ソフトバンクグループの孫正義会長兼社長(左)とツーショットで撮影に応じるZOZO前澤友作・前社長(撮影:風間仁一郎)

まさに急転直下の展開だった。

ソフトバンクグループ傘下のヤフーは9月12日、国内最大のファッションECサイト「ZOZOTOWN(ゾゾタウン)」を運営するZOZOを子会社化すると発表した。10月上旬にもTOB(株式公開買い付け)を通じてZOZOの株式を50.1%取得する。買収額は最大で4007億円になる見通しだ。

1998年の創業以来、同社の社長を務めてきた前澤友作氏は12日付で社長および取締役を退任した。前澤氏は現在もZOZOの36%の株式を保有する筆頭株主だが、今回のTOBでその大部分を売却する。

ZOZO売却のきっかけは孫会長への相談

「ものすごくシナジーの効いた提携になるのではと、自信を持って進めてきた。お互いの弱点を補い、強いところを伸ばし合える、結婚のような提携になる」

12日夕から都内で開かれた記者会見で、前澤氏はこう力説した。

ZOZOがヤフーと資本業務提携を結ぶきっかけとなったのは、前澤氏が以前から親交があったソフトバンクグループの孫正義会長兼社長に悩みを相談したことだった。

前澤氏は「新しい人生を過ごしたい」「(2023年に予定する)月へ行く訓練に時間がかかる」など、社長を続けることについての葛藤を吐露。これに対し、孫会長は「当分、前澤くんが社長を継続したほうがいいんじゃない」などと返答した。こういったやりとりの中で、孫会長は「ヤフーとZOZOで何か提携をやってみるか」と資本提携を提案した。

6月下旬以降、ZOZOとヤフーの間で資本業務提携の話し合いが進められた。孫会長から社長続投を求められた前澤氏だが、「『これからZOZOの成長に必要な経営体制は何か』と、冷静に自問自答した」結果、9月に退任することを決断したという。

同日の会見に出席したヤフーの川邊健太郎社長は、ZOZOを傘下に収めることで「われわれにしか作れない、インターネットの未来を作っていく」と力を込めた。広告事業に次ぐ収益柱へと育成を急ぐEC事業の拡大につなげ、楽天やアマゾンに対抗していく。

ヤフーが今秋から始めるショッピングモール「PayPayモール」へのゾゾタウンの出店や、ゾゾタウン上でのPayPayの導入を計画する。20〜30代の女性を主要顧客とするZOZOと、30〜40代の男性に強いヤフーとの間で相互送客を進め、顧客基盤とEC取扱高の拡大を図る。

ゾゾの出店ブランドに起きたどよめき

電撃的な買収の発表と前澤氏の辞任に、12日はゾゾタウンへ出店するアパレル企業の間でもどよめきが起きた。

ゾゾタウン創生期から出店するユナイテッドアローズは、「社長を含め、社内は朝の報道で初めて知った。詳しい情報がわからず、自社の事業に影響が出るかどうかもわからない」(広報担当者)と困惑した様子だった。

「アース ミュージック&エコロジー」などを展開するストライプインターナショナルの石川康晴社長は、「前澤さんからはいろんな事前情報が送られてくるが、今回だけは来なかった。アジアの中で存在感を示そうとするなら、ヤフーやソフトバンクと組むことはZOZOの1つの(成長への)道だろう」と話す。

2004年の運営開始以降、高感度な若者を中心に顧客を獲得し、年間購入者数800万人超を抱えるゾゾタウン。今年6月末時点での出店ブランド数は約7300に上る。ブランドからの出店手数料が主な収益源のZOZOは、前澤氏のカリスマ性とともに高成長・高収益企業へと成長した。しかし、2019年3月期は上場後初めて営業減益に陥るなど、その経営にほころびが目立つようにもなっていた。

今回、ヤフーの傘下入りすることで、集客ルートが広がる。ヤフーが筆頭株主になることで、ZOZOの経営安定性が増すことも期待できる。

さらに、今年中に予定しているゾゾタウンの中国進出を考えると、中国のアリババなどを傘下に持つソフトバンクグループのリソースを幅広く活用できる。


前澤氏の後任となるZOZOの澤田宏太郎新社長(中央)はゾゾタウン事業の責任者を務めてきた(撮影:風間仁一郎)

前澤氏の後任となる澤田宏太郎新社長はコンサル出身で、2008年にZOZOに入社。直近ではゾゾタウン事業の責任者を務めてきた。「この先の成長には、革新とともに安定感が重要。そのパートナーとしてヤフーがベストだと判断した」。会見の席上、澤田新社長はこのように述べ、今後は組織での運営を重視していく方針を明らかにした。

