小島健輔が深層を解明「前澤氏はとっくにZOZO経営の情熱を失っていた」

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 ソフトバンク子会社のヤフーは9月12日、「ZOZOTOWN」を運営するZOZOにTOBを実施して発行済株式の50.1%を買い付け、子会社化すると発表。創業者の前澤友作氏は同日付で代表取締役並びに取締役を退任、ZOZOTOWN事業を担当する澤田宏太郎取締役が代表取締役社長兼CEOに就いた。前澤氏のワンマン経営で屋台骨に響く失策が続き、財務的にも厳しくなっていたから「必然の結末」に見えるが、実態は創業者による事業譲渡劇だった。

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ZOZOの収益力は衰えていない

 TOBによる企業買収というと会社が会社を買うイメージだが、今回のケースは創業オーナーによる持ち株譲渡というイグジット劇で、経営に行き詰まった会社が身売りするイメージとは大きく異なる。

 ZOZOSUITに始まってPB、ZOZOARIGATOと大失策が続いて大きな損失を被り、収益も成長も陰りが見えていたとはいえ、ZOZOは依然、高い収益力を維持しており身売りするような経営状況ではなかった。

 一連の大失策とて、18年3月期に48億5000万円、19年3月期に72億9000万円の損失を計上して敗戦処理もあらかた終わっており、20年3月期以降は足を引っ張ることはないはずだ。大失策が始まったばかりの18年3月期では201億5600万円。大失策が直撃の19年3月期でも159億8500万円の税引後純利益を稼ぎ出すZOZOにとっては、一連の大失策で失った資金もたった一期で取り戻せる程度の向こう傷だった。

 三大失策による損失とは別に、宅配料金値上げと倉庫運営人件費の上昇による54億8000万円(19年3月期)は今期以降も営業収益を圧迫するが、敗戦処理が終わって損失負担がなくなれば収益性は大きく回復するので、20年3月期の会社目標営業利益320億円はともかく300億円の大台には難なく回復するだろう。

EC全般が勢いを失いつつある

 20年3月期の営業利益が会社目標には届かないと見るのは、ZOZOに限らず19年に入ってEC全般の伸び率が鈍化しているからで、ZOZOが目標とする取扱高の13.6%という伸びも苦しい。実際19年4〜6月期の伸び率は12.5%と前年同期の18.2%から七掛け以下に減速している。

 

 取扱高や売上げの伸び率鈍化はZOZOに限らず、宅配運賃値上げなど物流コスト増を顧客の送料負担に転化したほとんどの事業者に共通しており、宅配便大手3社の合計取扱個数は19年4〜6月期で前年同期比0.9%増と伸びが止まり、ポスト投函の「ネコポス」「ゆうパケット」を除けば97.2%と失速している。

タダで届くと思うんじゃねえよ』は顧客の期待を裏切る最悪の対応だった。『タダで届くからEC』というのが顧客の本音で、もとより宅配料金が高かった欧米では送料取るなら店受け取りを選択するというC&Cシフトが急伸している。

 ZOZOも在庫を預かるフルフィル型に固執すれば物流費が逆ザヤになりかねず、FBZ(フルフィル・バイ・ZOZO)を成長の柱にすれば収益力が急落するリスクが指摘される。ZOZOの倉庫運営はお世辞にも効率的とはいえず、ITどころかメカトロにも遠い人海戦術のままだから、スルー出荷型自動倉庫に切り替えて飛躍的に効率化するか、物流負担を回避しC&Cを進める大手アパレルの離反も避けられるドロップシッピングに切り替える決断が求められる。

 倉庫運営を飛躍的に効率化できればローカル運送業者の活用と組み合わせて物流コストを大きく落とせるから、『タダで届けます』と顧客に擦り寄ることもできるのではないか。

資金繰りもヤバくはなかった

 資金繰りにしても、現預金が18年3月期末の245.71億円から19年3月期末に215.60億円に減り、直近四半期末も189.74億円に減少しているが、PBもやめて在庫の圧迫も解消されつつあるから、資金繰りに窮するという状態ではない。18年6月末に22.3%まで急落した自己資本比率もわずか1年で31.2%まで回復し、純資産も前期末の225.28億円から6月末には249.02億円まで回復しており、「稼ぐ力」が衰えていないことを実証している。

