ベンチスタートの武藤嘉紀に出番の声がかかったのは、リバプールの2−1のリードで迎えた後半22分のことだった。

 武藤が素早くユニフォームに着替えると、テクニカルエリアでスティーブ・ブルース監督に背中をポンと押された。指揮官に短く言葉をかけられたあと、パラグアイ代表MFミゲル・アルミロンとの交代で5−4−1の右MFに入った。


武藤嘉紀がゴールを狙うも相手DFの壁は高かった

 この時間帯のニューカッスル・ユナイテッドは、完全に攻め手を失っていた。

 欧州王者のリバプールから前半8分に幸先よく先制すると、ニューカッスルはフィールドプレーヤー全員で守備を固めた。しかし、第3節のトッテナム・ホットスパー戦で機能した守備戦術は、すぐに崩壊する。前半28分に同点ゴールを被弾し、前半40分には逆転ゴールを奪われた。

 とくに、FWディボック・オリジの負傷でレギュラーFWのロベルト・フィルミーノがベンチから出てきた前半37分以降は、試合の流れが一気にリバプールへ傾いた。チャンスの山を築くリバプールに対し、ニューカッスルはコーナーに追い込まれたボクサーのように防戦一方にまわった。

 武藤は、そんな厳しい状況でピッチに入った。同点ゴールを奪うことに狙いを定めていたが、劣勢にまわっていたことから、右サイドのスペースに戻って守備に走る場面も少なくなかった。

 そして、チームがボールを持つと、武藤はCFの位置までポジションを押し上げ、DFラインの背後に抜ける動きでラストパスを引き出そうとした。「点を獲りにいかないといけなかったので、少しでも前に張るようにしていました」と、武藤は言う。

 ところが、開幕4連勝中のリバプールとの力の差は歴然としていた。ニューカッスルはチームとして機能せず、後半27分にさらに被弾。武藤も決定機に絡むことなく、1−3で試合終了のホイッスルを聞いた。

 試合後、武藤は反省の言葉を口にした。

「役割を果たせなかった。ここで決めるのと決めないのとでは(大きく違う)。どんなに強い相手であっても、やっぱり決めないといけない。どこで出ようと、監督がよしとするプレーを出さないといけないので。今日はそれができていなかったし、反省しないといけない」

 とはいえ、惜しいチャンスもあった。後半のアディショナルタイム、スルーパスに反応し、相手DFラインの背後に飛び出した。DF手前の位置から回り込むようにして走り、パスの出る絶妙なタイミングで裏のスペースに抜けたが、オフサイドの判定。しかし、リプレイで確認すると明らかにオンサイドで、誤審に泣かされた。

 武藤も「(抜けていれば)完全にGKと1対1になっていったので、もったいなかった。強い相手に対しては、ああいうワンチャンスを決めるしかない。何回もチャンスがあるわけではないから」と悔しそうな表情を浮かべた。

 一方で、武藤が取材エリアで口にしたのが、昨季CLで頂点に立ったリバプールの強さについてだった。「相手のほうが上手(うわて)だった」と語ると、その理由を次のように話した。

「やっぱり(先制されてもリバプールは)焦らない。ひとりひとりの技術がほんと高いなと、あらためて感じました。選手たちは走れるし、球際も強い。うまいし、すごい運動量がありますし、みんなが連動している。なので、攻撃がどこからくるかわからない。個の力がある選手が揃っている。

 毎回やって思うのは、本当に強いなと。これが世界一のチームなんだなと感じました。だからこそ、その相手から得点を獲れればよかったですけど」

 今回のリバプール戦で、ニューカッスルは開幕5試合を消化した。武藤の出場記録は5試合連続でベンチスタート。そのうち4試合に途中交代で出場し、1試合で出番がなかった。現状、控えの扱いに甘んじている。

 武藤の置かれている状況はなかなか厳しい。武藤としてはゴールがほしい。結果さえ掴めば、レギュラーに大きく近づくと本人も信じている。

 だが、そのためには限られた出場時間のなかで、結果を残す必要がある。また、今回のリバプール戦のように、強豪相手になれば守備もこなさなければならない。サイドMFであれば、なおさらだ。

 加えて、ブルース監督は戦術の引き出しが多いようには見えず、「引いて守ってカウンター」しか策がない。最前線の1トップはロングボールを収める技術が必要になり、長身FWのジョエリントンの高さを軸にするしかないのが現状だ。

 武藤としては、第2節まで採用していた2トップシステムに活路を見出したいところ。だが、第3節のトッテナム戦以降は1トップで戦っており、2トップの採用は限定的だ。そのなかで武藤は、チームの勝利に貢献しながら、与えられた時間のなかでいかに結果を出すか――。言葉にするのは簡単だが、実際のハードルは高いように映る。

 それでも、武藤は気丈に話して前を向いた。

「サイドだと得点の確率は減ると思いますけど、そうであってもゴールを決めたり、アシストしないと状況は変わらない。監督としてはたぶん、僕のことは前(=CF)で考えていると思う。でも、今日の相手だったら、『5−4−1でしっかりと守る』戦術だった。前にひとりだけ置いて、あとはみんなで守るって感じなので。

 そのフォーメションになると(自分は)難しい。自分としてはプラスではないですけど、それをどうこう言うつもりはない。それがチームだし、監督が求める場所でプレーするのが選手なので。そのなかで点を獲っていかないといけない」

 次戦の相手は、グレアム・ポッター監督の就任で攻撃サッカーに舵を切ったブライトン。相手の後方部にスペースが生まれることが予想され、出番が回ってくれば武藤にも得点チャンスが出てくるだろう。

 しかも、1勝3敗1分のニューカッスルは、9月15日時点で暫定17位に沈んでいる。ブライトン戦後はレスター・シティ戦、マンチェスター・ユナイテッド戦と難しいゲームが続くだけに、ここで勝ち点3がどうしてもほしい。

「絶対に勝たないといけない。だからこそ、自分の得点で勝てれば一番です」

 自分自身に言い聞かせるように、27歳FWは力強く言い切った。