6月にパキスタンで販売を開始したスズキの新型「アルト」(写真:スズキ)

スズキの新型「アルト」が好調だ。6月15日に発売して、7月の販売台数は約4600台。これは乗用車市場全体の約4割に当たる――。もちろん日本でのことではない。遠く離れたパキスタンでのことだ。

ガラケーならぬ「ガラ軽」

日本が誇る小型車「軽」。エンジンの排気量660娑焚次⊆崑里猟垢3.4メートル以下、幅1.48メートル以下、高さ2.0メートル以下という制約の中、工夫を凝らした軽は多くの消費者の心をつかんでいる。今や、国内の年間自動車販売台数の約4割を占める。

軽が人気なのは、コンパクトなボディーが狭い日本の道路事情に合っているため。加えて、軽以外の「登録車」と比べた税制優遇も大きな理由である。


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国内の規制に特化する形で進化した軽を、「ガラパゴス携帯=ガラケー」になぞらえ「ガラ軽」と呼ぶ向きもある。それは半分正しく、半分は間違いだ。

スズキが1983年にインド政府との合弁会社で最初に生産したのは「アルト」に800ccエンジンを積んだ「マルチ800」である。その後も軽ベースの車を投入したスズキは、今やインドの乗用車市場でシェア約40%を握るまでになった。

ただ、マルチ800でもわかるように海外で販売するのは、軽そのものではない。550cc(1989年まで)や660cc(1990年以降)という軽のエンジンでは、力不足で現地ニーズを満たせないという考えから、基本800佞1000佞離┘鵐献鵑鮴僂鵑任た。

国内での軽優遇の賛否は置くとして、グローバルに展開する日本の自動車メーカーにとって海外で売りにくい軽に開発リソースをどこまでつぎ込むのかは悩ましい。だからこそ、パキスタンでのアルトのヒットはスズキのみならず、軽を生産する日本の自動車メーカーにとって大きな意味がある……のかもしれない。

軽の輸出先として圧倒的トップ

曖昧な表現になるのは、パキスタンが特殊な市場であるからだ。というのも、日本から輸出される中古車、その中でも軽の輸出先として圧倒的トップなのだ。


パキスタンでの新型アルト発表会(写真:スズキ)

日本の中古車輸出統計で660娑焚爾箸いΧ菠が新設された2013年以降、2018年まで6年連続でパキスタンが輸出先の首位である。それも中古軽輸出全体の40%台から70%台をパキスタンが占めている。

実際にパキスタンの中古車販売サイトを確認すると、660侫┘鵐献鵑鯏觝椶靴新擇多くみられる。スズキ・ホンダ・ダイハツ工業などメーカーもさまざまだ。興味深いのは、中古軽の価格が年式にもよるが、パキスタンで生産された新車と比べても決して安いわけではないということ。

では、なぜパキスタンで安くもない中古の軽が受け入れられてきたのか。

まずパキスタンの新車市場は、スズキ、トヨタ自動車、ホンダの日系3社が100%近くを握る世界を見渡しても日本車が特別強いマーケットである。ジェトロの海外調査部アジア大洋州課の北見創リサーチ・マネージャーは「日本品質への信頼感がある」と指摘する。

シェアトップのスズキがパキスタンで生産を開始したのは1982年。インドと同様、アルトに800侫┘鵐献鵑鮴僂鵑声嵶召世辰拭その後も軽ベースでエンジンだけ大きくした車を生産してきた。こうした経緯から消費者は軽のサイズになじみがある。

パキスタン製の自動車は、産業保護政策の影響で多くのパキスタン製部品を使っている。このため「たとえ中古でも純日本製の車を評価する層がある」(北見氏)という。輸入中古車は排気量によって関税が異なる。中古車輸出を手がけるBE FORWARDによると、660cc(軽)と1000ccの中古車を輸入する場合、関税は660ccのほうが30万円ほど安くなるという。

パキスタンでの中古車輸入は原則禁止

整理すると、日本車への信頼感が根底にあり、軽のサイズにもなじみがあり、現地生産車よりも純日本製の中古車を好む消費者が一定程度存在する。さらに関税で軽の優遇が大きい。こうしたことからパキスタンで中古の軽が浸透していた。

実は、パキスタンでは中古車の輸入は原則禁止。特例として一定の条件を満たした在外パキスタン人が年1台輸入することが認められている。これまではバイヤーが輸入権を取りまとめて事業化していた。

しかし、2018年に誕生した新政権が自国産業保護を狙って輸入規制の運用を厳格化した。結果、こうしたこともあって2019年6月のパキスタンへの中古車輸出は178台、前年の6月から約2000台も減少している。

660ccのアルトの現地生産が始まったのは、こうした絶妙なタイミングだった。パキスタンのほかにも、スリランカやロシアなど中古の軽が輸出されている国がある。そういった国を足がかりに、“ガラ軽”が世界に羽ばたく日もそう遠くないのかもしれない。