 前期に資金回転が悪化したのは大失策による出血とPB在庫が圧迫したからで、もとより売上げ手数料商売のZOZOは敗戦処理が終われば資金回転の回復も早い。資金繰りがヤバくなって外部資本を導入したという見方は全く当たらない。

 18年3月期まで無借金だったのが前期に220億円に急増したのも前澤氏の持ち株を購入するのに244億1299万円を要したためで、自己資本比率が18年6月末に22.3%に急落したのも同じ理由だ。当座貸越300億円、シンジケート方式のコミットメントライン契約150億円、計450億円の銀行借り入れ枠もあり、多少は勢いが衰えたとはいえ、事業運営には破綻リスクは全くなく、会社は身売りするような状態ではなかった。

実態は創業オーナーの持ち株譲渡劇

 会社の経営が行き詰まってなかったのにヤフーのTOBを受け入れて子会社になるのは、全て創業オーナーの前澤友作氏の懐事情による。

 今回のTOBを適時開示するヤフー側のリリースで明らかになったように、前澤氏の持ち株の大半は前澤氏の借り入れの担保に供されており、譲渡にあたってTOBの開始日から15日以内の担保解除が求められている。

 8月22日段階で前澤氏が所有するZOZOの発行済株式36.76%のうちTOBで譲渡する30.37%の58.1%(発行済株式の21.34%)、2月末のピークでは前澤氏所有株式の87.7%が担保に入っていた。19年2月下旬のZOZOの平均株価を2000円と見れば、担保に供されていた98,408,100株の総額は1968億1620万円にも上る。

 前澤氏はいったい何のために2000億円近い借り入れをしていたか、ZOZOの借り入れ総額が220億円に過ぎないこと思えば法外な金額と言わざるを得ない。記者会見の席でもその質問が飛んだが、前澤氏は個人的なこととして回答しなかった。美術品投資や出資など想像の域を出ないが、少なくともZOZOのためではなかった。ZOZOの経営より夢中になる何かがあったのだろう。

 18年7月のピークには4875円の値がついたZOZO株も一連の大失策に前澤氏の発言も災いして19年2月8日には1621円と落ち込み、前澤氏は担保の追加や売却清算を強いられる寸前だったとされる。それがヤフーに譲渡を持ち掛ける契機だったとしたら、創業オーナーの都合で会社を売り逃げたとの批判は免れまい。事実、そのように批判する記事も見られる。

3375億円の創業者利潤

 

 今回のTOBでZOZOの発行済株式の最大50.1%をヤフーが取得する費用は総額4007億3660万円。うち、前澤氏から買い取る92,726,600株(発行済株式の30.37%)の取得価格は2429億4370万円。取得単価2620円は9月11日の終わり値2166円より21%高く、2月8日の底値1621円より61.6%も高い。持ち株の高値での有利な売却のために会社を売ったとの批判が出るのもやむを得ないだろう。

 前澤氏は持ち株の売却を18年5月23日の立会い外取引でも行っており、6,349,100株(発行済株式の2.04%)を244億1229万円(一株3845円)でZOZOに買い取らせている。

 それが無借金経営で来たZOZOに220億円の借り入れをさせる原因となったのはもちろんだが、ZOZOSUITが失敗しPBの立ち上げも四苦八苦していた時期だけに違和感を否めなかった。さらにさかのぼれば15年11月17日にもZOZOは立会い外取引で自社株を3885円で4,891,000株、総額190億227万円購入しているが、これも前澤氏の持ち株だったと推察される。

 これらを合計すると前澤氏は総計2864億円の自社株式を換金したことになり、TOB後も手元に残る19,500,000株も2620円で売却すれば最大3375億円を手に入れることができる。創業者利潤といってしまえばそれまでだが、売られたZOZOの社員たちにしてみれば腹に収まらぬものがあるに違いない。

 前澤氏の後を引き継いだ澤田宏太郎代表取締役社長兼CEOが記者会見で前澤氏に面と向かって、『僕は華やかな経営者の裏で足元を固めるのが役割だった』『今後はトップダウンから社員一人一人の力を生かす経営に移行する』と言い切ったのが印象的だった。

