2019年9月13日に、人気俳優のオダギリジョーが監督する映画『ある船頭の話』が公開されるということで、映画ファンの間では話題になっている。

今までも俳優がメガホンを取ったり、自分が撮った作品に自ら出演することも多くあったが、そのたびに「あの俳優がこんな映画を撮るだなんて、ちょっと意外」と思うこともしばしば。

そして、演技をしていない彼らの本当の姿を垣間見たような気分に。それは、俳優が監督している作品ならではの貴重な体験なのかもしれない。

そこで今回は、邦画と洋画を含めて、俳優が監督をしている映画24本をご紹介しよう。

邦画編

斎藤工『blank13』(2017)

本名である「齊藤工」という名義で監督したデビュー作。映像配信サービスひかりTVの配信用オリジナル映像として最初は40分程度の企画であったが、監督の提案により70分の長編映画となった。それは、海外映画祭への出品を可能にするためだったという。ちなみにこの作品には、監督も出演している。

13年前に多額の借金を残して失踪していた父親が、病で余命わずかだと知らされた家族。弟が1人で見舞いに行くのは、父親との楽しい思い出があったから。恨みつらみは多々あれど、それだけでは済ませられない複雑な感情。父親は一体どんな人間だったのか。葬儀参列者たちが、彼との出来事を自由に語り始めるシーンに泣き笑いだ。

浅野忠信『トーリ』(2004)

監督デビュー作。高校生の頃に観たボブ・マーリーのドキュメンタリー映画で鳥が飛んでいく葬儀のシーンがあり、この作品はその記憶に強く影響を受けているという。アニメーション、時代劇、アート、お笑い、ドキュメンタリーというバラエティに富んだ内容で、全5話オムニバス作品。

監督自身が執筆した時代劇を実写化した侍の物語「心の刀」は、監督が表現したいことがダイレクトに伝わってくるかのよう。一方、「or」では、世界的バレエ・ダンサーである首藤康之が初めて振り付けを担当し、美しい肉体を通して監督のイメージを再現しようと試みていて見応えあり。

黒木瞳『嫌な女』(2016)

監督デビュー作であり、吉田羊の映画初主演作。黒木瞳による呼びかけで映画化が決定したものの、監督の選考に難航したため、結局自身が監督をすることになった。ちなみに当初は、ドラマ版にも出演した黒木瞳が出演する予定であったという。

傷つくのが怖くて感情を押し殺している堅物の弁護士が、気さくで人の心にスルリと入ってくる詐欺師のいとこと再会し、彼女の破天荒な生き方に振り回されながらも、少しずつ心の殻を破っていく。「イタイおばさん」と陰口を叩かれている詐欺師が、だんだん健気な女性に見えてくる。さて、嫌な女はどっち? 

伊丹十三『お葬式』(1984)

監督デビュー作。女優で妻でもある宮本信子の父親の葬式で得た体験を基に1週間で脚本を書き上げ、厳粛なお葬式で起こる様々な人間模様をコミカルに描いて大ヒット。日本アカデミー賞を始めとする多くの映画賞を受賞した。ほかに『タンポポ』(85)、『マルサの女』(87)、『あげまん』(90)、『ミンボーの女』(92)、『静かな生活』(95)などがある。

初めてのお葬式で初めて喪主を務める主人公と、お葬式で何をどうしてよいのかわからず右往左往する人たち。そんな彼らが大真面目にトンチンカンなことをしでかすので、悲しみの場であるはずの葬儀にユーモアが。タブー視されていた「死」というテーマに、人間の悲喜こもごもを持ち込んだ意欲作。

奥田瑛二『長い散歩』(2006)

監督第3作目。主役である緒形拳の起用は、監督が切望して実現したという。第30回モントリオール世界映画祭でグランプリなどの3冠を受賞し、監督として世界に名を知られるようになった。『少女〜an adolescent』(01)で監督デビュー。ほかに『るにん』(04)、『風の外側』(07)、『ビート』(11)、『今日子と修一の場合』(13)がある。

妻に先立たれ、定年退職をした男性が移り住んだのは、質素なアパート。少ない家財道具に囲まれて独り暮らしを始めた彼は、隣の少女が母親から虐待を受けていることを知る。羽を背負ったメルヘンチックな少女。人生の終わりに向かう静かな初老男性。彼らの逃避行が物語るものとは。

小栗旬『シュアリー・サムデイ』(2010)

監督デビュー作。監督業へ意欲を示していた小栗旬が原案を書き、武藤将吾が脚本化。公開に先立って漫画化もされた。ちなみにキャスティングについては、監督と親交の深い俳優たちが名を連ねており、自身もカメオ出演している。

