日本代表キャプテンを務めた菊谷崇氏(左)と廣瀬俊朗氏【写真:編集部】

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2011年大会のキャプテン菊谷崇と15年大会の“影のリーダー”廣瀬俊朗氏がW杯を語る―前編

 ラグビーワールドカップが20日に開幕する。初めての日本での開催。過去最高の8強入りへ挑むジェイミー・ジョセフ・ジャパン。オリンピック、サッカーワールドカップと並ぶ、世界三大スポーツの祭典へ、「THE ANSWER」ではジャパンのキャプテンを務めた2人の豪華対談が実現した。

 4年前のイングランド大会で日本代表の躍進を“影のリーダー”として支えた廣瀬俊朗氏と、2011年のニュージーランド大会でキャプテンを務め、今大会のアンバサダーでもある菊谷崇氏が、日本代表への期待、注目選手、意外な見どころなどを余すところなく語った。前後編に分けてお届けする。

 ◇ ◇ ◇

――前回大会では初戦で南アフリカに大逆転勝ち。ラグビーファンは涙を流し、それまではあまりラグビーを見てこなかった人たちを興奮、感動させました。あれから4年が経過し、日本で開幕するラグビーW杯。ファンは再現を期待していますが、お二人の期待のほどを教えてください。

菊谷「期待は十分にあると思いますよ。8月の3戦(PNC=パシフィック・ネーションズ・カップ。3連勝で8年ぶり優勝)で、あれだけ安定して戦えるチームになっているのは強化が進んでいる証拠。エディー(エディー・ジョーンズ前HC)の時も良いチームだったけど、今はサンウルブズもあって、全体的な底上げができている。

 若い選手も出てきたし、代表に選ばれた31人以外のメンバーにも相当数の候補がいた。以前だとほぼ固定されていた印象。間違いなく層が厚くなっている。15人誰が出てもそん色ない。そのチームでこれだけ安定した試合をできているのは、4年前とは違うところだと思います」

廣瀬「僕もそう思います。マインドセットが明らかに変わった。例えば2012年頃だったら、海外のチーム、選手は強いだろうなと引いていた部分はある。今は対等に見える。ビビっていない。そこは明らかに変わってきましたね」

菊谷「目標は決勝トーナメント進出の8強入りに置いているけど、僕は可能性は全然あると思う。俊朗はどの試合が大事だと思う?」

廣瀬「僕はやっぱりロシアとの開幕戦。そこでいい試合ができれば、次にもいい準備をしていける。勝つのが当然だけど、内容も求めていきたい。しっかり自分たちのラグビーにチャレンジできているのか。自分たちらしさをどんどん出してほしい。(ロシアは)格下と思われているけど、守りにいってはいけません」

菊谷「絶対に弱くないしね」

廣瀬「怖いですよ」

菊谷「ロシアより、冷静に見れば日本が上かもしれない。だけど逆にロシアは情報が少ない。どういうところでスイッチを入れてくるのかわからない。フィジカル面も弱いわけがない。油断はできない。勝ち負けはもちろん、けが人が出ないかも心配。緊迫した試合になればいいが、緊張もほぐれて少し余裕が出てきた時に、けが人が出てしまうこともある。そうなると大きな痛手。そこも含めていい入りが出来ればいいですね」

廣瀬「キクさんはどの試合に注目してますか?」

菊谷「もちろん初戦も大事だけど、個人的には最終戦かな。前回大会で唯一負けたスコットランド。そこで勝って、トーナメントを決めて欲しいなと。その前に決まっていたらいいけど、そう簡単にはいかない。3勝していても、アイルランド(第2戦・28日)に負けていても、スコットランドにいい試合をして、プール戦を締めくくれるか。楽しみな試合になるのは間違いありません」

2人の注目選手は意外なベテランで一致?

 ――お2人もキーとなる試合と見ている初戦。やはり独特の緊張感があると思いますが、実際にどういった心境で臨むのでしょうか。

菊谷「スターティングメンバーの15人の中で、何人がW杯を経験しているのか。多くが経験してるわけじゃない。4年に1回でなおかつ日本での試合。当然緊張して、普段やっていることができない。体が動かないこともあるかもしれない。いい意味で、その緊張感にうまく乗って行けるのか。プレッシャーでガチガチになるか。勝てば日本はより盛り上がるし、負ければよりプレッシャーに感じる。普段のW杯よりも、初戦の意味合いが違ってくるのではないか。俊朗は前回大会の初戦はどうだった?」

廣瀬「事前に、負けるとW杯がなくなるかもしれないという報道もあったんですよね。しかも相手が南アフリカ。そういう意味でのプレッシャーはあったけど、ただ逆に良かったところもあった。負けて当たり前だし、気持ちとしては入りやすかったかもしれません。

 初戦の前日もエディーさんに怒られたんですよね。報道陣がいるから見せるなと言っているのに、(リーチ・)マイケルがストレッチを始めた。そうしたらエディーさんが怒って……」

菊谷「らしくていいね(笑)」

廣瀬「普段通りといえばそう。コーチの方が緊張してたのかもしれない。僕らの方が大丈夫だったのかなと。でも、メンタルの準備は大事。アナリストの人が、そこで映像見せてくれた。4年間の軌跡をまとめたもので、やっぱり気持ちは入りました」

