9月13日は中秋の名月。この季節になると、夜空を見上げることが多くなりませんか?

映画の中では、SF映画で月が舞台になることもあれば、月の柔らかい光が効果的に使われていたり、月の持つ神秘的なイメージが演出されていたりして、大活躍のお月様。

そして、恋人たちのロマンティックなシーンに欠かせないのも、月明かりだろう。

そこで今回は、月明かりに照らされた秋の夜長に観たい映画14本をご紹介しよう。

ムーンライト』(2016)

心を許したのは君だけ

マイアミの貧困地域で麻薬常習者の母親と暮らす少年は、学校でイジメられていたが、麻薬の売人に助けられ、心を開くようになる。

麻薬に溺れる母親から育児放棄され、学校でも居場所がない少年には、友人はたった1人。たまに麻薬の売人の家に行っては、温かい料理を食べさせてもらう。それが少年のいる世界の全て。彼らを慕い、反発し、愛を求め、裏切られて、少年は大人になる。

主人公の人生を3つの時代に分け、全く似ていない3人の俳優が演じているにも関わらず、これは確かに同じ人間だという印象を抱くのは、そのまなざしが絶望と孤独に彩られた優しい光をたたえているからだろう。金歯でマッチョになっても、中身は傷つきやすい昔のまま。ムーンライトに照らされた黒人の肌は、美しいブルーに見えるんだよ。

『月の輝く夜に』(1987)

月明りの下で

ニューヨークで暮らすイタリア系アメリカ人の未亡人が、幼なじみから求婚され、気が乗らないまま承諾してしまう。

まだ37歳の彼女は、夫を亡くしてから見た目に構わなくなったのか、髪も白髪まじりで容姿がすっかり色あせてしまい、婚約しても嬉しくなさそう。そんな彼女が、婚約者の弟から突然キスをされて恋に落ちるところが、イタリアンである。

情熱的な求愛により、カサカサになっていた心と体に潤いが戻ってきた彼女。久しぶりに美容院でカラーリングをし、シックなファッションに身を包んでオペラ・デートするところも、これまたイタリアン。月が美しく輝く夜に、偶然3人の恋模様が進行しているあたりも、ロマンティックなムーン・マジックだ。

『アイアン・スカイ』(2012)

そんなところに?

第2次世界大戦で敗北したナチス・ドイツだったが、一部のエリートたちが月の裏側へ逃亡し、秘密基地を建造していた。

世界中の映画ファンから製作資金を募ったところ、約1億円のカンパが集まったという奇想天外なSFアクション。月に潜んで独自のテクノロジーを開発し続けていた彼らは、ついに2018年UFO型宇宙船を率いて地球に向かい、侵攻を決行する。続編『アイアン・スカイ 第三帝国の逆襲』(17)あり。

彼らを発見したアフリカ系アメリカ人を薬で白人化してしまうなど、相変わらず人種差別的なナチスなのだが、地球に行ったらアメリカ大統領選挙キャンペーンに利用されるわ、彼らが月で貯蔵していたヘリウム3はアメリカの所有物だと主張されてしまうわで、アメリカのやりたい放題。そんな皮肉とブラックユーモアがいいね。

『おっぱいとお月さま』(1994)

おっぱいには逆らえない

生まれたばかりの弟にママのおっぱいを奪われたと感じた9歳の少年は、お月様に「僕だけのおっぱいがほしい」と願いをかける。

とにかく“おっぱい”なのである。しかもそれは、ミルクがいっぱい入っているような豊満なおっぱいでなければならない。そんな少年(男)の夢を、お月様は律儀に叶えてくれた。彼が一目ぼれしたのは、サーカスの踊り子のおっぱい。なるほど、監督が「ヨーロッパ一の美乳」と絶賛する見事なおっぱいだ。

サーカスという見世物小屋のいかがわしさ。美しい人妻のおっぱいというエロティシズム。本能的に彼女に夢中になる男二人が滑稽に見えたり、肉体と精神の充足に葛藤する彼女がいじらしく思えたり。満月のようなおっぱいには、誰もかなわないね。全ては大らかなおとぎ話。

『月世界旅行』(1902)

世界初のSF映画

天文学教授が5人の学者たちと月へ探検旅行をすることになり、彼らを乗せた砲弾型ロケットは大砲で発射されて月まで飛んでいく。

14分の作品。モノクロ・サイレント映画だが、着色版もあり。いろいろなトリック撮影が意欲的に試され、ちゃんとストーリーもあることが非常に画期的で、映画史を語るときには必ず取り上げられる作品である。ちなみにパブリックドメインなので、インターネットで動画視聴が可能だ。 

ロケットが人の顔をした月の右目に突き刺さる。そのインパクトときたら。そこでは雪が降り、洞窟の中には巨大キノコが生え、異星人のいる王国もある。月ってどんなとこ? という空想が生み出した冒険ファンタジー。行って帰ってきてバンザイ。だたそれだけのシンプルさよ。これぞ映画の原点。

