待望のステップアップ移籍を果たした堂安。オランダ屈指の名門で熾烈なレギュラー争いを勝ち抜けるか。(C)PSV

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 PSVアイントホーフェンがビッグクラブであることは言うまでもない。
 
 一方で、ブラバント地方特有のおおらかさもある。8月31日午後2時、わたしがスタジアムの受付を「こんにちは!」とひと言だけ言って通り過ぎて記者会見場に向かうと、スタジアムツアーに参加中のファンたちが堂安律の到着を待ち構えていた。実際、堂安は彼らの祝福を受けながら、記者会見場に入ってきた。
 
 堂安に対する一問目の質問は「PSV移籍を決めた理由はなんですか?」というものだった。彼は「理由だらけです」と言って続けた。
 
「本当に素晴らしいクラブです。スタジアムやチームメイトと会ったりして、あらためて本当にこのクラブの素晴らしさを知りました。ここからは言い訳できない環境になった。本当に自分次第です。すべてを懸けてPSVのために戦いたいと思います」
 
 PSVというビッグクラブに入団したことについては「本当にビッグクラブなので1試合ダメだったら、なにか言われる環境なので……。なんかいろいろ頭の中でありますが、楽しみでしかない。先ほども言いましたが、これからは言い訳ができないというのが自分の気持ちです」と語った。

 
 オランダ1年目で9ゴールを挙げた堂安に対しては昨年夏、CSKAモスクワがオファーを出したが、フローニンヘンはこれを断った。当時の社長、ハンス・ナイラントの家を訪ねて「俺をロシアに行かせてほしい」と堂安は直訴した。ナイラント社長は「まだ20歳(当時)の選手がクラブの社長の家まで来て移籍を訴えるなんて、オランダ人ですらしない」と堂安の勇気に驚き、感心した。結局、この日はナイラント社長の妻も交え、庭で食事をすることになった。
 
 あれから1年が経った。フローニンヘンは1400万ユーロ(約17億5000万円)もの移籍金をPSVに要求した。ハキム・ジイェフの獲得に際し、アヤックスがトゥベンテに払った移籍金が推定1100万ユーロ(約13億7500万円)であったことを考えれば、法外に高い金額だ。PSVとフローニンヘンの交渉はいったん打ち切られたかに思えたが、8月28日に突然、両者が合意に達したというニュースが出た。
 かつてPSVでプレーした解説者、アーノルド・ブルヒンクは「フローニンヘンのほうからPSVに交渉再開の申し入れがあった」とテレビ番組で明かした。フローニンヘンは移籍金を750万ユーロ(約9億3750万円)にまで譲歩したのだ。1年前の出来事を思い起こすと、堂安の移籍にはなんらかの強い意志が働いたと見るのが妥当だろう。
 
 PSV入団会見の席上で、堂安はこう言った。
 
「自分の実力は自分が一番分かってるつもりです。それに適したクラブを僕はちゃんと選んでると思う。しっかりとしたステップアップができてると思います」
 
 2018−19シーズンの堂安は、前半戦こそ不振のチームに希望を与えるプレーをみせたが、後半戦は復調したチームとは裏腹にわずか1ゴールに終わった。“良い時期”はあったが、シーズンを通じて“良い1年”を過ごしたわけではない──と評価するのが妥当だろう。
 
 その“良い時期”だけにフォーカスすれば「堂安はPSVで活躍する実力(ないしはポテンシャル)がある」と言えるが、“良い1年”を過ごせなかったことを鑑みると「難しいのではないか」という声も聞こえてくるのは仕方がない。堂安は自身の力で、懐疑的な声を払拭するのみだ。
 
 面白いのは、オランダ国内で「堂安はPSVでセントラルMFとしてプレーできるのではないか」という議論があることだ。9月1日のテレビ番組でも「PSVはアタッカー陣が豊富。一方でセントラルMFがRKC戦でも良くなかった。堂安をそこでプレーさせる手もある」「だけど、やっぱり彼は右から仕掛けさせるプレーが活きるよね」といったやりとりがあった。今後、堂安をウォッチしていくで、頭の片隅に入れておきたいトピックだ。