千葉県内では台風15号による停電の影響が長期化しているが、千葉県や政府の対応は大きく遅れた(記者撮影)

台風15号による停電が長期化している問題で、電力会社による情報提供のあり方が批判を招いている。

送配電事業を担う東京電力パワーグリッドは当初、2日程度で停電を解消できるとの見通しを示したが、その後、おおむね1週間、さらには2週間へと見通しを変更した。そうした中で、千葉県知事やマスメディアなどから、東電の「想定の甘さ」を指摘する声が相次いだ。

千葉県や国の対応は遅すぎた

しかし、問題とすべきは「見通しの甘さ」ではない。大規模災害の場合、被災状況の正確な把握自体がそもそも困難であり、情報の欠損や情報提供の遅延は当然起こりうる。東電の責任だけを追及しても得るものはあまりない。

大規模災害時には、正確な情報を得られず不確実性がある中で、意思決定をしていかなければならない。これが「クライシスマネジメント」(最悪の状態を想定した危機管理)の考え方だ。むしろ、国や地方自治体にクライシスマネジメントが欠如していたことこそ問題にすべきだ。

その一例が、行政による対策本部設置の遅さだ。千葉県が災害対策本部を設置したのは、大規模停電発生から丸1日以上が過ぎた9月10日午前9時のことだった。経済産業省の停電被害対策本部の設置は13日。政府全体の災害対策本部に至っては17日現在も設置されていない。

対策本部設置以前からさまざまな取り組みが続けられていたはずだが、大規模災害では電力のみならず、医療や食料の提供、避難場所の確保などさまざまな課題があり、政府や都道府県による対策本部を速やかに設置し、意思決定・情報発信していくことが必要だ。

その際、クライシスマネジメントの中枢を担うのも、電力会社などの民間企業ではなく、国や都道府県である。しかし、今回の災害では、対策の多くが電力会社任せにされている。

東電は9月13日になって、停電の復旧までにおおむね2週間が必要だとの見通しを示した。これだけ停電が長期化する事態であれば、電力会社に判断や公表を任せることが正しかったのかについても疑問がある。政府が主導してもよかったケースだ。

マスメディアの報道も、的外れなものが少なくない。例えば倒壊した電柱の本数が何本あるかとの質問に東電が答えられなかったことが問題視されたが、情報の正確性にこだわりすぎるのはクライシスマネジメントの観点から適切ではない。むしろ、災害時は情報が十分そろわないことが多いということを認識すべきだ。

仮に3ケタの電柱被害があり、停電が長期化した場合にどのような対処が必要であるかをあらかじめ予想したうえで、情報が少ない初期の段階でも被災者の安全を想定して行動する準備ができていたかどうかを問うべきだ。

科学的根拠に基づく議論が必要

停電の原因や対策に関する報道でも見当違いが少なくない。ある大手紙は、1990年代以降に送電関連の設備投資が抑制されていたことを挙げ、電柱が老朽化して倒壊を増やした可能性を指摘している。

確かに1970年代に建設された設備も多数残っており、「耐久性があると判断した電柱への投資を先延ばし」したとも言及されている。しかし、鉄塔や電柱の耐用年数は50年と定められており、現時点で明確な技術基準違反が多数見つかっているわけではない。

今後、電柱倒壊の原因や老朽化との関係については、経産省などで検証委員会などを立ち上げ、きちんと検証すべきだが、停電も十分解消されていない現時点で、十分な裏付けも取らず「老朽化が原因」と示唆することは、クライシスマネジメントの観点から優先すべき順位を見誤っているように見える。

電柱の地中化については逆のことがいえる。複数の政治家が電柱の地中化の有効性について言及したと報じられる一方、SNSやネットでは地中化は莫大なコストがかかるとか地震に弱いなどの反論も相次ぐ。欧米ではこのようなインフラ投資に対しては費用便益分析(費用対効果の検証)を行うが、日本では印象論的な消極論が多い。

地中化は確かに建設コストがかかり、電力料金を押し上げる可能性もあるが、自然災害に対する強靭性や事故率の低さ、景観・環境の点からコストに見合う便益(ベネフィット)が期待される。電柱の地中化や耐久性基準見直しは、防災やリスク低減というリスクマネジメントの観点から検討する必要があるだろう。

災害多発時代の日本にとって必要なのは、科学的根拠に基づいたリスクマネジメントの議論と合意形成手法の確立だ。