『アポロ13』(1995)

必ず生きて帰らせる

打ち上げられたアポロ13号の乗組員たちが、意気揚々とテレビ中継に出演した後、酸素タンクの攪拌スイッチを押したところ、突然爆発が起きてしまう。

爆発事故のため、アポロ11号から16号までの月面探査船計画で、ただ一機目的を達成できなかったアポロ13号の実話に基づく作品。酸素が流出し、燃料電池の出力が低下してゆく絶体絶命の中で、「絶対に生還させる」という固い決意に支えられた研究者と地上スタッフたちが、総力をあげて知恵を絞る様子が感動を呼ぶ。

実は最初はマスコミに無視されていたというアポロ13号。それがこんなに有名になったのは、この奇跡的な生還ドラマがあったから。フライトディレクターを演じたエド・ハリスの頼もしさ。彼の男泣きにもらい泣き。

『ウルフマン』(2010)

進化した狼男

19世紀末イギリスで舞台俳優として名声を得ていた主人公は、兄が行方不明であることを知らされ、久しぶりに故郷へ帰ってくる。

『狼男』(41)のリメイク作品。「狼男」ではなく「ウルフマン」というネーミングでもわかるように、満月の夜に凶暴な狼人間に変身してしまうところは同じだが、呪いを受けたウルフマン一族として生きなければならないなんて、宿命の背負い方が現代的だ。

しかも、父親も息子もウルフマンという悲劇。しかもその父親は、己の欲望のために息子を殺そうとする悪どいウルフマンなので驚く。ウルフマンになる前からそういう人間だったのか? 自分の意志とは関係なくウルフマンになってしまった主人公が、デビルマンのように苦悩する。つまりこれは、父親と息子の物語。

『月のひつじ』(2000)

羊の町で世紀のイベント

1969年人類初の月面着陸に挑むアポロ11号の生中継が、電波の問題から、オーストラリアの田舎町にあるアンテナが使われることになる。

あろうことか、アメリカに電波が届かない時間帯に月面着陸することになってしまったアポロ11号。そこでNASAが依頼してきたのは、南半球の小さな町にある巨大アンテナだった。かくして、人間よりも羊の数の方が多いといわれる田舎町がクローズアップされ、世紀の瞬間を世界中に送れるのかどうか、その運命を託される。

大きなトラブルを乗り越えたと思ったら、直前になってまた……裏方の苦労は大変なものである。アームストロング船長が月面に降り立ち、あの有名な言葉を口にするシーンが、こんな風に中継されていたとは。弱小チームが世界大会に出場したような誇らしさだ。知られざる実話に感慨ひとしお。

『ルナ・パパ』(1999)

相手は誰だ?

タジキスタンに住む女優志望の娘は、満月の夜に森の中で見知らぬ男に声をかけられ、妊娠してしまう。

楽しみにしていた演劇を見損ねた後だったし、相手が俳優だと名乗ったので、つい許してしまったのかもね。父親のわからない子供を妊娠してしまった17歳。親は激怒するが、それでも可愛い娘のこと。精神を病んだ兄を連れて、相手の男を捜す旅に出る。

タジキスタンの乾いた大地で、少女に次々と降りかかる試練の嵐。いきなりギャングの流れ弾が飛んできたり、頭上に牛が落ちてきたりするワイルドな展開が美しい映像で描かれ、彼女の意外とたくましい姿にも好感が。無理解で保守的な男たちを残し、彼女は別世界へ飛んでいく。

『月に囚われた男』(2009)

いつからここに?

地球の資源となるヘリウム3を採掘するため、月面基地で独り暮らしをしている宇宙飛行士は、もうすぐ契約が終わるというときに突然体調を崩し始める。

1980年前後のSF映画にオマージュを捧げている作品で、懐かしいアナログな雰囲気が逆にカッコよく、主人公の相棒的存在である人工知能ロボットが、顔文字のような表情をするのでホッとする。真っ暗な世界で黙々と作業をする彼の孤独。もうすぐ帰れるからガンバレ。地球には愛する妻子が待っているはずだ。

「何か変だな」という嫌な予感は、彼の容態がみるみるうちに悪化していくことで確信に変わる。残酷な事実によって世界はコペルニクス的転回を起こし、崩れ去るアイデンティティ。密室サスペンス劇のような展開に引き込まれ、近未来ではありそうな恐ろしさとほのかな哀しみが漂う。

『ギター弾きの恋』(1999)