創業者のオーナーシップとは何か

 創業経営者はファンドの出資を得ても株式を公開しても50.1%の持ち株比率(正確には議決権比率)を固守するもので、本人名義や家族名義、資産管理会社や持ち株財団はもちろん、信託銀行名義の信託株式まで合わせ過半数を維持しているケースが多い。ファーストリテイリングなど大株主上位10者全てが柳井一族と柳井家が信託した信託銀行や資産管理会社で、発行済株式の80.86%を占めているし、ワークマンも上位7者が一族や資産管理会社で76.36%を占めている。

 対して前澤氏は15年3月期までは発行済株式の47.27%を所有して信託株式と親族を合わせれば50.1%を確保していたと思われるが、15年11月17日の会社への売却などで16年3月期末には43.16%にシェアを落とし、16年9月30日の株式分割を経た17年3月期末には37.67%、18年5月23日の会社への売却などで19年3月期末には35.94%まで落としている。

 今回のTOBを経て前澤氏の持ち株シェアは6.26%まで落ち、残る1950万株も手放す方針と伝えられるから、オーナーシップ(経営権)にはもはや未練はないのだろう。前澤氏はいつごろからオーナーシップに熱意を失ったのだろうか。

 持ち株比率は3分の2、2分の1、3分の1、3%、1%がボーダーライン。3分の2以上を保有すれば特別決議も自在だから“絶対王権”、2分の1以上を保有すれば特別決議以外は自在に決められるから“立憲君主”、3分の1以上を保有すれば特別決議を阻止できるからポジションを守れ、3%以上を保有すれば株主総会の招集要求や監査請求ができ、1%以上を保有すれば株主総会で議案を提出できる。

 創業経営者が乗っ取りや下克上を阻止するには2分の1が必要で、安定株主が分散する上場企業なら3分の1まで落としてもリスクは小さい。ZOZOの場合は大株主に信託銀行や投資銀行が並ぶから、前澤氏は3分の1以上を確保していれば経営権が奪われるリスクは小さかったと思われるが、2分の1以上と未満ではオーナーシップの根本が違う。

総攻撃の最中に大将は脱走を準備?

 2分の1以上を保有するオーナーにとって会社は一蓮托生で自分と不可分のものだが、それ未満の保有では多少はさめた面も出てくる。前澤氏がZOZOを自分と不可分の分身と感じていたのは15年の11月17日までで、以降はZOZOの経営への熱意が薄れ、経営者を降りることや経営権の譲渡が頭をかすめていたに違いない。それがはっきりと形になったのが18年の5月23日で、この段階で今回の保有株式と経営権の譲渡が意識されていたのではないか。

 そうだとしたら、ZOZOSUITとPBに賭けて全軍が総攻撃する中、大将は既に脱走の手配を始めていたことになる。大金を手にして戦場を離脱する大将を、見捨てられた将兵たちはどう思うのだろうか。

目頭を押さえる前澤友作氏(右)と澤田宏太郎代表取締役社長兼CEO(左)

 振り返れば、前澤氏は12年の10月20日20時56分に『ただで商品が届くと思うんじゃねぇよ』とツイートした段階で顧客を見捨て、今度は社員や取引先など広範なステークホルダーを見捨てたことになる。記者会見で社員の落胆に前澤氏が目頭を熱くしたシーンに違和感を感じた人も多かったのではないか。

多難な新社長の船出

 大将が脱走した戦場の指揮を託された澤田宏太郎新社長は、そんな将兵たちの気持ちをまとめて活路を開く現場主導の経営を志すに違いないが、4007億円も投じたヤフーは孫氏の描く壮大な戦略構想の早期実現を強いられ、資本の論理を隠そうとはしないだろう。

 傷ついた将兵たちの思いをまとめてZOZO独自の成長を志向すればアスクル劇の再現もあり得るし、グループ戦略を急ぐヤフーの期待に応えようとすればZOZO独自の戦略は描けず、将兵たちの想いとは乖離していく。900株しか持たないサラリーマンCEO、澤田氏は内外の情況をどう読みどう決断しどう動くのだろうか。ZOZOにはこれまで以上に熱い注目を注ぎたい。