2019年8月30日に最新作『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』が公開となったクエンティン・タランティーノ監督。今回は、クエンティン・タランティーノ作品15本をまとめてご紹介。

『レザボア・ドッグス』(1991)

今や稀代のヒットメーカーとして新作が発表されるごとに常に映画界の注目を浴び続けているクエンティン・タランティーノ監督が、脚本と出演をも務めた記念すべきデビュー作。

宝石強盗のために集められた6人の男たち。互いの素性を全く知らない同士の彼らは、計画通りに宝石店を襲撃するが、警官隊との激しい攻防戦を繰り広げ、大きな犠牲を強いられる。そこから仲間の中にいる内通者探しが繰り広げられる。

熱狂的な映画マニアとして知られるタランティーノ監督は、スタンリー・キューブリック監督の傑作ノワール『現金に体を張れ』(1956)に触発され、本作の製作にいったと言われている。公開からすでに25年以上の時が経っているが、今でもインディペンデント映画の金字塔として根強いファン層を維持している。

『パルプ・フィクション』(1994)

クエンティン・タランティーノ監督の2作目となる本作。ジョン・トラヴォルタ、サミュエル・L・ジャクソン、ユマ・サーマン、ハーヴェイ・カイテル、ティム・ロス、ブルース・ウィリスと豪華キャストが揃い、キャリアを代表するバイオレンスアクション作品となった。

レストランを襲う強盗カップル、ちょうどその場に出会したギャングの殺し屋、さらにギャングからの八百長話を断り、追われる身となった落ち目のボクサー。脈絡がないかにみえる3つの犯罪ドラマが、最終的に交差し、衝撃のクライマックスを迎える。

タランティーノ監督らしいプロット展開が冴え渡る本作の脚本は、第67回アカデミー賞で脚本賞を受賞。さらに第47回カンヌ国際映画祭では見事パルム・ドールを受賞した。

『ジャッキー・ブラウン』(1997)

アメリカ犯罪小説の名手エルモア・レナードの小説『ラム・パンチ』を基に、タランティーノ監督が独自に脚色したハードボイルド・サスペンス。

メキシコの航空会社に務めるスチュワーデスのジャッキー(パム・グリア)は、武器商人オデール(サミュエル・L・ジャクソン)の運び屋を裏家業としていた。とことが、オデールを追うFBI捜査官のレイ(マイケル・キートン)に逮捕されたことから、ジャッキーは新たな計画を立てていく……。

主人公のジャッキーを演じるのは、1970年代のブラックスプロイテーションのスターであるパム・グリア。若い頃からグリアの大ファンであったタランティーノ監督の熱烈なオファーを受けての出演であった。

『キル・ビル Vol.1』(2003)

前作『ジャッキー・ブラウン』から6年ぶりとなる本作は、カットするくらいなら前編・後編に分けてしまおうと踏み切ったタランティーノ監督の映画愛が特に溢れるアクション作品となった。

子どもを宿したことから殺し屋を引退したザ・ブライド(ユマ・サーマン)は、結婚式の準備のまっただ中に、所属していた組織の襲撃を受ける。婚約者と参列者が惨殺されたあげく、執拗な拷問によって胎内の子の命も奪われる。4年間もの昏睡状態から目覚めたブライドは組織への復讐を固く誓うのだった。

前編となるVol.1の主な舞台は日本。伝説の殺し屋で刀鍛冶の千葉真一、ヤクザの親分役の國村隼や女ボディガードの栗山千明など、日本人俳優の活躍がめざましい。中でも千葉は女優たちへの剣術指導にあたっている。石井輝男監督や梶芽衣子主演の『修羅雪姫』(1973)など、タランティーノ監督が影響を受けた日本のヤクザ映画へのオマージュが込められているのも見どころ。

『キル・ビル Vol.2』(2004)

前編『キル・ビル Vol.1』に続く後編となる本作では、さらに激しさを増すアクション場面だけでなく、母と娘の「愛」のテーマが全編を貫く。

着実に復讐を果たしていくブライド。残るは結婚式を襲撃した実行犯の2人と、組織のボスであるビル(デヴィッド・キャラダイン)の3人となった。彼女は、中国での厳しい修行を経て、復讐を遂げるべくメキシコへ向かうのだったが……。

監督自身が語る通り、Vol.2ではアクションよりもラブストーリーに重点が置かれている。タランティーノ監督特有の会話劇もキャラクターを際立たせる効果を生んでいる。さらに、主人公ザ・ブライドが復讐を遂げ、エンディングで流される梶芽衣子の「怨み節」が深い感動と余韻を残している。

