“おなじみのキャラクター”のキャスト交代に当たり、受け継ぐ声優はどのような覚悟で臨むのだろうか。山寺宏一栗田貫一などが語る苦労とは。写真は声優の山寺宏一さん(写真:ZUMA Press/アフロ)

8月、声優の増岡弘が長らく演じてきた2つの役から“卒業”した。2つの役とは、『サザエさん』のマスオ役、『それいけ!アンパンマン』のジャムおじさん。

増岡は、マスオをおよそ40年、ジャムおじさんをおよそ30年にわたって演じ続けてきた。ジャムおじさんは、『アンパンマン』でめいけんチーズなどを演じていた山寺宏一が8月16日から、マスオは、『キン肉マン』のテリーマンなどで知られる田中秀幸が25日から後任を務めている。

長期にわたってある役を演じてきた声優が交代するというのは、作品にとっても、作品のファンにとっても大きな出来事だ。“おなじみのキャラクター”のキャスト交代にあたり、受け継ぐ声優はどのような覚悟で臨むのだろうか。

「ルパン三世」受け継いだ栗田貫一

“おなじみのキャラクター”のキャスト交代は、『ドラえもん』をはじめ、いくつかの作品で起きている出来事ではある。ここではまず、代表的なサンプルとして、『ルパン三世』の山田康雄から栗田貫一への交代を取り上げたい。

栗田貫一は「ものまね四天王」の一人としてTVを賑わせていた人気者で、ルパン三世の物まねもレパートリーの一つとして持っていた。

その栗田がルパンを最初に演じたのは、山田康雄の急逝を受けて“代役”として立った映画『ルパン三世 くたばれ!ノストラダムス』(1995)。その後、同年放送されたTVスペシャル『ルパン三世 ハリマオの財宝を追え!!』で正式に、ルパン三世の後任となった。そこからおよそ四半世紀にわたって、栗田はルパン三世を演じ続けている。

栗田は、さまざまなインタビューで繰り返し、『くたばれ!ノストラダムス』のときはあくまでも代役のつもりで演じており、その後、正式にルパン三世役となってからも「山田の演技を前提にしてルパンを演じている」ということを強調している。

栗田は今もアフレコ前は、山田の演じるルパン三世の演技を聞き直して収録に臨んでいるそうで、昨年のTVスペシャル『ルパン三世 グッバイ・パートナー』で川越淳監督に取材したときも、栗田が『ルパン三世 カリオストロの城』を見直してアフレコに臨んだ、というエピソードが出てきた。

この流れを単に「物まね」があったからルパン三世を継承できた、というふうに捉えると間違ってしまう(しかし、そういう人も案外多いかもしれない)。

例えば栗田は、物まねは物まねであって、声優の仕事とは違うもの、と語っている。また、栗田自身も、石川五エ門、峰不二子、銭形警部のキャストが一新された『ルパン三世 血の刻印 〜永遠のMermaid〜』(2011)を経て、次第に「ルパンを“ルパン”として演じることがわかってきた」(前出インタビュー)と語っている。つまり栗田の場合、受け継ぐきっかけとなった物まねはあくまで入り口であり、それが「ルパンを演じること」のゴールではなかったのである。

「銭形警部」「古代進」継承した山寺宏一

筆者はこれまでに『声優語〜アニメに命を吹き込むプロフェッショナル〜』(一迅社)、『プロフェッショナル13人が語る わたしの声優道』(河出書房新社)という2冊の、声優インタビュー集を出している。それらインタビューの中にも、“おなじみキャラクター”を継承することの難しさについて、声優が語っている部分がある。

例えば『声優語』所収の山寺宏一インタビュー。山寺のインタビューは、栗田がルパン三世について語った部分と共通点が多い。

山寺は、2011年から『ルパン三世』で銭形警部(前任は納谷悟朗)を現在まで担当しているし、映画『宇宙戦艦ヤマト 復活篇』(2009)などで主人公・古代進(前任は富山敬)を継承している。

山寺は「古代進にしろ銭形にしろ、僕自身、富山敬さんや納谷悟朗さんのお芝居を見て育ってきた人間ですから、違和感がないといえばウソになるんです。自分がやらずにすんで、オリジナルの方がずっと演じてくださる状況があれば、それが一番いいわけで」と前置きしたうえで、銭形を演じるに当たってどこまで納谷を意識した演技をするかについては、次のように説明する。

「最初は視聴者を混乱させないためにも、少しは似ているトーンが出せればと思いました。もちろん、似せて不自然に聞こえるならダメなんですが、自分の中でちょっと近づける作業をしないと、どうしても落ち着かない部分もあって。

幸いスピンオフの『LUPIN the Third -峰不二子という女-』から今回の『ルパン三世』に至る間に、声をどこまで似せるかどうかじゃなくて、役柄の状況とお芝居をどうすればいいかということが、だんだんメインになっていきました」

この「似せて不自然に聞こえるなら(似ていても)ダメ」という部分は、栗田の「物まねは物まね。声優とは違う」という姿勢と呼応しているし、次第に「前任者に似ている/似ていない」以上に、演技重視になっていくところも共通する。

では、その演技を支えているのは何なのか。『わたしの声優道』所収の冨永みーなインタビューでは、冨永が『サザエさん』のカツオを演じるようになったときの心境を以下のように語っている。

冨永が大事にした「カツオくんの魂」

冨永がカツオを演じるようになったのは1998年。当時冨永は、伊佐坂浮江(磯野家の隣人一家の1人)を演じていたが、カツオ役の高橋和枝の調子が悪くなり、急遽カツオを演じることになったのが最初だったという。子役出身で、さまざまなアニメ作品でヒロインも演じてきた冨永だが、少年役は少なく、カツオ以外で、目立つ少年役といえば『るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚- 』(1996)の明神弥彦ぐらいである。

「当時音響監督だった岡本知さんは大好きなディレクターさんだったので『この方が言うんだからできなくてもやるべきだ』と。やらないという選択肢はなかったです。その場でディレクションを受けながら演じたのですが、間近で和枝さんのお芝居を見ていたことが自分の中に強く残っていました。和枝さんはカツオくんの魂をすごく大切にすごく大事にしてらっしゃった先輩だったので、声は違ってもいいから、そこだけは大事にしようと」

「声は違ってもいいから魂を大切にする」という姿勢について、冨永は次のような言い回しでも語っている。

「とにかく全力でやらないと……という思いだけでした。だけど視聴者にとっては、あるときから和枝さんではなく私が演じているということは事実なわけで『麦茶だと思って飲んだらコーヒーだった』みたいな現象は起きていたと思います。

でも、それはもともと違うものなので、違うと言われても……。そこについての覚悟というか、割り切りはありました。大事なのはカツオを大切に考える魂で、声が違うのはごめんなさい、と。あとはディレクターさんがOKを出してくれたのなら、そこが私たちにとってのOKなので、それを信じようと」

声というのは、いくら物まねができようとも、最終的には個々人で皆異なっているものだ。だからこそ、役柄に向き合う“魂”を継承することが、“おなじみのキャラクター”を継承することにつながるのである。

逆にいえば、いかに前任者の“魂”を受け取ったか、という点こそが、後継する声優の腐心する点といえる。ここでいう“魂”とは、目に見えるものではないが、具体的には、そのキャラクターが喜んだり怒ったりするときに、どんなものにどんなふうに反応するか、という形で音声には反映される。表層的な似てる/似ていない以上に、そここそがファンが耳を澄ますべきポイントといえる。