胸に記されたMとWの「88」って?賭博業とイングランドサッカー

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文 田島 大

ユニフォームに書かれた「88」の数字とは

 今季のプレミアリーグの試合を見ていて、少し気になることがある。それがユニフォームに記された「88」である。

 これは数字なのだが、別に背番号というわけではない。ユニフォームの胸に記された数字なのだ。ボーンマスは「M 88」、アストンビラは「W 88」、ニューカッスルは「FUN 88」。当然これらはユニフォームスポンサーなのだが、実に3チームが胸に「88」を付けているのだ。

 察しが良い方なら、すぐに3社の業種に気付くはずだ。彼らはオンラインカジノなどの「賭博業」を生業とする会社である。アジア系の企業のため、縁起が良いとされる「8」を並べているのだろう。「8」という数字は、多くのアジア諸国で幸運の数字とされており、とりわけ中国では北京オリンピックが2008年8月8日の午後8時8分8秒に開幕したほどだ。

 だから「88」は賭博業社なのだが、以前から英国ではこのギャンブル業スポンサーを巡って様々な議論が行われている。というのも、今季プレミアリーグでは全20チームのうち実に半数(10チーム)が胸に賭博業のスポンサーを入れているのだ。さらに2部リーグに目を向けると、その数は24チーム中17チームだという。

イングランドでも、賭博を巡る議論が

 IR実施法が成立した日本でも「ギャンブル依存症」を懸念する声が聞かれるが、それは英国でも同じことだ。『ガーディアン』紙によると、労働党のトム・ワトソン副代表は、政権を取れたらフットボール界の「賭博業スポンサー」を禁止すると発言したそうだ。「ギャンブル業界は、フットボールを介した宣伝を減らすと宣言していたのに、広告が増えているじゃないか。彼らの言葉は信用できない。彼らが約束を守るか、規則を厳しくするかだ。ユニフォームスポンサーを禁止するとかね」と。

 警鐘を鳴らすのは政治家だけではない。英国系のブックメーカーであるパディー・パワー社(アイルランド)とラドブロークス社(イングランド)などは、自らユニフォームスポンサーからの撤退を発表している。パディー・パワー社に至っては、プレミアから2部に降格したハダースフィールドのスポンサーになると、今年7月の親善試合で肩から斜めに大きく「Paddy Power」と描かれたユニフォームを着用させた。だがこれは「ユニフォームスポンサー廃止」を呼び掛けるキャンペーンの一環で、直後に胸スポンサーなしのユニフォームを発表した。

 結局、今季から同社がスポンサーとなったハダースフィールド、サウスエンド(イングランド)、ニューポート・カウンティー(ウェールズ)、マザウェル(スコットランド)の4チームは、胸スポンサーの入っていないユニフォームを着用している。

2部ハダーズフィールドは、胸にスポンサー名が入っていないシャツを着用している

 無論、これはパディー・パワー社が得意とする話題作りの“人気集め”に過ぎないのかもしれない。だが先日発表されたユニフォームの販売数ランクで、2部のハダースフィールドはトッテナムやニューカッスル等を抑えて国内6位に入った。ファンは、胸スポンサーを欲していないのかもしれない。

 今年から、ブックメーカーやオンラインカジノが所属するギャンブル事業者団体も、自ら広告の規制に乗り出している。8月から、21時以前のスポーツのTV中継では、番組中(前後5分間を含め)に「賭博業」のCMを入れないという。ギャンブル業界が自ら定めた取り決めである。

 とはいえ、胸スポンサーやスタジアム広告はこれに該当しない。現時点では胸スポンサーを規制するルールはなく(ユースチームのユニフォームには禁止などのルールはあるが)、来季以降、さらに賭博業社スポンサーが増える可能性もあるのだ。

Photos : Getty Images