「時価総額5兆円」目標が一転、社長退任へ

「今が経営体制を抜本的に変えるタイミング」だったと前澤氏は強調する。それにしても疑問なのは、なぜいま退任なのかだ。前澤氏は「月旅行の準備」と「新事業への挑戦」を挙げた。とはいえ、1年前の同氏の言動を振り返ると、今回の決断があまりにも唐突であることがわかる。

「前澤フルコミットで突き抜ける」

前澤氏は2018年4月に発表した中期経営計画で、当時およそ1兆円だったZOZOの時価総額を10年以内に5兆円に引き上げる「超強気」の目標をぶち上げていた。

そこから一転、今回の退任である。同日の会見で、わずか1年半で心変わりした理由について、「当時は本心からそう(経営にコミットすると)思っていたが、この市場は非常に動きも早く、それに合わせて経営も柔軟に変える必要がある」と、前澤氏は歯切れの悪い説明に終始した。

前澤氏の姿勢変化の裏には、やはり経営面での蹉跌があることは否定できない。つまずきのひとつは、第2の収益柱を目指して昨年始動したPB(プライベートブランド)事業の大失敗である。

「『服がもしかしたらネットで売れる』と思ったのが20年近く前で、ちょっとやってみたら反応がとても良くて今に至る。そのときと似た感覚が今はあり、『これ(PB)はいける』という感触があるからアクセルを踏んでいる」

2018年1月の東洋経済のインタビューにおいて、前澤氏はPB事業への思い入れをにじませていた。

このPB事業では、採寸用ボディスーツ「ゾゾスーツ」での計測データを基に、顧客にジャストサイズの商品を届ける近未来的な手法で拡販をもくろんだ。しかし、生産トラブルに伴う配送遅延などが頻発。大赤字を出し、現在はサービス展開を大幅に縮小している。それまで「直感」で事業の拡大に成功してきたが、自分の感覚と消費者の反応が大きくズレた初めてのケースだったと言える。

有料会員向け割引サービスで「ZOZO離れ」

つまずきの2つめは、有料会員向け割引サービス「ZOZOARIGATOメンバーシップ」の不発だ。ゾゾタウンの取扱高拡大につなげようと、昨年末にこのサービスを導入した。しかし、あからさまな割引価格の表示や事前の説明不足に、出店ブランドが猛反発。「ZOZO離れ」と揶揄されるほどに、次々に撤退を表明するブランドが現われた。結果、取扱高も想定していたほど伸びず、半年足らずでサービスを終了せざるを得なくなった。


前澤氏の唐突な社長退任の背景に、資金繰り問題を指摘する業界関係者は少なくない(撮影:風間仁一郎)

そしてもう1つ、前澤氏の心変わりの背景に、個人の資金繰り問題があることを指摘する業界関係者は少なくない。

PBの失敗などを受けて、ZOZOの株価は昨年7月の4875円をピークに大幅に下落。今年に入ってからは、およそ半値の2000円前後で推移している。

一方、前澤氏は月旅行や現代絵画の購入などに大金を使うことを公言してはばからない。8月下旬に提出された大量保有報告書によると、前澤氏は自身が保有するZOZO株の約6割に当たる、6500万株を銀行に担保として差し出している。具体的な借り入れ金額は定かではないが、この1年で株価が急落する中、銀行側から早期の返済や保有株の売却を求められていた可能性は否定できない。

12日の会見で借り入れの問題に質問が及ぶと、「『借金で首が回らなくなり、急いで提携を結んだのでは』というのは臆測に過ぎない。それはまったくない」と、前澤氏は強く否定した。なお、前澤氏が銀行に返済を求められていたか否かについてZOZO側は、「個人に関する話のため、会社としてのコメントはない」(IR担当者)としている。

「直感的かつ野性的」(前澤氏)な経営手法の行き詰まりを感じたのか、12日の会見では「(トップダウン型の経営スタイルでは)チーム力を生かし切れていなかった」と反省の弁も述べた。

支払いを最大2カ月延長できる「ツケ払い」など話題性のあるサービスを打ち出し、新たな顧客をつかむのがZOZOの得意技だった。そして、それは前澤氏の先見性や発信力を支えにしていたことは間違いない。カリスマなき後も、エッジの立った独自のサービスを展開できるのか。ヤフー傘下で新社長が牽引するZOZOは、まさに真価を問われることになる。