週末に平日より2時間長く寝る人は"睡眠負債"
Q. 週末の寝だめはNGってほんと?
■平日より2時間多く週末に寝る人は注意
平日に睡眠不足が続き、週末にせめて寝だめしたいという人に「NO」をいうつもりはありません。「寝だめしたい」と思うこと自体、脳と体からのSOSのサインです。どうか無理せず寝てください。
ただし、寝だめは根本的解決にはならないことも覚えておいてください。
「睡眠不足」は慢性化すると「睡眠負債」になります。「不足」と聞くと、少し足りていないだけで、すぐ取り返せるような気がしますが、「負債」となると話は別。積み重ねれば借金地獄のように首が回らなくなり、簡単に返済はできなくなります。寝だめとは、睡眠の事前チャージではなく、あくまで後から足りなかった分を補填しているにすぎないのです。
では「睡眠負債」が長引くと、私たちの体はどうなるのでしょう。肥満や糖尿病、高血圧やうつ病などの精神疾患、さらにはがんや認知症など、さまざまな病の発症リスクが高まり、結果的に短命になりやすいことが明らかになってきています。
たまたま忙しい日が続き、2、3日寝不足が続いている程度なら、その後の週末で「清算」できるでしょう。しかし数週間、あるいはもっと長期にわたって不適切な睡眠量の日が続いてしまっていたら……、返済のめどは簡単にはつきません。もしあなたが毎週末必ず、平日より2時間以上長く寝てしまう場合は、立派な「睡眠負債」です。なるべく早めに生活リズムを立て直すことをお勧めします。
■自分に適した睡眠時間を再確認する
まずは、自分に適した睡眠時間を再確認することから始めましょう。スタンフォード睡眠研究所の創設者が行った有名な実験があります。「7.5時間睡眠が最適」と自覚する8人を集め、「毎日好きなだけ寝ていい」と14時間ベッドに入れさせたのです。最初の日はほとんど皆が13時間寝ました。無自覚に「睡眠負債」がたまっていたんですね。しかしその後10時間睡眠になり、3週間もすると8.2時間になり、その後は増えも減りもしない状態に落ち着きました。
つまり彼らにとって本当の睡眠最適時間は8.2時間。毎日40分ずつ睡眠が足りていない「睡眠負債」に陥っていたことがわかりました。
「7時間以上も寝ているなら大丈夫だろう」と考える人は多いでしょう。でも寝不足が続いている日々では、就業中に一瞬意識が飛ぶ「マイクロスリープ」に陥っている可能性もあります。車の運転中や、危険な作業中なら命取りになります。
現在の睡眠時間から毎日20分ずつ増やしてみてください。朝、自然に目覚め、日中眠気に襲われず、パフォーマンスが向上したと感じる睡眠時間、それがあなたにとって最適な数字なのです。くれぐれも「負債」は2日程度の週末の寝だめでは返済不可能と覚えておいてください。
▼「睡眠負債」は、週末の寝だめでは返済不可能
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西野 精治(にしの・せいじ)
スタンフォード大学医学部精神科教授
同大学睡眠・生体リズム研究所(SCNlab)所長。医学博士、精神保健指定医、日本睡眠学会専門医。2019年5月に睡眠に特化した健康経営のコンサルティングなどを手がけるブレインスリープのCEOに就任。
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(スタンフォード大学医学部精神科教授 西野 精治 構成=三浦愛美 撮影=原 貴彦)