このように国家緊急権は、非常事態を為政者が自演して権力を集中させたり、いつまでも非常の措置を延長し続けたりして濫用されてきた歴史がある。とりわけ戦争と絡めて問題視される緊急事態条項であるが、今回はあくまで自然災害のケースでの検証が目的であるので、話を戻そう。

◆参議院の緊急集会があるし、自然災害時には一時的に内閣に立法権を認めている

 2015年5月の衆議院憲法審査会において、自民党憲法改正推進本部長の船田元氏は、「(緊急事態条項について)大規模災害発生時などに、国会議員の任期が延長できることなどを憲法に規定しておくことは急務だ」と述べた。2018年のたたき台素案において自民党は、大地震などの大規模災害が発生した場合を想定し、緊急事態条項の必要性を主張している。

 果たして本当に緊急事態条項がなければ、政府は大地震などの「自然災害」に対応することができないのだろうか?

 これに対し永井弁護士は「戦前、大日本帝国憲法のもと引き起こされた悲惨な戦争の反省からあえて国家緊急権を憲法に入れなかったが、(現行憲法は)災害に備えて2つの制度を設けている」と説明する。

 一つ目は、参議院の緊急集会だ。憲法54条2項は衆議院が解散されているとき大震災が起こった場合などの不測の事態に備えて、参議院の「緊急集会」を規定している。

【日本国憲法54条2項】
 衆議院が解散されたときは、参議院は、同時に閉会となる。但し、内閣は、国に緊急の必要があるときは、参議院の緊急集会を求めることができる。

 衆議院が解散されているとき、国の緊急の必要があれば、参議院の緊急集会が国会の代わりを果たし、政治的な空白を生まないように設計されているのだ。参議院の緊急集会では、暫定的に法律や予算の議決をして、採られた措置は次の国会開会後10日以内に衆議院の同意を得られなければ効力を失う、という規定である。これがまず緊急事態の対応として憲法に用意されている。

 参議院の緊急集会が開催できる場合は良いが、首都直下型地震のように参議院の緊急集会すら開催できない場合はどうするのか?

 そのような場合に備えて憲法はもう一つの制度を用意した。それが、政令への罰則の委任の規定(憲法73条6号)だ。

【日本国憲法73条6号】
この憲法及び法律の規定を実施するために、政令を制定すること。但し、政令には、特にその法律の委任がある場合を除いては、罰則を設けることができない。

 国会で法律が制定できないとき、内閣が政令を制定することになる。この政令に実際の効果を伴わせるためには、罰則の規定も合わせて設ける必要がある。しかし、その罰則により過度に人権制限が行われないよう、特に法律の委任(法律から委任を受けて細かい事柄を決める委任命令)がないと罰則は設けることができない。これにより国会が制定した法律で厳格な要件のもとに内閣は緊急時に罰則付きの政令を制定することができることになった。この憲法73条6号を受けて、災害対策基本法109条・109条の2は厳格な要件のもと、緊急時に、内閣に一時的な立法権を認めている。

 災害緊急事態に、国会が閉会中、参議院開催中、臨時会の召集や参議院の緊急集会をまつ暇がないとき、内閣は憲法+災害対策基本法により、特定の事項に限って、罰則付きの政令を定めることができるのだ。

【災害対策基本法109条・109条の2】(抜粋)
第百九条
1 災害緊急事態に際し国の経済の秩序を維持し、及び公共の福祉を確保するため緊急の必要がある場合において、国会が閉会中又は衆議院が解散中であり、かつ、臨時会の召集を決定し、又は参議院の緊急集会を求めてその措置をまついとまがないときは、内閣は、次の各号に掲げる事項について必要な措置をとるため、政令を制定することができる。