アベノミクスの「立役者」がGPIFを去る…その意外なインパクト

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資産運用のプロフェッショナル

厚生年金と国民年金の積立金約130兆円を有する年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の水野弘道理事兼最高投資責任者(CIO)が9月末の任期満了で退任する。

アベノミクス(安倍晋三政権の経済政策)を金融市場から側面支援してきたのが、2014年10月にそれまでの運用の基本ポートフォリオ(資産構成割合)を見直し、国内株式を12%から25%へ引き上げる運用改革を行ったGPIFであると言っても過言ではない。

GPIFの運用改革が実施後、東京株式市場の日経平均株価は1万6000円台を推移するようになり、市場関係者の間では首相官邸を忖度したGPIFによる「株価PLO(プライス・リフティング・オペレーション)」(国連平和維持活動=PKOをもじった造語)と呼ばれた。

翌15年1月、当時の世耕弘成官房副長官(現参院自民党幹事長)の推挙で水野氏は世界最大の年金基金GPIFの理事に迎えられた。同氏は住友信託銀行入社後、国内、米シリコンバレー、ニューヨークなどで投融資業務に従事、03年に英ロンドンのプライベート・エクイティ・ファンド「コラーキャピタル」パートナーを務めた資産運用のプロフェッショナルだ。

同氏はその後、過度な円高是正を兼ねた外債投資の拡大、デフレ脱却の象徴として株価上昇を牽引するべく積極運用を進め、「GPIF=市場のくじら」などと揶揄されながらも、現在の株価2万円超実現に大きな役割を果たしたことは周知の通りだ。

その水野氏は今夏の8月、米最大の公的年金カリフォルニア州職員退職年金基金(カルパース)理事会に招かれ、講演した。ブルームバーグ通信(8月21日)はその内容を次のように報じている。

《株式で損失を被る際には債券で利益が得られるというのがポートフォリオ分散の一般通念であり、GPIFが殆どの資産クラスで損失を出し、為替差損も被る状況はこれまで起きたことがなかったが、18年10−12月期に株式と債券、為替で損失を出したと語った。》

昨年末以降の米中貿易戦争の激化や米連邦準備理事会(FRB)の利上げによる世界連鎖株安であらゆる資産クラスで損失が発生したが、そうした運用環境の激変を言い訳にしない率直な発言だった。

日本株投資のネガティブ要因に成り得る

水野氏は運用改革に尽力してきた15年以降、約57兆円超の巨額の運用益を上げながらも一度の失敗が過大視され、それまでの努力や実績を一部の市場関係者だけではなく安倍政権内にも評価する声が少ないことに、そもそも不満を抱いていたとされる。

フェア(公正)に、ファクト(事実)を指摘すれば、同氏の功績は以下の通り、列記できる。(1)債券中心のGPIFの保守的運用を国内外株式を5割に引き上げる積極運用への転換、(2)海外投資家の「水先案内人」として海外機関投資家の対日投資促進に尽力、(3)特にカルパースなど海外の年金基金の日本株投資を促した――。

それだけではない。年初のフラッシュ・クラッシュで対ドル円レートが104円台への円急騰局面で円売り市場介入に動けない日本銀行に代わりGPIFが外債投資で円高阻止に貢献したこともまた周知の事実である。

こうした中での水野氏退任は、海外の機関投資家や年金基金にとっての日本株投資の判断材料として、実は国際金融センター香港の混迷、米中貿易戦争の先行き不透明、英国の合意なき欧州連合(EU)離脱より遥かにネガティブ要因であるという指摘もある。

出る杭は打たれる、ではないが、日本では今なお9月11日の内閣改造・自民党執行部人事での茂木敏充外相、河野太郎防衛相、加藤勝信経産相の重用にも見受けられた政界と同じく国際金融界で突出する人材がジェラシーの海に晒される運命にあるようだ。悲しいこの現実を一日も早く正す必要がある。

それはともかく、水野氏に替わって事実上の運用責任者となったのは、17年10月にGPIF経営委員長に就任にした平野栄治メットライフ生命保険取締役副会長(元日本銀行国際担当理事)である。日銀時代にハーバード大学大学院で博士号を取得しているが、当時のチューターは何とポール・ボルカー元FRB議長である。

同氏は理論家肌でありながら、且つ現場(市場)重視の国際派である。その人脈は国際通貨マフィアから欧米の経済学者まで幅広い。同氏の手腕に期待するところ大である。