主人公の小学生時代。そして、高校3年生の頃に友人たちと起こした爆破事件と、その責任を取って中退した彼らの行き詰った現在。なぜあの爆破事件は起きたのか。絡み合った人間関係を通して、次第に真相が明らかになっていく。バカで真っすぐな若者たちを弾けるように描いた青春物語。

桃井かおり『無花果の顔』(2006)

長編第1作目。すでにオムニバス映画『ご挨拶』(91)の第3話で監督デビューしており、ほかに『火 Hee』(16)がある。この作品では、桃井かおりが自身の小説を脚本化。お笑い芸人の山田花子が、桃井かおりの娘役で出演したことでも話題となった。

平凡な生活を送っていたはずの家族が、父親の突然死という非日常的な出来事に遭遇し、バランスを崩しながらも新しい家族と共に再生していく。夫の死を受け入れられず、言動がおかしくなっていく母親。自分の出生の秘密を知り、なんとなく妊娠して赤ん坊を産んだ娘。そんな2人の様子が、色彩豊かな映像で淡々と描かれるファンタジーである。

田口トモロヲ『ピースオブケイク』(2015)

監督第3作目。人気マンガを実写映画化。1人でいるのが嫌だという理由で男性に依存してしまい、流されるまま次々と関係を持ってしまうダメなヒロインが、本当の愛を探そうとする物語。『アイデン&ティティ』(03)で監督デビュー。ほかに『色即ぜねれいしょん』(08)がある。

このどうしようもない女性を多部未華子が演じると生々しくないので、そのだらしなさが不愉快にならないところがミソ。ひょっとすると、2人の女性の間で揺れ動く男性が主人公ではないかと感じるところもあり、滑稽に見えたりもする彼の一生懸命さよ。ギャグと愛の融合に挑戦した監督の意気込みやいかに。

竹中直人『無能の人』(1991)

監督デビュー作。カルト的人気を誇る漫画家つげ義春の原作を実写化。原作をかなり忠実に再現しており、また、そのほかの作品もエピソードとして使用されている。ほかに『119』(94)、『東京日和』(97)、『連弾』(01)、『山形スクリーム』(09)、『サヨナラ COLOR』(04)などがある。

社会から落ちこぼれ、商売にも失敗し続けた男がたどり着いたのは、河原で拾った石を売ること。そんなただの石ころに誰がお金を払うのか。妻と小さな子供は、そんな父親を見て何を思うのか。緩やかな絶望とブラックユーモアが静かに染みわたる。

津川雅彦『寝ずの番』(2006)

監督デビュー作。監督をするときには、マキノ省三(祖父)とマキノ雅弘(叔父)からマキノ性を襲名して「マキノ雅彦」と名乗る。原作は、六代目笑福亭松鶴をモデルにしたとされる中島らもの短編小説。ほかに『次郎長三国志』(08)、『旭山動物園物語 ペンギンが空をとぶ』(09)がある。

文部科学省認定作品なのに15+指定なのは、猥語が70回以上も出てくるから。といっても、そこは落語の洒落と粋を追求した世界。いやらしい感じはなく、遺体を引っ張り上げてのカンカン踊りやエッチな歌合戦など多少ギョッとするシーンはあれど、お通夜の席で寝ずの番をする人たちの人情喜劇である。

洋画編

クリント・イーストウッド『ミリオンダラー・ベイビー』(2004)

監督第25作目。低予算と短い撮影期間で製作されながらも、その完成度の高さが評価され、第77回アカデミー賞作品賞、監督賞、主演女優賞、助演男優賞を受賞。『ダーティハリー4』(83)で監督デビュー。ほかにも、『許されざる者』(92)、『マディソン郡の橋』(95)、『父親たちの星条旗』(06)、『アメリカン・スナイパー』(14)、『運び屋』(18)などがある。

プロボクサーを目指す女性と、ジムのオーナーでトレーナーの男性が、激しいトレーニングを積み重ねていく中で、父と娘のような信頼関係を築いていく。家族から愛情を受けたことのない彼女が、自分の存在を認めてもらおうと必死でがんばる姿に胸が痛くなる。衝撃の結末には賛否両論。

ベン・アフレック『アルゴ』(2012)

監督第3作目。1979年から1980年にかけて発生した在イランアメリカ大使館人質事件を基にした作品で、それまで謎に包まれていた救出作戦を描いて第85回アカデミー賞 作品賞、脚色賞、編集賞受賞。『ゴーン・ベイビー・ゴーン』(07)で監督デビュー。ほかに『ザ・タウン』(10)、『夜に生きる』(17)がある。

CIA秘密工作本部作戦支援部のエージェントが、6人を救出するために考えついたのが、彼らを「アルゴ」という架空の映画スタッフに身分偽変させること。そのアッと驚く大胆な計画がスリル満点であるばかりでなく、「映画を使った作戦」というのも映画ファンにとっては大変興味のあるところ。

