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米Appleは9月10日(現地時間)、スペシャルイベントを開催し、新型iPhone「iPhone 11」を含む複数の新製品を発表した。ここではイベント全体を時系列で振り返ってみよう。

○定額ゲームプラットフォーム「Apple Arcade」

いつも通りにティム・クックCEOが登壇して始まったスペシャルイベントは、3月のスペシャルイベントで発表されていた「Apple Arcade」の紹介からスタートした。

これまでもウィル・ライト(SIMシリーズ)や坂口博信(ファイナルファンタジーシリーズなど)といったレジェンド級クリエイターの独占タイトル供給を売りにしてきたが、今回の発表で、日本からコナミ、カプコンという、日本のゲームシーンを牽引してきた老舗2社が独占タイトルを掲げて参入することが明らかになった。

Apple Arcadeは、iOS、iPadOS、tvOS、macOSの全てで動作し、上記のような名だたるクリエイターのオリジナル作品を含む100以上のタイトルを集めて月額600円(1カ月の無料トライアル付き、ファミリー共有対応)のサブスクリプション制で、9月19日からスタートする。Apple Musicを含む、音楽や映画のサブスクリプション制サービスの大半が1,000円前後であることを考えると、非常に安いと言っていいだろう。競合するサービスとしてはGoogleの「Stadia」が11月にサービス開始予定(日本は対象外)だが、こうしたライバルへの強力な牽制となる、大胆な価格設定だ。

○独自の番組配信「Apple TV+」もいよいよローンチ

続いて、Apple自身の有料番組配信サービス「Apple TV+」が11月1日からサービス開始する。こちらもApple Arcadeと同じくサブスクリプション制で、月額600円(ファミリー共有対応、無料トライアル期間は7日間)。なお、iPhone、iPad、iPod touch、Mac、Apple TVを新規に購入すると、1年間無料で利用できる権利が付属する。

Apple TV+で配信される番組は4K HDRやDolby Atmosに対応しており、その点で(再生環境があれば)先行する競合サービスに対するアドバンテージがある。一方、料金面ではNetflixやhuluよりは安いが、Amazon Primeビデオやdビデオよりは高く、初期段階では番組数も限られる。日本語字幕や吹き替えがどうなるのかも気になるところだ。日本に限定して言えば、Apple Arcadeよりも苦戦しそうな気配はあるが、まずはお手並み拝見というところだ。

○第7世代iPadはお買い得度がさらに高まる

続いて、iPadがアップデートされた。これまでただの「iPad」と呼ばれる製品(iPad Airの第2世代までを含む)はすべて、9.7インチのスクリーンで統一されてきたのだが、今回第7世代めとなるiPadは、初めて10.2インチのRetinaディスプレイを搭載してきた。解像度も2048x1536ドットから、2160x1620ドットへと、わずかに増えている(ピクセル密度は264ppi、縦横比も4:3で変わらず)。iPad Proと異なり、Face IDは非搭載で、Touch IDを備えたホームボタンが鎮座している。

従来のiPadとの違いとしては、SoCがApple A9からA10 Fusionにアップグレードしているほか、本体横にスマートコネクタが追加されており、iPad Airと同じスマートキーボードが利用できるようになった。もちろんApple Pencil(第1世代)は引き続き利用できる。

発売は9月30日で、価格はWi-Fiモデル・32GBで3万4800円から。性能的にはほかのiPadシリーズより2世代古く、iPhone 7と同等クラスになるが、多くのアプリでは十分快適に動作するだろう。ただでさえタブレット市場自体がほぼiPadの独擅場であるのに加え、価格的にもかなりリーズナブルに抑えられているため、本機もかなりの人気機種になると見られる。

○Apple Watchも第5世代へ

iPadに続いて、Apple Watchもアップデートされた。第5世代となる「Apple Watch Series 5」は、あらたに電子コンパスを搭載。本体ケースは従来のアルミ、ステンレス、セラミック(Editionモデル)に加えて、Editionモデルでチタン製ケースが選択できるようになった。

最大の変更点は、画面が常時点灯になったことだ。これまでApple Watchは、バッテリー節約のために普段は消灯しており、手首を返して盤面を上に向けると動きを感知して短時間画面を点灯する仕組みだったが、これが常時点灯可能になる。それでいながらバッテリー駆動時間は従来通り約18時間を実現している。

Appleの説明では、これはディスプレイに使用されているLTPO OLEDパネルによるものとされているが、LTPOパネル自体はSeries 4から採用されているものだ。また発表では大きく触れられなかったが、採用されているSoC「Apple S5」も、併売されるSeries 3の「S3」に対して最大2倍高速、という性能はS4チップと変わっていない。バッテリー技術やチップの省電力機能の向上など、常時点灯できるようになった理由は定かではないが、使い勝手の面で大きな違いとなるのは間違いない。

Apple Watch Series 5の価格は、アルミニウムケースのGPSモデルで4万2,800円から。NikeやHERMESとのコラボモデル、最上位のEditionモデルも引き続き販売される。なお、Apple Watch Series 3が価格を下げて併売となる。こちらはGPSモデルが1万9,800円から、セルラーモデルが3万800円からとなり、Nikeモデルもある。モバイルSuicaも利用でき、手頃な値段なので、入門モデルとしてかなり人気が出そうだ。

