、先生や警察に取り調べされているような場面で、できるだけ出そうとしました。春馬はヤンキーまでいっていないところが、一番重要なところでもあるんですよね。その環境で諦め癖がついているのも見えたらいいなと思って、やっていました。

――おふたりからは「挑戦」、「攻め」という言葉もありましたが、本作にはR15+というレーティングもついています。表現の強弱については、どう捉えていましたか?

吉岡 コンプライアンスが厳しい今の時代に見られない描写を、あえてR15+の作品を上映することは、意味があることだなと思いました。エンターテインメントのひとつとしてこの作品があるのはとても刺激的で面白いことだと思うので、そうした作品に携われるのは役者冥利に尽きます。

高杉 「“R15+だから”こう思う」というのは、実はあまりなかったです。制限が設けられていることはもちろん意味があるからなので、刺激的なところも含めて、楽しんでもらえる作品に出来上がっていると思います。どんな風に皆さんが観て、感じてもらえるかが、一番楽しみです。

――そして、「目は見えなくても、物事の本質は見える」というテーマも胸に迫る映画でした。この作品に関わって、改めて今の思いを聞かせてください。

吉岡 私はなつめを通して、諦めない強さや、一見、弱者に見えるかもしれない、繊細な人の中にこそ強さが眠っていることに気づかされました。お客さまにも「あなたの中にもこういう隠れた強さがあるんだ」ということを伝えられたらいいな、とすごく思っています。この作品は、ただ残虐なシーンが続くスリラーではなく、温かいまっすぐな光を目指して、積み上げていっている作品という印象なんです。「明日、もう少し頑張ってみようかな」と思えるかもしれないので、ぜひ観ていただきたいです。

高杉 僕はやっぱり単純に、『見えない目撃者』に関われたことがすごくうれしい。先ほどレーティングの話もありましたけど、実際、どれくらい観せていいかとかも厳しかったりする中で、突き詰めるだけ突き詰めた作品なので、本気度を感じていただけると思います。そういう中で僕らが撮影できたこと、「いい現場だったんだな」と観た後にも改めて感じました。映画館の大きなスクリーンで、エンターテインメントとして楽しんで観てもらいたいですし、吉岡さんがおっしゃったように、本当に温かい作品でもあるので、怖がらずに踏み込んでほしいなと思います。(取材・文=赤山恭子、撮影=映美)

映画『見えない目撃者』は、2019年9月20日(金)より全国ロードショー。

出演:吉岡里帆、高杉真宙 ほか
監督:森淳一
脚本:藤井清美、森淳一
公式サイト:www.mienaimokugekisha.jp
(C)2019「見えない目撃者」フィルムパートナーズ (C)MoonWatcher and N.E.W.
Based on the movie ‘BLIND’ produced by MoonWatcher