東京五輪のマラソン代表を決めるMGC(マラソン・グランド・チャンピオンシップ)のスタートの瞬間が刻々と迫っている。男子30人(一色恭志が欠場)が出場する9月15日のレースには、今年1月の箱根駅伝で初優勝を果たした東海大の両角速(もろずみ・はやし)監督の佐久長聖高校時代の教え子である佐藤悠基(日清食品グループ)、村澤明伸(日清食品グループ)、大迫傑(ナイキ・オレゴン・プロジェクト)の3人が出場する。とりわけ、絶対的本命と言われている大迫、ここにきて調子を上げている佐藤は、代表の座を射止める可能性は高い。両角監督も彼らの走りに大きな期待を寄せている。


MGCに出場する高校時代の教え子3人の走りに期待を寄せる東海大・両角速監督

-- 教え子の3人は、ともに有力選手です。

「大迫と悠基は、代表に手がかかる力があると思うんですけど、村澤は夏前の状態はもうひとつみたいな感じだったので、どれだけ戻してきているか。MGC内定第1号だったので、頑張ってほしいです。大迫と悠基は自分が納得できるトレーニングができているようですし、競技会での成績も非常に良好なので、すごく期待が持てますね」

-- 大迫選手、佐藤選手の強みはどこにあると思いますか。

「実績がある選手ですし、マラソンではないですが五輪にも出場するなど、キャリア、経験があります。でも、一番の強みというか、彼らのすごさは年々バージョンアップしているということ。落ち込んだり、停滞したりする時期がない。前年よりも確実に力をつけている。悠基は中学からそんな感じですし、大迫は高校、大学で実績をつくり、今も成長している」

-- ランナーとしての共通点はありますか。

「ともにスピードだけでなく、勝負強さを兼ね備えているところですね。ふたりとも暑さに強いですし、大きなレースで代表権獲得という経験もあります。レースに対してしっかり調整してくる力は、ほかの選手よりも上じゃないかと思います。

 あと面白いのは、ふたりとも親御さんの教育姿勢がすごくよく似ているんですよ。最近は、親が過剰に子どもと関わろうとし、子どもに対して何かをしてあげることで満足感を得ているケースが多い。でも、ふたりのご両親は、子どもに対して常に距離を維持し、甘やかすことをしなかった。レースがある日とかも、車で送迎したりせず、電車やバスを使わせていました。それにレースを見に来たとしても、子どもと接触しようとしなかった。そういう教育を受けてきたこともあり、ふたりとも中学、高校時代から自立していましたね」

-- 自立心の芽生えが、彼らをここまで成長させてきたと。

「そうですね。ふたりともご両親は長距離の選手ではないので、特別な遺伝子を受け継いでいるわけではないと思うんですよ(笑)。早くに自立して、自分で考えて競技に取り組んできたことが、彼らを今のポジションまで押し上げたのだと思います。そういうものがないと、大迫のようにアメリカに行ってひとりでやろうとか、悠基のように中学の時からずっと日本のトップランナーとして走り続けることは難しいと思います」

 今回のMGCで決定する東京五輪のマラソン代表枠は男女それぞれ2つ。熾烈なレースが予想される。設楽悠太(したら・ゆうた/Honda)、井上大仁(ひろと/MHPS)、服部勇馬(トヨタ)は、大迫とともに4強と言われており、彼らを軸にレースが進んでいくと予想されている。

-- ライバルたちも強力です。

「井上選手は昨年夏のアジア大会で優勝していますし、メンタルも強い。かなりいい走りをするんじゃないかなと思います。設楽選手は、力はあると思うのですが、夏のレースでの実績がないので、そこがどうかなって感じますね。でも、最終的には自分との勝負になっていくと思います」

-- コースマップを見て、勝負となるのはどのあたりだと思いますか。

「ペースにもよると思うんですけど、おそらくそれほど早くならないという予想から、35キロ地点からの勝負になるかなと思います。仮にハイペースになれば、力のない選手はどんどん振り落とされていくでしょうし、スローになれば最後に”よーいドン”の勝負になってしまう。また、『どうせ自分は無理だから』とかき回す選手も出てくるかもしれない。正直、どういう展開になるのか読みづらい。それが今回のレースの特徴だと思います」

-- 勝敗を分けるポイントは何だと思いますか。

「コンディション、相手の力量を知ること、あとはコースを含めた気象コンディションの3つでしょうね。この時期のマラソンは絶対にごまかしがきかないので、どこまで準備できたのか、どれだけ実力があるのかが試される。それがしっかりできている選手が、最終的に生き残る気がします」

-- 選手にとっては、気温も湿度も厄介な相手になります。

「かなり厳しいレースになるでしょう。自分の調子がよくても、暑さで消耗していくでしょうし、残りの距離、コース、相手がどれだけいるのかを判断しながら走っていかないといけません。そのなかでどこまで余裕を持って走れるか。余裕があれば、自分の勝負どころで仕掛けていけるのですが、逆に前に出てしまうこともあるんです。そこで我慢できずに前に出てしまうと自滅していく。どこまで我慢できるかどうかでしょうね。大迫は、そういうところの判断に長けている選手だと思います」

-- 大迫選手はどんな状況にも対応できると。

「そうですね。そういう力がありますし、ピート・ジュリアンコーチのことを非常に信頼しています。彼の言うことをやっていれば間違いなく結果がついてくると信じて、一つひとつクリアしてきた。今もそのスタンスは変わらないと思いますし、さらに強くなっていますからね」

-- 大迫選手とは、東海大がアメリカ合宿を行なっている時に会ったと聞きました。

「鬼塚(翔太/東海大4年)が大迫のところでお世話になっていたので、『鬼塚をよろしく』と声をかけましたけど、MGCのことについてはあえて触れないでおきました(笑)」

-- 教え子のワンツーフィニッシュが実現すればいいですね。

「それはもちろんそうですよ。そんな夢のようなことがあったら大騒ぎですね(笑)。悠基は年齢的にも東京五輪が集大成になると思うので、勝ちたい気持ちはものすごく強いと思います。彼は手を抜いたり、ごまかしたりしない選手ですので、いい走りが期待できると思います。大迫は、なんだかんだ言っても勝負に勝てる選手。私は、大迫が勝つんじゃないかなって思っています」