東野幸治

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 東野幸治が仲間たちの秘話をつづる連載「この素晴らしき世界」。今週のタイトルは「58歳アルバイト芸人、リットン調査団・水野透(3)」。

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 連載のトリを華やかに飾ってくれる、リットン調査団・水野透さんの話の続きです。

 千原ジュニア君がバイク事故で生死の境を彷徨っている時、夢の中でリットンの2人に会ったそうです。水野さんも相方の藤原さんもコントの小道具の大きな花びらを顔の周りに装着していて、「こっちにおいでよ、早く!」と笑顔で手招きしながら川向こうからジュニア君を呼んだそうです。

 まさかの登場に一瞬嬉しかったものの、「あの川の向こうには行ったらあかんな」と直感で思ったジュニア君はその場に留まりました。すると、ゆっくりと意識が戻り一命を取りとめたそうです。

東野幸治

「あのままリットンさんの手招きする方に行っていたら確実に死んでたと思います。あの川は絶対に三途の川です!」とジュニア君は真顔で言っていました。

 生死の境を彷徨う後輩の脳内意識に紛れ込んだり、生きたまま三途の川の向こう側に行って戻ってきたり、そんなことができるのはリットン調査団だけでしょう。

 コンビが共に東京進出した後、少しだけレギュラー番組の仕事がありました。「今ちゃんの中野探検隊」という深夜番組でした。

 当時の若手と言われた芸人たちがそれぞれロケをしたVTRを観る番組だったのですが、水野さんは「色んなものにぶつけられる企画」をしていて、過激だけれどものすごく面白くて私は大好きでした。

 余談ですが、リットン調査団を結成する時、水野さんは藤原さんを「俺が黒澤で君が三船」という殺し文句で口説いたそうです。つまり「自分が黒澤明監督のように脚本(コント)を書く、君は三船敏郎のように主役を演じてスターになれ!」という意味です。真面目に、心の底からそう語ったそうです。

 そんな格好いいセリフから月日が経ち、どこでどう間違ったのか芸人としてなかなかうまくいかず、様々な体当たり企画をこの番組では実行していきました。

 三船敏郎を目指した藤原さんが8メートルぐらいの高さから、地面に寝転んでる黒澤監督を目指した水野さんの顔に絹ごし豆腐を正確に落とすと、水野さんの顔に豆腐がベチャリ。

「絹ごし豆腐でも高さがあったら危険や! 死んでまうわ!」必死の訴えをする黒澤監督。そのVTRをみんなで大笑いして観ていました。

 あまりに面白くて1度だけ、通天閣の上から地上にいる水野さんに絹ごし豆腐を落としたこともありました(今も昔ももちろんNGです!)。

「通天閣の上から落ちてくる絹ごし豆腐は凶器や! ホンマに死んでまうわ!」魂の叫びをあげながら逃げる水野さん。他にも、1メートルの高さから大きなスイカを水野さんの頭のてっぺんに落とすと、その瞬間、水野さんの首が体にめり込みました〜。こちらも、今も昔ももちろんNGですが、ものすごく面白かったのも確かなのです。

「走ってくる軽トラがブレーキをかけて止まる瞬間に水野さんにぶつかる」という企画もやりました。当たり前ですが、走ってくる軽トラが人にぶつかったらダメです(しつこいようですが、今も昔ももちろんNGですよ)。ですが、当時はこれにハマって、軽トラからトラックになり、最後は観光バスになりました……。

 こんな無茶苦茶な企画ばかりやっていたので、番組は案の定すぐに終わりました。しかしその後も水野さんは、ダウンタウンさんの深夜番組などで輝きを放ちます。

(続く)

東野幸治(ひがしの・こうじ)
1967年生まれ。兵庫県出身。東西問わずテレビを中心に活躍中。著書に『泥の家族』『この間。』がある。

「週刊新潮」2019年8月15・22日号 掲載