投資家であるジム・ロジャーズも故郷のアメリカを「捨てて」今はシンガポールへ。大好きな日本に向け「日本人よ、故郷を出るべきだ」と言う(写真:筆者撮影)

ファイナンシャルプランナーの花輪陽子です。ジム・ロジャーズ氏へのインタビューの中から、皆さんにとって役に立つメッセージをご紹介していきます。今回は、家族とお金を守るための成功法則をお伝えします。

人生で成功するために「やってはいけない」ことは複数あるということで、今回もその中から重要なメッセージを1つご紹介しましょう。

大学生になったら、もはや故郷から離れるべき

「私は娘たちに『家からできるだけ離れた大学に行きなさい』と言い続けている。それが自分自身のことを知り、世界のことを知り、やがては故郷の本当の姿を教えてくれることになるからだ。結婚する前の若いころは、少なくとも2年は自国を離れて、自分自身や世界について学ぶべきと私は考える。故郷にとどまろうなどとは決して思うべきではない」

故郷にとどまり続けると、思わぬ落とし穴があるようです。シンガポールのインターナショナル校で学んで、アメリカの有名大学に進学した日本人も、こんなエピソードを漏らしていました。

その有名大学には、地元から出たことがないアメリカ人が多く、シンガポールなどアジアにエクスパッド(駐在員)で暮らしているアメリカ人とは大きな差があったと。そのためカルチャーショックを受けたそうです。

筆者も学生時代、アメリカにホームステイをしたことがありますが、同様の経験をしました。シンガポールで暮らしている今も、やはりアジアに出ているアメリカ人と、自国の地元しか知らないアメリカ人とでは、何か大きな違いを感じます。アジアに出てきている人は、アジア人への理解、自国について説明する能力、他国の本質を見抜く考察力などがあるのです。

ロジャーズ氏は続けます。

「残念ながら日本人は内向き志向だ。それはパスポートの取得件数にも表れている。日本のパスポート保有率(2017年)は22.8%にとどまっているという。同じ年のアメリカのパスポート保有率が42%であることを踏まえると、日本の低さがわかるのではないだろうか。

しかも、日本のパスポートならビザなしで入国できる国の数が189カ国あり、パスポートの自由度は韓国と並んで世界一だろう。実は、日本人は最も海外に出やすい環境を整えているにもかかわらず、まったく生かしていないというわけだ」

「どの国のパスポートが最強か」といった話題を欧米人、インド人、中華系などは好みますが、実際、日本のパスポートはビザなしで渡航可能な国が多いだけではなく、入国審査などがスムーズな場合も多いです。日本国籍でも日本非居住者の場合、手続きなどで不便な面がありますが、恩恵も多いにあります。

例えば税金です。相続税・贈与税では、あげ手ともらい手の双方が海外に10年以上住んで、ようやく海外資産に関しては贈与が可能になります。しかし所得税では、1年以上の予定で海外へ転勤した場合、原則として非居住者扱いとなります。海外赴任期間のすべてが海外勤務という場合は、日本の所得税は課されません。

このままだと日本のイタリア料理は「二流の味」になる

シンガポールの学校のサマースクールは、大陸からの中国人であふれかえります。ですが、日本人は少数派です。中国、インド、韓国などのアジア人と比べると、日本人は「希少価値」が高いので喜んで受け入れる学校も多いのですが、海外留学をする日本人の数は減り続けています。

1994〜1997年まではアメリカへの留学生のうち、日本人の占める割合がトップでした。ところが2012年にはピーク時の半分以下になっているのです。

外国で学ぶ者の数が減るとどうなるのでしょうか。ロジャーズ氏は言います。

「日本ではすばらしいイタリア料理を食べることができるが、これは日本人が世界の料理に触れて、一流のイタリア料理が何たるかを学んだからこそではないか。もし日本人が今のまま内向き志向を続ければ、今後は日本でも二流のイタリア料理しか食べられなくなるかもしれない。そうなる前に、世界を見て一流のものを日本に取り入れよう」


日本では今、1990年代のピーク時に留学した日本人たちが現役として活躍しているのです。これから留学する日本人が減っていくと、今は世界に誇れる日本のレストランも料理の質を落とす可能性があるということです。

ロジャーズ氏は続けます。

「今はパスポートを取ることも、ビザを取ることも、昔より簡単にできる。自国から出るのに、多額のお金は必要ない。留学はもちろん、バックパック、ヒッチハイク、外国で仕事を見つける……、さまざまな方法がある。私のようにクルマやバイクで世界一周をしろとは言わない。せめて住み慣れた場所を離れ、見知らぬ土地に身を置いてみよう。そこで成功につながる機会を見つけられるかもしれないのだから」

国によっては、労働ビザ取得が容易だったり、選り好みしなければ働く場所も見つけられるでしょう。しかし20年後、30年後の世界では、そうした経験をすることが今より難しくなるのではないでしょうか。

現段階では日本に住むほうが簡単で快適な部分も多いですが、将来を見据えてグローバルライフプランを検討してもよいかもしれません。お金に余裕がある家庭は、子どもを2年留学させるだけでもよいと思います。その後の将来に大きな影響を与えることになるのではないでしょうか。