車中避難 すべてのひとがやるべき7箇条 脚を組まない/睡眠薬NG 予防商品も
水分補給/4〜5時間置きの軽い運動、以外にもtext:Kumiko Kato(加藤久美子)
スマホや携帯の充電ができて、条件によっては涼しく快適な空間を得ることもできる車中避難。
鍵のかかる個室でもあるためプライバシーを確保できる利点もある。
車中避難には、良い点と悪い点がある。しかし、長時間、狭い空間で姿勢を変えずにいることは、血液の流れを悪くして肺血栓症など、体調不良から命に係わる病気を引き起こすこともある。
実際、2016年の熊本地震では震災関連死約200名のうち3分の1にあたる60名が車中避難をしていたことがわかっている。
2002年に正式設立となった「日本旅行医学会」では、車中泊、車中避難をするすべてのひとのために「やるべき7箇条」を提言している。
日本旅行医学会学会誌第4号「ロングフライト血栓症の7つの基本予防策」を車中泊用に改編したものだが、脚を組まないことや睡眠薬の使用NGなど、あまり知られていないことも含まれている。
また、女性や高齢者をドア側に座ってもらうことも重要だ。自分や家族の命を守るためにぜひ知っておいて欲しい。
次項で詳しくみていこう。
車中避難 すべてのひとがやるべき7箇条1 4〜5時間ごとに歩く
車外に出て散歩するのが望ましいが、クルマの中でもできる運動がある。座ったままでひざ周りの屈伸運動をする。
血栓症のもとになりやすいふくらはぎ周辺の血流を良くする効果がある。
2 上下運動と腹式深呼吸
4〜5時間ごとに歩くことが望ましい。車中で座ったままで、かかとやつま先の上下運動と腹式深呼吸を1時間ごとに3〜5分行う
3 水分を摂る。ミネラルウォーターか薄いお茶が望ましい
今の時期なら熱中症予防のためにも水分補給はマストである。ビールやワインなどアルコール類は利尿作用を引き起こすので控えめに。
4 ゆったりした服装を心掛ける
男性はベルトを10cmほどゆるめる。女性は下着をゆるめ、ゆったりとした衣類を着用する。
体を締め付けるような下着は血行を悪くするのでNG。
5 足は組まない
血行を悪くするので、足は組まない。
クルマの中ではついやってしまいがちだが、左足と右足が当たる部分は血行が悪くなり危険。足を組んだまま眠ってしまうとさらに危険が高まる。
6 睡眠薬は使用しない
シートの凹凸が気になったり、クルマの周りを他人が歩いたり……。
車中という非日常的空間ではなかなか寝付けないというひとも多いだろう。睡眠薬を使って眠りに落ちたい……という気持ちもわかるが、血流を悪くする可能性がある。
不自然な姿勢で寝てしまう危険があるため、日本旅行医学会では車中泊時の睡眠薬使用を推奨していない。
7 女性や高齢者をドア側に配置する
これも非常に重要。女性や高齢者は遠慮もあってトイレに行く機会を減らすため水分を控える傾向が強い。
水分を控えていると体内の水分が不足し血液が固まりやすくなる危険がある。
トイレに行きやすいよう、また、車外に出やすいよう女性や高齢者はドア側に座ってもらう。
エコノミークラス症候群が改称された
救急専門医の資格を持つ、いやしのもりクリニック副院長の井上比奈先生に車中泊とエコノミークラス症候群の関係について注意点を聞いた。
「エコノミークラス症候群という呼び方は、実は正しくありません」
「エコノミークラス症候群」は「ロングフライト血栓症」に改称された。「長い時間姿勢を変えづらい飛行機移動ではビジネスクラスでもファーストクラスでも起こりうる危険があるからです」
「同様に手足を伸ばして眠ることができる平らなベッドの上でも発生します」
俗に言われる「エコノミークラス症候群」は、医学用語では「深部静脈血栓症+肺塞栓症」を意味。
日本旅行医学会では2002年より正確な呼称として、「ロングフライト血栓症」と改称する提言をしている。
「ロングフライト血栓症は車中泊で起こる体調不良と発生メカニズムが同じなので予防も通じるものがあります」
「病院では姿勢を変えるのが難しい入院患者さんに血栓症発症の予防としてフットポンプや弾性ストッキングを使用しています」
「ふくらはぎに圧力をかけて、深部静脈の血流速度を増加させる効果があります。血栓予防には血流を良くすることが重要です」
ロングフライト血栓症(エコノミークラス症候群)という病気の存在が一気に広まったのは、2002年サッカー元日本代表の高原直泰選手が海外遠征中のロングフライト中に発症した肺血栓症のニュースだった。
高原選手の場合も、飛行機はエコノミーではなくビジネスクラスを利用しており、移動中に胸の痛みなど症状は出ていたものの帰国してからもJリーグ2試合をこなしている。(その後、痛みが極限に達し緊急入院して血栓が肺の動脈に詰まる肺血栓と診断された)
ロングフライト血栓症、予防するには
井上先生が紹介するのはフットポンプや弾性ストッキング。
病院で使われているとなると一般では入手できないと思われそうだが、弾性ストッキングについては通販サイトやドラッグストアなどでも販売されている。
着圧ソックスや弾性ソックと呼ばれる商品の例。 出典:ドクターショール「着圧ソックスや弾性ソックス、医療用、美容用と名称は様々ですが、ふくらはぎに圧をかける商品であれば、効果はほぼ同じです」
「注意すべきは、ひざ下までのタイプ(ハイソックス)を必ず使用することです。ひざ上までのタイプの使用は、車中泊ではかえって危険です」(日本旅行医学会)
ほぼ、どの商品も男女兼用でサイズは足の大きさや足首、ふくらはぎのサイズに合わせてS/M/L/LLなどのサイズ設定がある。足の甲、足首、ふくらはぎでそれぞれ着圧が変えられている。
同じブランドでもひざ下までのハイソックスタイプやひざ上、腿までのタイプがあるが、ロングフライト血栓症予防という目的であれば必ずひざ下までのハイソックスタイプを選ぶよう、旅行医学会でも注意喚起している。
実際に着用する場合の注意点をメーカーに聞いてみた。
「ふくらはぎは第2の心臓と呼ばれる大事な場所で、ここに適切な圧を掛けて血液を適切に心臓に戻すことが着圧ソックス(弾性ストッキング)の目的です」
「生地もやや厚めで最初は履きにくいと感じられる方も多いので慣れないうちは圧力が低めのタイプから試してみると良いでしょう」
「なお、つま先は圧を掛けない設計になっているので、つま先が開いているタイプ、開いてないタイプありますがどちらでも効果は同様です」
「開いているタイプは通気性がよく蒸れにくいなどの特長があります」(ドクター・ショールお客様相談室)
車中泊、車中避難で高齢者や女性の同乗者がいる場合はぜひ備えておきたい弾性ストッキング。履きづらい場合のお手伝いもお忘れなく。