大ヒットとなった「君の名は。」(2016年)に続いて、今年7月公開のアニメ映画「天気の子」がロングランを続けています。天候を変えることができる少女・天野陽菜(ひな)と、家出少年・森嶋帆高の物語。監督や脚本を務めた新海誠さん(46)に、製作の裏話やアニメへの思いを尋ねました。

 −前作に続き大ヒットですね。

 ★新海 毎回、多くの人に見てほしいとは思っていますが、僕らは面白い映画を作りたい、というだけです。でも一定の役割は果たせたのでは。気持ちの上では、ほっとしています。

 −製作の苦労は。

 ★新海 暗礁に乗り上げたことは全くなかったです。脚本の前段階のプロットは第8稿まで、脚本で第4稿まで改稿を重ねましたが、スムーズでした。大変だったのは、絵を描く作業の物量と期間です。公開日が決まっていて、詳細な設計図を作ってから1年間で描きましたが、2時間弱の映画でカット数が1700以上あり、単純に絵の枚数が多い。空や雲の表現は不定形なので、そう時間がかかるわけではないんです。それよりも舞台が東京で、ビルの窓が多い。街が画面全体に出てくる場面は1カット5秒くらいなのに、窓ガラスを何百枚と描くんです。

 −その東京に、主人公の帆高が家出して来ます。監督にとって、東京への思いは。

 ★新海 僕は高校卒業後、憧れの未知の大都会に行きたくて上京しました。東京で社会人になって人格形成したんですが、愛憎入り交じった思いがあります。最初は今よりも街にごみがあふれ、互いに無関心でぶつかっても謝らない。繁華街を歩くと勧誘がすごい。映画の中で帆高が「東京怖え」と何度か言いますが、当時の気分を反映したかもしれません。

 ただ、東京で生活し、好きな人と一緒に歩くとか思い出ができると、古里の山や川のように、温かく美しく見える。帆高が陽菜から「東京に来てどう?」と聞かれ「息苦しくはない」と答えます。帆高は怪しい大人たちとも疑似家族になり、怖いと言わなくなります。

 −映画では、ファンタジーを支える日常生活を重視しています。

 ★新海 晴れ女の世界は問答無用のフィクションなので、それ以外の風景や社会インフラはある程度本物らしく描きました。そして、東京の街をロケハンして地形を確かめました。映画の中で、地形の変遷に少しスポットを当てたので。

 −帆高が拳銃を拾う場面も出てきます。

 ★新海 帆高は陽菜を守るため、社会のルールとぶつかってしまうんですね。拳銃は、脚本会議で意見が分かれました。僕が脚本を書き、スタッフに読んでもらって改稿する作業を半年続けましたが、拳銃を出さない方がいいという意見も根強かった。僕としては、アニメはデフォルメの表現形態なので、帆高が社会とぶつかる話に、絵として一目で分かる何かが欲しくて銃を出しました。

 −CG作品も増えていますが、アニメで表現する意味は。

 ★新海 実写とアニメの中間にCGがありますが、CGも実写寄りか、アニメ寄りかに分かれますね。アニメは世界を抽象化して、ある程度シンプルにして観客に差し出すものだと思うんです。実写は現実の複雑さを複雑なまま提示する。僕は、世界を解釈して差し出す方が好きです。世界は美しく見えるか、恐ろしく見えるか、と脳の中で絵に変換するのがアニメですから。

 −その世界観は、監督の中で変化していますか。

 ★新海 一本一本の映画が観客とのコミュニケーションだと思って作っています。観客から意見や感想を受け取って、次に何を作るかを考えるので、当然ながら変わります。観客は何を見たいのか、何を知りたいのか、に興味がありますね。だから前作との連続感がすごく強い。今回は、自分の中の作家性がはっきりした感じです。社会の幸せと帆高の幸せがぶつかったとき、僕はやっぱり帆高の側に立ちたいと思います。

 −次回作も観客の意見で?

 ★新海 そう思っています。まだ意見をまとめきれなくて、白紙ですが。

 −ところで九州はどうですか。

 ★新海 九州は3年ぶりで、前作のキャンペーン以来です。博多の方は「九州を舞台にした作品を」とおっしゃいます。その予定はまだないんですが、地元愛が強いんですね。 (文と写真・根井輝雄)

 ▼しんかい・まこと 1973年生まれ、長野県出身。2002年、個人で製作した短編アニメ映画「ほしのこえ」でデビュー。16年公開の「君の名は。」が大ヒットし、宮崎駿監督の「千と千尋の神隠し」に次ぐ歴代2位の興行収入を記録。今年7月公開の「天気の子」は動員数900万人、興行収入120億円を突破した。