――前回大会では五郎丸歩という国民的なスターが生まれました。今大会でお2人が注目する選手を教えてください。

菊谷「キャプテン(リーチ・マイケル)はやっぱり注目ですけど……。あとはトンプソン・ルーク。おじいちゃんに頑張ってもらおうと(笑)。これで4大会連続出場。年齢は僕の一つ下(38歳)かな」

廣瀬「すごいですよね」

菊谷「いいプレーするからね。後半はばててるけど(笑)。間違いなくおじさん世代に夢を与えている」

廣瀬「田村優はそうですし、両ウイング(福岡堅樹、松島幸太朗)も。松島はボールタッチや自分で抜いていく場面も増えたし、見ていて面白いなと思っています」

菊谷「あとは、テレビが誰にどれだけフォーカスするか(笑)。前回にしても、五郎(丸)だけが活躍した試合ではない。その意味では誰にでもスターになる可能性があります」

廣瀬「ファンもメディアも、誰かをおっかけたいんじゃないですか」

菊谷「今はどの選手も認知度がある。一般への認知度なら、前回は五郎(丸)が0から100だったけど、今回はもうある程度の選手が、60〜80くらいは認知されている。街を歩いていても、トンプソン・ルークの旗があったり、選手の認知度は前回より増している。あとは誰がヒーローとして吊るし上げられるのか(笑)。

 ラグビー人気を出すためには、男前で爽やかなやつが活躍するのがいいのでは(笑)。そうなると姫野(和樹)とか、田村優とかいいんじゃないですか」

廣瀬「僕は中村亮土や、山中(亮平)。前回出られなかったですし。このあたりが一皮むけてほしいなと注目しています」

見どころはお酒の消費量、選手が涙を流す国歌斉唱のシーンにも注目

――初めて日本にやってくるラグビーW杯。大会自体の見どころはどうでしょうか。

菊谷「お酒の消費量ですね(笑)」

廣瀬「サッカーの6倍……」

菊谷「ラグビー観戦にお酒は欠かせない存在。こんなに飲むのかとニュースになることをひそかに期待している。サッカーの6倍というのは、ファンが飲むお酒の量が6倍。ラグビーの応援には、野球のように鳴り物がない。みんなで歌を歌うこともない。みんなが試合を観戦するスポーツ。だから試合が始まる前から飲んで、試合中も飲んでという文化がある。でもファンが暴れることもないし、フーリガン的な問題が起きることもない。ファン同士でケンカもしない。

 純粋にラグビーを応援する。いがみあうよりは、一緒に目の前の試合を楽しもうと。だからお酒の消費量が増える。いいラグビー文化。素面では喋りかけられないけれど、お酒の力を借りて、他国の人と交流できるようになるかもしれない。結果ももちろんそうだけど、実際に会場に足を運んだファンが盛り上がってくれることが、成功につながると思います」

廣瀬「僕もラグビー特有の雰囲気を楽しんでほしい。試合前から一緒に国歌を歌ったりできたら面白い。みんなでいいゲームを見たい。敵でも、味方でも関係なく、ラグビーへのリスペクトがあるのはすごくいいなと」

菊谷「また日本代表だけじゃなくて、海外の強豪も魅力的なので是非注目してほしい。例えば前回大会で日本のヘッドコーチだったエディーさんが率いるイングランド。日本人が応援してあげると、エディーも喜ぶ。そういう楽しみ方もあります」

廣瀬「世界の技術を個人レベルで体感できる機会はサンウルブズがあるけど、W杯で国の重みを背負って戦うのを見るのはまた全然違う。国歌を、涙を流しながら選手たちが歌う。あの雰囲気はなかなかほかの競技にはない。それ以外でも、自分の好きな国、好きな食べ物がある国、そんなのとリンクしてもいいのかなと。カッコいいジャージとかで見るのもいいですね」

菊谷「もしかしたら地元で練習してるチームがあるかもしれない。何か親しみがあるチームを応援するのも良いのかなと。もしかしたら街で、どこかの国のでっかい人に会うかもしれない。道案内するからその国を応援するとか、きっかけはなんでもいい。ラグビーを色々な形で楽しんでほしいですね」

(後編に続く)

菊谷 崇(きくたに・たかし)
1980年2月24日、奈良県生まれ。御所工業高から大阪体育大に進み、トップリーグのトヨタ自動車ヴェルブリッツでプレー。イングランドのラグビーチーム、サラセンズでプレーした後、キヤノンイーグルスに移籍した。ポジションはNO8、フランカー。15人制と7人制ともに日本代表経験を持ち、15人制代表デビューは2005年11月5日のスペイン戦。2008年より主将を務め、2011年ワールドカップでは主将としてチームを率いた。日本代表キャップ数「68」。2018年に引退。現在は「ブリングアップラグビーアカデミー」を主宰するほか、ラグビー日本代表のU-20代表、高校代表などユース世代の代表コーチも務める。

廣瀬 俊朗(ひろせ・としあき)
1981年大阪府吹田市生まれ。5歳のときに吹田ラグビースクールでラグビーを始め、大阪府下有数の進学校、北野高校でもSOで活躍して慶大―東芝と、所属するチームですべて主将を務めた。東芝時代はWTBでも、司令塔を兼務する独自のスタイルで、チームのトップリーグ制覇に貢献。2007年に日本代表入りして、12年には、エディー・ジョーンズHCが就任後に主将に任命。2015年ワールドカップ後のオフシーズンに現役を引退。東芝のBKコーチなどを務め、今年2月に退任と同時に東芝を退社。ドラマ「ノーサイドゲーム」での演技も好評。(THE ANSWER編集部)