『シン・シティ』(2005)

フランク・ミラーによるアメリカン・コミック「シン・シティ」を、ミラーと『デスペラード』(1995)などのロバート・ロドリゲス監督が共同監督したアクション映画。一部シーンを担当するかたちでタランティーノ監督も参加している。

犯罪が渦巻く街“シン・シティ”。幼い少女を狙った連続殺人事件を追う退職間際の刑事ハーティガン(ブルース・ウィリス)だったが、権力の前になす術もなく逆に自分が逮捕されてしまう。そこに、前科者のマーヴ(ミッキー・ローク)、悪徳警官を追うドワイト(クライヴ・オーウェン)たちが加わり、壮絶な復讐劇が始まる。

全編はスタイリッシュなモノクロ画面だが、随所にパートカラーが入れ込まれ、鮮やかな印象を残している。本作のロドリゲス監督の盟友であるタランティーノ監督がゲスト監督として担当したシーンでは、熱き男たちの会話劇のセンスが光る。

『デスプルーフ in グラインドハウス』(2007)

「キル・ビル」2部作を撮り上げたタランティーノ監督が次に挑んだのが、前代未聞のカーアクション・スリラー映画。

スタントマンのマイク(カート・ラッセル)は、自分が運転する車で次々女性たちを襲い、ド派手な殺し方に興奮を覚える異常な性格の持ち主。休暇中で中古車を乗り回していた4人組の若い女性たちに目をつけ、いつものように襲いかかるのだが、今回はマイクの方が半殺しにあうのだった。

タランティーノ監督が盟友ロバート・ロドリゲス監督とコンビを組んだ「グラインド・ハウス・プロジェクト」の1編である「デス・プルーフ」にカットされた場面を追加して公開されたのが本作。変態スタントマンに負けない精神力をみせる女性たちのガールズトークが全編の半分を占めており、得意のバイオレンス描写とともにタランティーノ節が炸裂する痛快作。

『イングロリアス・バスターズ』(2009)

世界中の映画ファンを湧かせるタランティーノ監督が構想に10年の歳月をかけて撮影に臨んだという本作。

舞台はナチス占領下のフランス。ナチス親衛隊のランダ大佐(クリストフ・ヴァルツ)の執拗なユダヤ人狩りによって一家を虐殺されたショーシャナ(メラニー・ロラン)は、映画館の支配人として身分を隠しながら復讐計画を進めていた。一方、ユダヤ系アメリカ人の特殊部隊“イングロリアス・バスターズ”を率いるアルド・レイン中尉(ブラッド・ピット)も、各地でナチス抹殺に暗躍していた……。

映画全体が5章のエピソードから成り、タランティーノ監督の巧みなストーリー展開によって一時も弛緩することがない。監督も自身も「最高傑作」と太鼓判を押す本作は、興行面でも監督作最大のヒット作となり、作品賞他8部門でノミネートされた第82回アカデミー賞では、ランダ大佐役で多くの観客に強烈な印象を残したクリストフ・ヴァルツに初のオスカー(助演男優賞)をもたらした。

『ジャンゴ 繋がれざる者』(2012)

大のウエスタン好きとして知られる鬼才クエンティン・タランティーノ監督が、セルジオ・コルブッチ監督の『続・荒野の用心棒』(1966)から着想を得て、満を持して臨んむ西部劇。

黒人奴隷のジャンゴ(ジェイミー・フォックス)は、愛する妻を奪われ、非人間的な酷使を強制されていたが、賞金稼ぎのシュルツ(クリストフ・ヴァルツ)と出会い、自由の身となる。彼は西部の荒くれ者たちを相手にしながら、妻が囚われている大農園キャンディ・ランドを目指す。

そのャンディ・ランドに君臨する暴君カルビン・キャンディを演じるのは、珍しく悪役に徹して怪しい魅力が光るレオナルド・ディカプリオ。作品の随所にタランティーノ監督のウエスタン愛が散りばめられ、第85回アカデミー賞では脚本賞を受賞。さらに『イングロリアス・バスターズ』での怪演に続いて本作でも芸達者ぶりを発揮したクリストフ・ヴァルツは助演男優賞を見事受賞している。

『ヘイトフル・エイト』(2015)

またしても西部劇を製作することとなったタランティーノ監督が、マカロニ・ウエスタンに熱狂した映画青年の時からの大ファンであったエンニオ・モリコーネの映画音楽とオールスターキャストで挑んだ本格密室劇。

