ヤフーは株式の公開買付けを通じてZOZOを子会社化することを発表しました(撮影:梅谷秀司(左)、尾形文繁(右))

大半の小売業はここ10年以内にアマゾン・ドット・コムによって大きな悪影響を受ける可能性にさらされています。どうすればアマゾンに対抗できるのでしょうか。サプライズ発表で世間を驚かせたヤフーによるZOZOの買収はそのわかりやすい解決策になるかもしれません。

2019年9月12日、ヤフーは株式の公開買い付け(TOB)を通じてZOZOを子会社化することを発表しました。最大株主であるZOZO創業者の前澤友作氏は社長を退き、自身が持つ株式の大半を譲渡することも表明しているため、子会社化はスムーズに行われることになりそうです。

ヤフーは日本におけるネット小売りの世界ではアマゾン、楽天、メルカリとともに4強の一角を占めています。アメリカではこの分野の勝者はアマゾンに決定しましたが、実は日本ではまだこの4強のどれもが混戦を抜け出す可能性があります。そしてアマゾンを打ち倒すことができれば、日本の小売業全体にとってもアマゾンに対抗する一番の有効な打ち手になるのかもしれません。

日本市場では狭義のネット通販の分野ではアマゾンがじりじりとその勢力を広げていく中で、楽天市場とヤフーショッピングがそれを追う形になっています。一方で広義のネット通販ではC to Cの分野でヤフー(ヤフオク!)がメルカリに追われる立場にあります。

ポイント経済圏はアマゾン追走の武器

楽天、ヤフー、メルカリがアマゾンを追走する武器はわが国独自のポイント経済圏にあります。それぞれが最大15〜20%にもなる高額のポイント還元で消費者を囲い込み、そこに楽天ペイ、PayPay、メルペイなどのスマホ決済を組み合わせることで対抗しようとしている。これが昨日までのこの分野の戦いでした。

そしてアマゾンプライムとアマゾンエコー、そしてその背後に控える強大なAIを武器にしたアマゾンの強さを考えると、この戦いはいずれアマゾン有利になる。多くの専門家はそう考えているわけです。

そこに今回のZOZO買収の意味が出てくるのです。これを説明したいと思います。

そもそもZOZOに関しては「アパレル各社のZOZO離れが進んでいる」など、よくない評判がこのところ株価の下落要因となってきていたのですが、売り上げを見れば順調に毎期増収を重ねています。最新のZOZOの2020年度第1四半期決算も増収増益。ファッション領域に特化する形で4強とはまた違う強さを見せつけているのがZOZOの真実の姿です。

ZOZOの最大の強みは、国内のほかのどの会社もやってこなかった物流インフラへの巨額投資とその成功です。アパレル商材は卸レベル、小売レベルどちらも倉庫や物流のハンドリングの仕事量がものすごく大変で、かつコストをものすごく圧迫するものでした。ZOZOがいちばん成功したのはそこに先進のIT投資をして、競合の誰よりも低いコストと高い生産性でアパレル商材を扱えるようにしたことです。

ZOZOの配送料は全国一律200円。アマゾンプライムの送料無料と比較して一見、劣って見えるかもしれませんが、アパレルというそもそもコストがかかってかかって仕方がないジャンルでこの物流コストに抑えられているのはものすごいことです。そして物流インフラに投資ができていない楽天市場やヤフーショッピングで当たり前のようにかかる500円から900円の送料と比較すれば、ZOZOの強さはぬきんでています。

そもそもアマゾン・ドット・コムがなぜアメリカであれほどの成長を見せたのかというと、これと同じメカニズム、つまり自宅に商品を届けるという手間がかかる分野に巨額の投資を行うことで、競合他社のどこもまねのできない優位性を築き上げたからにほかなりません。

アマゾンが買収によって倉庫を手に入れた

確かにアマゾンの倉庫は異様です。巨大な倉庫の中に人間はあまりいない。無数の車輪のついた棚が動き回っていて、作業員たちは目の前にやってきた棚から商品をピックアップしつづける。しかし意外と知られていないことですが、この驚愕の仕組みはアマゾンが独自で作り上げたというよりも、むしろ買収によって手に入れた仕組みなのです。

2005年にアメリカで創業したダイパーズ・ドット・コムというEC会社がありました。ダイパーとは紙おむつのことで、この会社はこういった補充が必要になる日用品をネットで販売するいわばアマゾンの競合会社でした。この会社を見学に来たアマゾンのCEOジェフ・ベゾスはそのオペレーションに感動したといわれています。この会社の倉庫ではロボットが働いていたのです。

2011年にベゾスは5億4500万ドルでこの会社(その頃にはクイッツィと名称変更しています)を買収、それに続いて2012年に高度な倉庫ロボット会社であるキバ・システムズを7億7500万ドルで買収しています。日本円にして1400億円ほどの買収になりますが、それが現在のアマゾンの物流インフラを変える画期的なイノベーションだったことを考えれば、この買収は安い投資だったのではないでしょうか。

さて今回、ヤフーは高収益のインターネットモールであるZOZOTOWNだけでなく、これと同じZOZOの物流インフラもワンセットで手に入れることになります。そう考えると総額で4000億円規模といわれる今回の買収はヤフーから見れば安い買収だと後で振り返ることになるかもしれません。

まだこの記事を執筆した2019年9月12日17時ごろの段階では発表情報は限られています。子会社化するとはいえ両社はそれぞれ独立した企業として活動すること、ヤフーがこの秋に開設するPayPayモールにZOZOTOWNが出店すること、ZOZOTOWNでPayPayが使えるようにすること、相互に顧客を送り込むこと、そしてそれ以外の分野でも協力関係を築くことといったことが発表されています。当初は発表通り両社の提携分野は絞っていくのかもしれません。

物流分野でもアマゾンに迫れる

ただ整理をしてみるとこの提携で今後のヤフーは生き残りを有利に進められるようになると思います。もともとヤフオクで優位性を持ちヤフーショッピングもそこそこ強く、これまでのTポイント経済圏、これからのPayPay経済圏とソフトバンクユーザー効果で顧客を囲い込んできた。そこに今回、ZOZOTOWNという強いアパレルモールが追加されるとともに、物流分野でもアマゾンに迫れる。

未来の小売業はそのほとんどがアマゾンに破壊されるといわれます。国内の小売業の中ではアマゾンに対抗できるのはセブン-イレブン、ユニクロぐらいかと思われてきましたが、それと同じくらい将来性が見込める存在にヤフーが生まれ変わることができるかもしれない。そんな期待感を抱かせる今回の買収劇だったと思います。

ただ最後にひとこと付け加えると前澤友作氏を手放したのはヤフーにとってはもったいない。あれほどのビジョンをもった経営者はなかなかいないというのが、個人的意見です。今回のヤフーにとって奇跡のような買収劇が成立したのは、前澤氏が新しいことにチャレンジしたかったからなのかもしれません。そこにも注目したいところです。