ジョン・ファヴロー『ライオン・キング』(2019)

監督10作目。長編アニメーション『ライオン・キング』(94)のリメイク作品。『Made』(01)で監督デビュー。ほかにも『ザスーラ』(05)、『アイアンマン』(08)、『カウボーイ&エイリアン』(11)、『シェフ 三ツ星フードトラック始めました』(14)、『ジャングル・ブック』(16)などがある。

ディズニーは「超実写版」と宣伝しているが、実際はフルCG映画。高度な技術による動物たちのリアルな姿に目を見張り、子供の頃のシンバのかわいさがたまらない。王である父親を失い、国を追われて放浪しながら仲間たちと出会い、己の使命に目覚めていく神話のような成長物語。

アンジェリーナ・ジョリー『白い帽子の女』(2015)

監督第3作目。当時夫だったブラッド・ピットと共に製作し、交際のきっかけとなった『Mr.&Mrs. スミス』(05)以来の共演となる。『最愛の大地』(11)で監督デビュー。ほかに『不屈の男 アンブロークン』(14)、『最初に父が殺された』(17)がある。

1970年代に南フランスを訪れた結婚14年目の夫婦。しかし、小説家の夫はカフェに通い詰め、妻はホテルから一歩も出ない。アルコール依存症の夫とうつ病の妻。その妻が新婚夫婦に異常な執着を抱き始めるあたりから、物語はますます憂鬱な方向へ。二人がなぜそんなことになってしまったのか、その理由を知りたくなる。

ジョディ・フォスター『リトルマン・テイト』(1991)

監督デビュー作。天才子役として世界中から注目されていた監督自身の体験を反映したかのようなストーリーが、話題となった。ほかに『ホーム・フォー・ザ・ホリデイ』(95)、『それでも、愛してる』(09)、『マネーモンスター』(16)がある。

ウェイトレスをしながら、息子を育てているシングルマザー。実はその息子は天才児で、それゆえに孤独で繊細な性格だった。無学だが愛情たっぷりの母親と、彼に高度な教育を受けさせようとする児童心理学者の間で、彼は葛藤する。天才だってまだ子供。彼にとって何が最良なのか。天才児の心のうちを優しいまなざしで描く。

シルヴェスター・スタローン『ステイン・アライブ』(1983)

監督2作目。ジョン・トラボルタ主演で大ヒットした『サタデー・ナイト・フィーバー』(77)の続編。製作と脚本も務め、チョイ役で出演もしている。『ロッキー2』(79)で監督デビュー。ほかに『ロッキー3』(82)、『ランボー 最後の戦場』(08)、『エクスペンダブルズ』(10)などがある。

ブロードウェイで大スターになることを夢見る主人公が、ダンス関係のアルバイトをしながらチャンスを狙い、ついにお金持ちのダンサーを誘惑して役を得るが、その一方で愛する人を失い……なんていう話よりも、ひたすらジョン・トラボルタのダンスを見よ! すべてはそのクライマックス・シーンのためにある。

ドリュー・バリモア『ローラーガールズ・ダイアリー』(2009)

監督デビュー作。1960年代からアメリカで流行したローラーダービーを題材にし、監督自身も出演している。価値観の異なる母親との確執に苦しむ女子高校生が、無理解な壁にぶつかりながら、自分に正直になって人生を歩もうとする姿を描く。

昔自分が優勝した美人コンテストで娘も優勝すれば、人生に成功すること間違いなし。そんな信念の下で育てられた彼女が、見た目の美しさで競う世界とは正反対のローラーダービーに魅了されてしまい、親に内緒でチームに参加。そこは、彼女にとって自己解放できる新しい場所だった。監督自身の人生を反映したかのような話。

ジョージ・クルーニー『サバービコン 仮面を被った街』(2017)

監督第6作目。1950年代に実際に起きた人種差別暴動をモチーフに、絵に描いたような理想郷で起きた奇妙な事件を描く。『コンフェッション』 (02)で監督デビュー。ほかに『グッドナイト&グッドラック』(05)、『かけひきは、恋のはじまり』(08)、『スーパー・チューズデー 〜正義を売った日〜』(11)などがある。

ジョエル&イーサン・コーエン兄弟が脚本に関わっているだけに、捉えどころのない不気味さにゾクゾク。理想を掲げて作られた笑顔あふれる町に、黒人一家が引っ越してきたことから、住民たちのどす黒い本性が少しずつあぶり出されていく。何だか変だよ。そんな違和感が形になっていく恐ろしさ。

ソフィア・コッポラ『マリー・アントワネット』(2006)

