創立30周年を記念し、日本向けに新しくカスタマイズした製品を発表するASUSの施会長(中央)(写真:ASUS)

台湾のパソコン・スマホ製造大手「ASUS」(エイスース、華碩電脳)が今年、創立30周年を迎えた。日本では5万円以下の低価格パソコンで知られているが、同社は電子機器に使用される回路基板やマザーボードの製造から創業し、現在はノートパソコンの世界シェアでトップ5に入る。

創立30周年を記念し、スマートフォンのフラッグシップモデル「ZenFone 6」(ゼンフォン6)やビジネスノートパソコン「ZenBook 14」(ゼンブック 14)などを、5月に開かれたアジア最大級のIT見本市「台北国際電脳展」(Computex、台北国際コンピュータ見本市)時に発表。8月20日には日本向けにカスタマイズした製品を東京で発表した。

8月に発表された「ZenBook 14」の価格は約15万円から、キーボード面に液晶ディスプレイを備えた2画面ノートパソコン「ZenBook Pro Duo」は約40万円からと、廉価パソコンのイメージから程遠い製品ラインアップだ。

創立30周年を迎えたが、スマホ分野ではファーウェイなど中国勢との競争も激しくなっている。来日した施崇棠(ジョニー・シー)董事長(会長)に、今後の事業戦略について聞いた。

30年間、技術にこだわり続けてきた

――ASUSの30年の歩みをどう振り返りますか。

まずは30年という節目の年を迎えられたことにASUSの愛用者に感謝を申し上げたい。

当社はもともと世界で最高のマザーボードを製造することから事業を始めた。台湾経済はコンピュータ産業で発展する機会を得て、ASUSも電子機器産業全体の発展とともに成長してきた。

そのなかでも技術に対する熱意やこだわりはこの30年においてつねにASUSの重要なアイデンティティーであり続け、イノベーションを興してきた。世界初のデタッチャブルパソコン(キーボードと画面を切り離せるパソコン)や世界初のゲーミングノートパソコンなどを生み出した。

祖業のマザーボードはこれまで世界で最も多く売っており、パソコンやスマホでも世界で受け入れてもらえた。

――日本市場をどのように見ていますか。

日本のユーザーは品質を重視して商品を選んでくれる。ゆえに私たちも自社のもつ技術でいかにすばらしい製品を日本で展開できるかを考え続けている。

日本にはまずマザーボードの販売で進出し、2006年からノートパソコンも本格展開している。現在ではGoogleと共同開発したタブレット「Nexus7」やノートPCの「Zenbook」が好評だ。スマートフォンの「Zenfone」シリーズも人気で、SIMフリースマホ市場では2位となっている。

日本のユーザーは一流の顧客で、日本で受け入れられたかどうかで、ASUSにとってよい製品を出せたかどうかを知ることができる。ゆえにASUSは日本の優先度を非常に高く設定して、日本向け仕様も用意してきた。それだけ日本を重視している。

孫子の兵法にならい、ハイスペックな製品を追求

――日本では「低価格パソコンメーカー」のイメージが強いですが、最近は高価格なハイスペック品が増えています。

もともとASUSはいいものをさらによくしていくことを目指している。実際に数多くの世界初製品を生み出してきたし、多くのユーザーからはイノベーションがないASUSはASUSではないと言われてきた。


施崇棠(ジョニー・シー)/1952年台湾彰化県生まれ。国立台湾大学電気工学科、国立交通大学経営管理大学院卒業。27歳でAcerに入社し、Acer副総経理などを経て、1994年にASUS会長兼CEOに就任、2008年よりASUS会長(撮影:今井康一)

現在はとくにゲーマーやデザイナーなど、パワーユーザー向け製品に注力している。彼らの求める技術水準はとても高く、それらの要求に対応していくのは難しい。ただ、ひたすらいい物を作ろうと努力を続ければ必ず活路を見出すことができると考え、あえて難しいものに挑戦している。

――ファーウェイやオッポなど中国のスマホメーカーも台頭しています。競争環境は厳しいのではないですか?

