「日本のプレースピードは際立っていた。コンビネーションのなかで見せる技術は高く、スペースを作りながら、ゲームを支配し、優位性を保っていた。とくに前半はパラグアイを圧倒した」

“スペインの目利き”ミケル・エチャリ(72歳)は、日本代表が2−0でパラグアイに勝利した試合をそう振り返っている。レアル・ソシエダ、アラベス、エイバルなどの有力クラブで強化部長、育成部長、監督など要職についてきたエチャリは、日本のプレーに賛辞を惜しまなかった。厳しい目を持つ彼はこうも付け加えた。

「パラグアイはマンマークに近い戦術を基本にしていたが、日本の攻撃にかく乱され、翻弄されていた。あられもないほどスペースを与え、なす術がなかった。パラグアイの試合マネジメントにも問題はあったと言える」

“完璧主義”と言われるエチャリは、克明に試合を分析した。


パラグアイ戦で2点目のゴールを決めた南野拓実

「ロシアワールドカップから約1年、森保一監督がチームを若返らせた点に、まず拍手を送りたい。あれだけの成果を挙げたチームをアップデートするのは、容易ではないだろう。先発メンバーの半分以上が入れ替わっている。堂安律(PSV)、冨安健洋(ボローニャ)、そして久保建英(マジョルカ)のような若い選手を抜擢し、戦力にしつつあるところも評価するべきだ。

 日本はすでにひとつの形となった4−2−3−1の布陣で、南米のダークホース的存在、パラグアイを迎え撃っている。

 前半、日本は完全にイニシアチブを握っていた。ボランチの橋本拳人(FC東京)、柴崎岳(デポルティーボ・ラ・コルーニャ)の2人が防御線を安定させると、両サイドでボールを受ける堂安、中島翔哉(ポルト)の2人が積極的にインサイドに入り、代わってサイドバックの酒井宏樹(マルセイユ)、長友佑都(ガラタサライ)が駆け上がる。そのスペースは橋本、柴崎が埋め、南野拓実(ザルツブルク)、大迫勇也(ブレーメン)が前線でダイナミックに連係。中央を固めてセカンドボールを拾い、サイドの攻撃を分厚くして押し込むことで、”スペースの陣取り合戦”で圧勝している。

 もっとも、パラグアイが自滅に近かったのも事実だろう。エドゥアルド・ベリッソ監督はマンマーク戦術信奉者だが、まったく機能していなかった。人に食いつく強度が足らず、闇雲にスペースを明け渡すだけで、そこを使われてしまった。長旅や時差による体調不良もあったのだろうか。

 個人的な意見を言えば、マンマーク戦術は勧められない。エリア内では人のマークを見失うべきではないが、オールコートでは破綻する可能性が高いだろう」

 エチャリは戦術家としての視点で語り、こう続けた。

「日本のサイド攻撃は特筆に値した。たとえば前半15分過ぎ、中盤に下がった中島が持ち上がり、右サイドを攻め上がった酒井へパス。インサイドにポジションを取った堂安はスルーし、エリアに入った大迫勇也がシュート。連係の高さがうかがえて、戦術レベルは出色だった。

 それは23分の先制点につながっている。橋本からの縦パスをインサイドで受けた中島は、近くに寄ってきた堂安にパス。さらに左サイドでフリーになった長友にパスが出ると、ニアに走りこんだ大迫がダイレクト左足で合わせた。パスの方向が目まぐるしく変わって仕留めたゴールだ。

 そして、30分の得点シーンはこの日のベストプレーだったかもしれない。橋本が左サイドに開いて起点になると、インサイドに入ってフリーになった中島にパス。中島はすかさず右サイドの酒井へボールを入れると、その折り返しを南野拓実が押し込んだ。左で作って、右へ大きく展開し、深みを作り、それを中央で合わせる。模範的な攻撃と言えるだろう。

 日本は外、中、外と、ボールの動きを一定させずに変えていた。ボールを入れるアングルも常に変化させ、相手に的を絞らせていない。スペースの戦いで優勢なだけに、選手が余裕を得てプレーしていた。チームの練度の賜物だ」

 2−0とリードした前半の戦いを語ったあと、エチャリは後半の戦いにも及第点を与えた。

「後半も、日本はリードを生かして試合を進め、多くのチャンスを作っている。

 原口元気(ハノーファー)が左サイドを深く攻め上がり、折り返したボールに対し、南野がマークを引き連れ、スルーしたボールを久保が背後で受け、左足シュートに持ち込んだ場面も秀抜だった。原口のパスは南野に向けたものだろうが、南野、久保は即興的な判断をし、決定機作っているのだ。

 後半から登場した久保は、敵の脅威になっていた。その証拠に、なりふり構わないファウルを何度も受けている。久保はテクニックが注目されるのだろうが、戦術的にとても賢い。ポジション的準備で勝っているため、相手を劣勢に追い込める。右サイドをタイミングよく抜け出し、角度のないところから左足で狙い、シュートがバーを叩いたシーンも目を見張った」

 エチャリは久保について語った後、こう試合を総括した。

「日本は、その特長であるスピードとテクニックを最大限に使っていた。チームとしての連係は確実に深まりつつある。ミャンマー戦に向け、いい準備ができたと言えるだろう」

(つづく)