もう取り戻せない

1930年代ジャズ全盛期のシカゴで、音楽に生きる天才ギタリストは、その一方で裏社会でも仕事をするなどの自堕落な人生を送っていた。

冒頭で監督自ら主人公の紹介をするなどドキュメンタリー・タッチの作風だが、エメット・レイというギタリストは架空の人物である。天才であることを自称する彼は、確かにジプシー・ジャズの世界では素晴らしいギタリストのようだが、その素顔は娼婦の元締めをしていたり、女遊びにうつつを抜かしたりする軽い男。

本当の愛を知らない彼が出会ったのは、口のきけない素朴な女性。これがまた、その子につらく当たるんだよな。そんな彼の因果が、めぐりめぐって自分に返ってきたときには時すでに遅し。とはいえ、この自業自得の悲恋を笑うこともできず。大きな三日月に座って音楽を奏でる姿が、ノスタルジック。

『ファーストマン』(2018)

最初の人類に

幼い娘を亡くした空軍のパイロットが、NASAの宇宙飛行士試験に合格し、人類初の月面着陸を目指す。

もともと空軍のテストパイロットだったアームストロング。NASAの宇宙飛行士に選抜され、家族を連れてヒューストンに移り住む。同じように宇宙開発を扱ったほかの映画に比べると、彼を特別な英雄として描いていないところが特徴。1961年から1969年の物語が、彼の内面を通して静かに淡々と語られていく。

感情を表に出さないが、頑固に信念を貫く。奥さんにさえ何を考えているのかわからないそんな男が、ライアン・ゴズリングにピッタリである。なぜ彼は、月に行くことに異常な執着を抱くようになったのか。成功してハイタッチやガッツポーズをするわけでもなく、宿願達成の喜びを密かにかみ締める。宇宙開発事業を反対する世論も、ちゃんと盛り込まれていてよい。

『月光ノ仮面』(2011)

俺は誰だ?

1947年満月の夜、顔に包帯を巻いてボロボロの軍服を着た男がふらりと町に現れ、いきなり寄席の高座に上がってしまう。

有名な古典落語「粗忽長屋」をモチーフに、記憶を失くした落語家とその婚約者、そして彼と同じ戦場にいた男の3人をめぐる数奇な物語。監督でもある板尾創路の捉えどころのない雰囲気が、闇夜の月に照らされてますます不気味に。もう1人の帰還兵は誰なのか。二人の関係は?

繰り返しはさみこまれる戦場シーン。衝撃のラストへ向かう主人公の精神状態。主要人物たちのセリフがほとんどないため、彼らの関係性や心理を読み解く手がかりになるのが落語だろう。さあ、「粗忽長屋」を思い出せ。どうにも笑えない話になっているけど。

『月の出をまって』(1987)

一緒に月を待つ

1936年南フランスの別荘で、小説家のガートルード・スタインと過ごす秘書のアリスは、彼女の重い病状を気にかけていた。

自分の命が長くないことをアリスに黙っているガ―トルード。彼女の病気を密かに心配し、こっそり教会に行ったりするアリス。大きな体のガートルードと小柄なアリスは、見た目も性格も正反対で、長いつきあいだから言いたいことも遠慮しないで口にするのに、お互いを思いやる気持ちは胸にそっとおさめている。

登場するのは、詩人のアポリネールやピカソの愛人オリヴィエ、作家のへミングウェイ。そんな芸術家たちと刺激的な交流をしながらも、気の置けない女同士の暮らしは静かだ。溜まっていたモヤモヤが晴れ、美しい庭で空を見上げながら月が出るのを待つ二人は、長年連れ添った夫婦のよう。

『不滅の恋/ベートーヴェン』(1994)

不滅の恋人に納得?

1827年作曲家ベートーヴェンがこの世を去り、「私の楽譜、財産の全てを“不滅の恋人”に捧げる」という遺書が残されたが、その不滅の恋人のことを誰も知らなかった。

不滅の恋人とは誰なのか。彼女に当てた3通の手紙を手がかりに、ベートーヴェンの親友がその謎に迫る。候補の女性たちを通じて、ベートーヴェンの生涯を浮き彫りにしつつ、不滅の恋人の正体を追うミステリーにもなっているところがミソ。そしてベートーヴェンの知られざる愛と苦悩に、目からウロコである。

父親の暴力と厳しいレッスンに耐え、夜中に部屋から抜け出して星空の下を走る少年ベートーヴェン。有名なピアノ・ソナタ「月光」を人知れず弾くシーンは、当時キレる役を得意としていたゲイリー・オールドマンの新境地かも。不滅の恋人に会いに行くシーンでも流れる「月光」の美しさよ。

いかがでしたか? 

太陽のような強い存在感はないが、形を変えながら闇に輝く姿が神秘的な月。

星として、象徴として、音楽として、映画の中で様々なモチーフに使われ、私たちのイマジネーションをかき立ててくれる月。

そんなお月様に思いを馳せながら、静かな秋の夜長にゆっくり映画を観てみませんか?