監督第3作目。フランスのヴェルサイユ宮殿で、実際に3ヶ月に及ぶロケが行われた。『Lick the Star』(98)で監督デビュー。ほかに『ヴァージン・スーサイズ』(19)、『ロスト・イン・トランスレーション』(03)、『SOMEWHERE』(10)、『ブリングリング』(13)、『The Beguiled/ビガイルド 欲望のめざめ』(17)がある。

誰も知らない土地にお嫁にきた14歳の少女マリー・アントワネット。彼女のストレスや孤独という気分を描いた作品なので、そこに時代考証や史実を求めるのは野暮というもの。パステルカラーの衣装。マカロンタワー。ショッピング。そんな女の子の「大好き」が散りばめられつつも、満たされない思いに人知れず苦しむ姿ありの思春期映画。

メル・ギブソン『ブレイブハート』(1995)

監督第2作目。13世紀末スコットランドの独立のために戦ったウィリアム・ウォレスの伝記映画。この作品で、第68回アカデミー賞作品賞ほか4部門を受賞した。『顔のない天使』(93)で監督デビュー。ほかに『パッション』(04)、『アポカリプト』(06)、『ハクソー・リッジ』(16)がある。

残虐で冷酷なイングランド王の侵略によって家族と愛妻を殺され、復讐を誓う主人公は、圧政に苦しむスコットランド民衆と共に抵抗運動に身を投じる。祖国の自由のために立ち上がった実在の英雄を監督自身が演じ、目を覆うような残酷シーンも彼の勇気を称える演出として効果的。

ロバート・レッドフォード『普通の人々』(1980)

監督デビュー作。この作品で第53回アカデミー賞 作品賞や監督賞ほか2部門を受賞し、演技と製作の両方で地位を確立した初めての映画人だといわれた。ほかに『リバー・ランズ・スルー・イット』(92)、『クイズ・ショウ』(94)、『モンタナの風に抱かれて』(98)などがある。

水死事故で長男が死に、次男が精神病院に入院してしまったことをきっかけに、家族の気持ちがバラバラになり、静かに崩壊していく。気の弱い父親。冷淡な母親。デリケートな次男。でも彼らは普通の人々だ。当時すでにこのような家族問題が取り上げられていたことが感慨深い。

ベン・スティラー『LIFE!』(2013)

監督第5作目。『虹を掴む男』(47)のリメイク作品。『リアリティ・バイツ』(94)で監督デビュー。ほかに『ズーランダー』(01)、『トロピック・サンダー/史上最低の作戦』(08)などがある。

フォトグラフ雑誌「LIFE」編集部のネガフィルム管理者で、真面目で冴えない主人公が、最終号の表紙を飾るフィルムを入手するため、伝説のカメラマンに導かれるようにしてグリーンランドやアフガニスタンへと向かう。それは空想世界のような現実。さて、大冒険を終えた彼に訪れたものは?

トム・ハンクス『すべてをあなたに』(1996)

劇場映画として監督デビュー作。1960年代にスターを夢見た若者たちを描いた青春映画。監督自身もマネージャー役で、妻と息子も端役で出演している。また、劇中歌のうち数曲は監督が作詞作曲をしており、音楽もヒットするなど大人気。ほかに『幸せの教室』(11)がある。

ビートルズのようになりたい。そんな夢に向かって走り続けるバンドのシンデレラストーリーだが、次第にメンバーたちの心が離れてゆくというお決まりのコース。それでも長い間温めてきた企画ということで、監督の熱い思いがひしひしと伝わってくる。無名時代のシャーリーズ・セロンに注目。

イーサン・ホーク『チェルシーホテル』(2001)

監督デビュー作。1900年代に作家やアーティストたちが滞在して独自のライフスタイルを築き、そこから多くの作品が生まれたチェルシーホテルを舞台にした5つの物語。伝説的歌手ジミー・スコットが出演。ほかに『痛いほどきみが好きなのに』(06)、『シーモアさんと、大人のための人生入門』(14)がある。

そこは、ボブ・ディランが曲を作り、アンディ・ウォーホルが映画を撮り、アーサー・C・クラークが小説を書いたという聖地のような場所。そこに集まってくる詩人や画家、作家たちは、バイトで疲れたり酒浸りになったり。憧れの場所なだけに過去の亡霊に押しつぶされそうになりながら、夢を追いかけている。そんな理想と現実の間でもがき続ける若者の姿を温かい眼差しで描く。当時監督のパートナーだったユマ・サーマンも出演。

いかがでしたか?

次々と作品を発表して高い評価を受け、もはや俳優よりも監督としての地位を確立している場合もあれば、俳優業と両立させながら監督を続けている場合もあるが、共通して感じるのは、彼らは本当に映画が好きなんだなあということ。

監督業に進出するチャンスがあれば、自分も映画を撮ってみたい。そんな俳優もまだまだたくさんいるに違いない。今後ますます俳優が監督する映画が増え、面白い作品を観ることを期待したい。