VWが世界で初めてお披露目した電気自動車「ID.3」(筆者撮影)

筆者は今、ドイツ・フランクフルトで開催されるフランクフルトモーターショー(IAA)のため現地に来ている。現地日時9月10日からメディア向けのプレスデーを皮切りにショーはスタートするが、例年その前日夜に出展社のうちいくつかのグループではメディアを対象とした事前説明会を開催する。


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今回はVW(フォルクスワーゲン)グループ各社の事前説明を行う「VWグループメディアナイト」の取材を先ほど(現地時間9月9日20時〜)行った。ここでの目玉は、2019年末に欧州で販売を開始するとしていたバッテリー式電気自動車(BEV)の市販車バージョンである「ID.3(アイディ.3)」が、世界で初めてメディアに対してお披露目されたことだ。このID.3はすでに先行生産車として400台が完成している。

ID.3は、フォルクスワーゲンのモジュラーエレクトリック ドライブ マトリックス(MEB)をベースにした、次世代電気自動車シリーズの第1弾だ。MEBについては2019年3月にスイスのジュネーブで開催されたジュネーブモーターショーの記事に詳しいので本稿と併せてお読みいただきたい。

特別限定モデルの航続距離は最大420km

VWグループメディアナイトに登壇したVWAG会長のヘルベルト・ディース氏はID.3について、「4年半前からご説明してきた電気自動車がID.3としてついに量産を開始します。MEBプラットフォームをベースに開発されたこの最初の電気自動車は、CO2ニュートラルな方法で生産され、電気自動車ならではのハイレベルなドライビング・ダイナミクスを特徴としており、完全なネットワーク機能も備えています」と語った。

発売当初に設定される特別限定モデルの「ID.3 1ST」は、バッテリー容量58kWh/最大420km(WLTP モード)の航続距離を誇る。量産モデルでは、45kWh/最大330km(同)と、77kWh /最大550km(同)もラインナップに加わる予定だ。充電時間は、100kWの急速充電器を使用した場合、ID.3 1STでは、30分間で約290km(同)走行分の電気エネルギーを充電することができる。

VWはID.3をもって、世界の自動車産業の中で最も大きな電動化策をとったことになる。今後3年間で、VWグループ内の商用車を含むすべてのブランドで、合計33車種のMEBをベースにしたモデルの生産を立ち上げる予定だ。

VWグループメディアナイトを前に、VWでe-モビリティ担当する取締役のトーマス・ウルブリッヒ氏は「ID.3を生産する(ツヴィッカウ工場/ヴォルフスブルク)の転換作業は完全にスケジュールどおりに進んでいます」とし、続けて「ID.3の生産が、2019年11月からツヴィッカウ工場でフル稼働体制での生産が開始されます。すでに現在、最後の生産ロボットが設置され、組み立てラインの試運転も同時に行われています」と語った。

気になるのが完成している400台のID.3だ。これについてウルブリッヒ氏は「完成している400台のID.3先行生産車は、すでにヨーロッパ各地で試験走行を実施しています。ID.3の本格的な生産が開始される11月から、VWのまったく新しい時代が到来することになります。これは、初代ビートルや初代ゴルフと同じくらい大きな節目となるでしょう」と説明する。

欧州最大級の電気自動車工場

ID.3の本格的な生産に向け、VWはID.3の組み立てを行うツヴィッカウ工場の目的を100%内燃エンジンから100%電気自動車へと段階的に、かつ大きく方針を転換している。電気自動車生産への切り替えは2018年初頭から開始していて、2020年末までには完了する予定だ。

生産台数については、工場敷地内に建設が予定されている合計12棟の新しい建物などにより段階的に引き上げられる。また、こうした設備投資により2021年からMEB車両の主要なボディパーツはすべてツヴィッカウ工場で製造できるようになるという。


VWグループメディアナイトに登壇したVWAG会長のヘルベルト・ディース氏(筆者撮影)

ツヴィッカウ工場の2番目にあたる組み立てラインでは2020年の夏からBEVに向けた転換作業を開始し、2020年中に稼働を開始。最終的には2021年から3つのグループブランドの6車種のMEBをベースにした新型BEVが、このツヴィッカウ工場で生産される予定だ。

同工場の生産能力は、BEVへの転換が図られたことで現在の年間30万台から33万台に引き上げられ、欧州最大級の電気自動車工場となる。これまでにVWはツヴィッカウ工場の転換に、約12億ユーロを投資した。ツヴィッカウ工場ではBEV生産に向け、1600台を超える最新世代の生産ロボットを新たに設置した。最終組み立てラインではルーフライナーの自動設置装置など新しい技術が採用されている。

この先ツヴィッカウ工場は自動化の割合を増加させ、最終的には1日の生産台数を現在の1350台から1500台へと約150台増やす予定。また、工場の自動化は進めるものの、大規模なリストラは行わず合計8000人の従業員数はほぼ据え置かれる。

従業員向けには新たにBEVを取り扱うための高電圧トレーニングを実施している。ここでは最新のバッテリーシステムや、電気配線を安全かつ正しく取り扱う方法について学んでいる。VWでは高電圧トレーニングに合計1万3000日が必要としてカリキュラムを組んでおり、このうち約8000日が完了し、2500人以上の従業員がすでにe-モビリティの資格を取得した。


筆者とID.3(筆者撮影)

世界初公開されたID.3の納車は2020年の夏にまず欧州で開始される。これは、3万台以上の予約を成立させた事前予約キャンペーンで予約したユーザー向けとのことだ。ドイツにおける量産モデルのスタート価格は3万ユーロ未満。これは現在、販売されているフォルクスワーゲン「ゴルフ」のディーゼルエンジン搭載車と同等だ。

さらに、そこから大衆向け電気自動車として政府からの補助金が控除されるため、差し引きした車両価格は一般的な小型車の価格と同等レベルになる見込み。注目のID.3だが当然、日本市場へも導入される。しかし、その時期については未定だ。

ロゴとブランド・デザインを一新

最後に、このVWグループメディアナイトでは、ID.3のお披露目とともに、新しいロゴとブランド・デザインを発表した。これまでの立体的なロゴデザインから、平面的2次元デザインへと変更したことで電動化、コネクテッド機能、カーボンニュートラルの特徴を表現。また、サイズの大小にとらわれることなく、デジタルメディアにも適するようになっている。


VWの新しいロゴ(筆者撮影)

新しいロゴは、地色にブルーのトーンが追加され、追加のカラーバリエーションも認められている。シンプルで使いやすいインターフェースを備えたデジタル・アプリケーションの重要性が非常に高まっていることにも対応し、将来的に新しい「ムービング・フレーム」と呼ばれる枠の中に柔軟に配置することができるようになるという。

なお、フォルクスワーゲンのブランド・デザインの変更は、新たなブランディングキャンペーンでは世界最大級で、新しいブランド・デザインへの切り替えはフォルクスワーゲン全モデルに段階的に適応され、2020年半ばまでに完了する。

ヘルベルト・ディース氏はVWグループメディアナイトでのあいさつを「2025年以降の早い段階で、欧州および中国市場で販売される新車販売台数の50%はBEVになるだろう」と締めくくる。フォルクスワーゲンが企業生命をかけたBEVをはじめとした電動化に向け、すでに舵は切り終えた。同時にディース氏の言葉に、こうした後戻りできない状況に自ら追い込んだフォルクスワーゲンの強い決意を筆者は感じた。