○新iPhoneは動画で攻める

最後に、今回の発表の本命とも言える新iPhoneが発表された。X、XR/XSときて型番がどうなるかが注目されたが、あまり捻らずに「iPhone 11」というネーミングになった。

iPhone 11は6.1インチのリキッドRetinaディスプレイを搭載するモデルで、iPhone XRの後継モデルという位置付けだ(実際、サイズや重さもXRとまったく同じ)。XRからの変更点としては、SoCがApple A12 BionicからA13 Bionicへ変わり、防水性能がIP67からIP68へ改善。無線LANがWi-Fi 5(IEEE802.11ac)からWi-Fi 6(IEEE802.11ax)になっている。サウンド機能も向上し、Dolby Atmosに対応している。

A13 Bionicは機械学習用のコアである第3世代のNeural Engineを搭載し、処理性能は演算処理とCPUでA12を約2割程度上回る。そして機械学習においては、1秒あたり1兆回の処理が可能だという。ただ、筆者の勘違いでなければ、昨年A12 Bionicの説明で「秒間5兆回の処理」と言っていたので、それが正しければA13は性能が5分の1まで落ちてしまったことになる。この辺りは後ほど改めて確認したい。

最大の変更点が、カメラがXRの1カメラから、11では2カメラ構成になったことだ。ただしXやXSのような標準+2倍ズームではなく、標準+超ワイドの構成になっている。また、Face ID用のTrueDepthカメラも7Mピクセルから12Mピクセルにアップデートし、スロー撮影や4K動画撮影も可能になった。特にスロー撮影については、Appleは「スローフィー」(スローのセルフィー)という造語まで作って売り出したいようだ。近年、自撮りの世界もTikTokなどの普及で動画中心になりつつあるので、これは正しい方向での進化と言えるだろう。

一方、Android陣営ではすでに対応を表明するケースが増えている5Gについては非対応となった。もっとも5Gが本格的に整備されるのは来年以降なので、あえて一番乗りを目指す必要もないのだろう。競合と比べても桁違いの台数を生産する必要があるiPhoneだけに、こうした割り切りはむしろ正解だと言えるかもしれない。

iPhone 11は9月13日に予約が開始され、発売は9月20日。価格は、64GBモデルが7万4,800円から。ボディカラーはホワイト、ブラック、グリーン、イエロー、パープル、(PRODUCT)REDから選択できる。グリーン、イエロー、パープルではこれまでになくパステル調が採用されており、従来のビビッドな色を敬遠していた層にも訴求するかが注目される。

また、XSシリーズの後継となるモデルとして登場したのが「iPhone 11 Pro」および「iPhone 11 Pro Max」だ。11 Proが5.8インチ、Maxが6.5インチのOLED「スーパーレティーナXDRディスプレイ」を搭載している。このあたりはXSシリーズと同じだが、本体はXSシリーズよりもわずかに大きく、重くなっている。

基本的な仕様変更はXR→11と共通だが、XSシリーズとの比較で最も大きな違いが、カメラが2カメラ構成から3カメラ構成になったこと。こちらはもともと標準+2倍ズーム構成だったものに、11と同じ超広角が加わっている。TrudeDepthカメラについては11と同等だ。

発表会では、プロ仕様の動画撮影アプリ「FiLMiC Pro」を使って、同時にTrueDepthカメラを含む4台のカメラが捉えた映像をリアルタイムで表示し、そのうちの2台を同時撮影(片方はワイプ表示)する様がデモンストレーションされた。また、リアカメラは3台の中心軸が同じになるよう調整されているらしく、カメラの切り替えでスムーズにズームイン/アウトされていた。静止画の画質はもちろん素晴らしいのだが、今後はプロも対象として、動画撮影でのアドバンテージをアピールしたいようだ。

スマートフォン市場においてマルチカメラは最新のトレンドでもあり、すでにAndroid陣営では4カメラ構成のモデルや、5倍、10倍といった高倍率ズーム搭載モデルも登場している。こうした競合に直接機能で対抗するのではなく、違った価値観を持ち出してきたのは、なかなか強かな戦略と言えるだろう。実際にプロが使用するには、被写界深度などに難があるように思えるが、背景ボケはニューラルエンジンがリアルタイムに処理できるのであれば、案外悪くないのかもしれない。

価格は、iPhone 11 Proが10万6,800円から、11 Pro Maxが11万9,800円から。XSが11万2,800円からだったことを考えると、わずかだが安くなっている。ボディカラーはスペースグレイ、シルバー、ゴールドに加えて新色の「ミッドナイトグリーン」が追加された。

なお、既存機種ではiPhone 8/8sとXRが引き続き併売される。iPhone 8のSIMフリーモデルが5万2,800円から、XRが6万4,800円からとなるが、iPhone 11との価格差が小さいため、新製品であるiPhone 11に人気が集まることが予想される。

○真の主役はハードではなくサービス?

発表全体を通して見ると、ここ数回の発表会で主役級の扱いだったAR機能への言及もなく、S5やA13 Bionicの性能面での強いアピールも少ない、あっさりとした発表会となった。一部で噂されていたような(たとえば落し物タグのような)オプションも発表されず、やや淡白な印象だ。

とはいえ、今後はiPhoneのようなハードウェアではなく、むしろApple ArcadeやApple TV+のようなサービスを収益の中心に据えていく、と捉えるのであれば、あえてハードウェアに先んじて、冒頭に2連発で紹介した構成にも納得がいく。

日本市場に限定して言えば、電気通信法の改正によって割引販売が受けられなくなり、ますますiPhoneのような高級端末には逆風が強くなってくる。ソフトバンクのように抜け道を探してきたケースもあるが、アップル自身もやや価格を下げたり、下取りを強化するなどして、市場へのアピールを強めている。昨年は販売の不調が話題となったが、iPhone 11シリーズで挽回されるのか、興味深く見守りたい。