猛吹雪に見舞われたワイオミング州の山中。嵐をしのぐために道中に一軒だけある休憩所に集められた8人の男女。荒くれ者の賞金稼ぎから元南軍将軍まで、さまざまな経歴をもつ彼らは、次第に疑心暗鬼に苛まれていき、ついに一発の銃声が惨劇の初まりを告げるのだった……。

70ミリフィルムによる超ワイド画面に広がり出す雄大な雪原風景。床の上をふてぶてしく歩き回るブーツとその鈍い音。さらにタランティーノ監督特有の饒舌な台詞回しなど、あらゆる要素がサスペンスを醸し出しながら、暴力と鮮血を予感させ、手に汗握る珠玉の密室劇を完成させた。

『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(2019)

特有のユーモアと映像センスで世界の映画ファンを魅了し続けるクエンティン・タランティーノ監督の最新作。

ロマン・ポランスキー監督夫人であったシャロン・テートが狂信的なカルト集団によって惨殺されるという1969年に実際に起きた事件を題材にしている。背景として当時のハリウッド映画界の様子が描かれ、すでにキャリアのピークを過ぎてしまったテレビ俳優役のレオナルド・ディカプリオとそのスタントマン役のブラッド・ピットの軽妙なやり取りに期待が高まる。

自身の代名詞となるバイオレンスが描写が明確に打ち出された『レザボア・ドッグス』(1992)のデビューから9作目を数える長編監督作だが、タランティーノ監督は次回作となる10作品目での引退を表明している。

『マイ・ベスト・フレンズ・バースデー』(1987)

タランティーノ監督がレンタルビデオショップで働きはじめた22歳の頃、後に脚本家となるクレイグ・ハマンと出会い、彼が書き進めていた脚本を共同で加筆し、監督を務めたのが本作。

友人の誕生日に何か特別なことをしようとするが、なぜか全て裏目に出てしまうという若者の姿を活写した作品で、当時ともに働いていたビデオ店の友人たちや知人の俳優たちが出演している。すでにタランティーノの発想力が見事に発揮されており、トニー・スコット監督作『トゥルー・ロマンス』(1993)の脚本執筆の足がかりとなった。

『フォー・ルームス』(1995)

ロサンゼルスのとあるホテルを舞台に、4つのエピソードが物語られるオムニバス形式の作品。

大晦日のホテルの一室。 第1話「ROOM 321 お客様は魔女」、第2話「ROOM 404 間違えられた男」、第3話「ROOM 309かわいい無法者」、第4話「ペントハウス ハリウッドから来た男」とユーモラスな物語がさまざまなシチュエーションで展開する。

タランティーノ監督の呼びかけで、アリソン・アンダース監督、アレクサンダー・ロックウェル監督、ロバート・ロドリゲス監督ら若手監督が集まり製作された。タランティーノ監督が監督・脚本を担当した第4話では、監督自らが出演もこなしている。

『グラインドハウス』(2007)

アメリカ映画界きっての鬼才クエンティン・タランティーノ監督が、盟友ロバート・ロドリゲス監督とタッグを組んだ「グラインド・ハウス・プロジェクト」による2本だての映画作品。

痛快ゾンビホラー・アクションであるロドリゲス監督作「プラネット・テラー」と、変態スタントマンがエキセントリックな殺戮を繰り広げるタランティーノ監督作「デス・プルーフ」の他に、ロブ・ゾンビ監督、エドガー・ライト監督、イーライ・ロス監督が加わり、実在しない映画の予告編5つで構成されている。

プロジェクト名である「グラインドハウス」とは、1960〜1970年代のアメリカで低予算映画を2〜3本立てで上映していた映画館のことで、両監督好みのB級映画へのオマージュとして製作されている。

『フロム・ダスク・ティル・ドーン』(1996)

特殊メイクデザイナーとして知られるロバート・カーツマンが作成したプロットを基にクエンティン・タランティーノ監督が脚本を執筆、盟友ロバート・ロドリゲス監督がメガホンを取った異色のホラーアクション。

全米各地で非道の限りを尽くしていた強盗犯ゲッコー兄弟が元牧師の娘を人質にしてメキシコへ逃亡。仲間との待ち合わせ場所である酒場ティティ・ツイスターに到着するが、そこは世にも恐ろしいヴァンパイアたちの巣窟であったのだ……。

華々しいキャリアをスタートさせていたタランティーノ監督の創意と工夫が火花を散らす脚本のストーリー展開は、最後の最後まで観客の期待を裏切らない。強盗犯兄弟の兄役をジョージ・クルーニーが、弟役をタランティーノ監督自らが務め、壮絶なヴァンパイアアクションに転じる物語は圧巻のラストを迎える。

【文/チャーリー】