ハイスペックな製品を追求していくことが競争においても重要となる。背景にあるのは孫子の兵法の考え方だ。孫子は、相手を見極めて自分たちが強みをもつところでベストを尽くせば自ずと有利な状況を引き出せるという。

オッポやヴィーヴォはここ数年、急伸してきた。そしてファーウェイはいまでは巨大なスマホメーカーだろう。ASUSが彼らとの競争を勝ち抜くには、技術力もさることながらゲームに特化した機能やデザイナーが必要としている機能など、ハイエンド層の需要に応えられるよう極めなければならない。専門性や技術力が足りなければ、他メーカーとの差がなくなり、価格競争するために単価を落とさなければいけなくなる。

だから、パワーユーザーや性能にこだわるコア層をターゲットにした専門性や技術を追求した製品で勝負する。性能も高くない簡単なものは誰にでも作れるが、将来の成長を考えると、挑戦的な難しい道を目指す方向性が正しいと信じている。

――2019年の第1四半期(2019年1〜3月期)は売上高が前年同期比7%減少。スマホ事業では約20億円の赤字を計上しており、昨年はスマホ事業から撤退するとの報道も出ました。

あらゆる議論を社内でしてきたが、すばらしい電子機器を作り上げるという点でスマホを決してあきらめてはいけないと判断した。

今のところスマホ事業については回復してきており、好調さを取り戻し始めている。ZenFone6はもちろん、最近わが社で最も成功しているゲーミングスマホ「ROGフォン」は、ゲーミングスマホ市場の7割以上のシェアを獲得している。世界最大のゲーム企業となった中国のテンセントとも協業し、ROGフォンの最新機種を中国大陸で販売したときには、予約だけでも200万台売れた。孫子の兵法が言うように、自分たちが優勢であるところでこそ勝負できる。


孫子の兵法を引き合いに、「自分たちが優勢であるところでこそ勝負できる」と語る施会長(撮影:今井康一)

ASUSは長期的な視点で製品開発を考えており、パソコン産業が発展していくなかでいずれ電話はコンピュータになっていき、モバイル機器が重要になっていくことは予測ができていた。スマホ開発の準備を事前に怠らなかったからこそ、ゲーミングスマホのように技術水準が高い製品を出せていると思う。

また、5Gの時代になってもスマホが重要であり続けるという認識に変わりはない。例えば、パーソナルコンピュータの役割はもはやPCではなくスマホが持っている。モノとインターネットがつながるIoTの社会ではスマホがさらに重要なデバイスとなるはずだ。ASUSとしても5Gをどう取り込むかが焦点で、展開しているスマホシリーズROGやZenfoneが重要になる。

米中対立の悪い側面ばかり見る必要はない

――ASUSは台湾企業です。米中対立の影響は出ていないのですか。

立つべき視点によって見方は分かれる。本当に米中対立が深刻化したとき、おそらく台湾のような条件をもっている国はほかにないだろう。中国人はASUSのことを、ファーウェイのような自国企業と思わないだろう。が、それでも中国からすれば「台湾は同胞だ」ともいう。

台湾社会は多様性にあふれている。中国の影響はもちろん、オランダや日本の植民統治の影響を受けてきた。アメリカの影響も強い。政治的に米中摩擦は明らかに好ましくないが、台湾は文化的に米中双方と付き合えるポテンシャルをもっている。米中の対立の狭間にあることが必ずしも欠点とはならない。悪い側面ばかり見る必要はない。

――今後の電子機器産業はどのように発展していくと思われますか。

やはりAIはひとつの焦点だ。過去の産業革命は生産手段や交通手段の選択肢が増えるなど「身体の拡張」をもたらしたが、今回のITの発展は「知能の拡張」をもたらすはずだ。

AIによって既存のスマホやパソコンはより多くの機能を搭載できるようになり、発展の幅が広がるだろう。今のスマホにはカメラやマイクなどの「目」や「耳」があるが、スマホ自身がそれらを活用しているかといえば、そうではない。スマホを生き物に見立てれば自らが持っている機能を利活用できていない、ある意味「愚かな」状態だ。AIを活用して既存のデバイスをいかに賢くしてユーザーインターフェース(UI)を高められるが、電子機器産業の方向性のひとつになるだろう。