犠牲になっているのは郵便局を信頼していた人たちだ(デザイン:山根 佐保、撮影:今井 康一)

かんぽ生命の不適切募集は6月末の問題発覚から1カ月で2倍の18万件に膨らんだ。今回の問題を受けてかんぽと日本郵便は全件調査に着手しており、8月5日から全国約2000万人(件数で約3000万件)に調査書類を送付している。そうした中、郵便局で扱うアフラックの保険で二重払いなどの契約が10万件あったと報じられるなど、問題は広がる一方だ。

日本郵政グループから調査書類が届いたら、まず見るべきポイントは「問い合わせ先」である。関係者によれば、この問い合わせ先が「かんぽ生命保険」であれば不適切募集の可能性が高いという。一方、問い合わせ先が「日本郵便」なら不適切募集の可能性は低いとかんぽがみなしているのだという。

今回、顧客に不利益な変更があったと疑われる契約は二重払いや不要な乗り換えなど5つ(表参照)。調査書類が送られてきているか、かんぽの契約をしてるのか、年老いた親と離れて暮らす子ども世代にとっても心配事だろう。『週刊東洋経済』は8月26日発売号で「かんぽの闇 金融商品の罠」を特集。契約獲得に伴って支払われる「募集手当」を目当てに郵便局員が行う悪質な営業実態に迫った。


郵便局員が高齢者を”品定め”している

今回の問題で犠牲になっているのは、郵便局を信頼して契約をした高齢者だ。東京では「甘い客」、関西では「ゆるキャラ」「ゆるい客」、北海道では「あめえ客」、東北では「ボケ」、東海では名字で呼び捨てか「あのババア(またはジジイ)」……。不心得な郵便局員は、自分の言うがままにかんぽ生命の保険に入ってくれる高齢者を、陰でこう呼んでいた。


複数の郵便局員に聞いたところ、まず局員が見るのは独り暮らしかどうか。高齢者の郵便局員への警戒心はただでさえ弱いのに、独り暮らしともなれば往々にして話し相手に飢えている。子ども夫婦が同居していて局員の説明に同席すれば、「保険料の支払総額が保険金を大きく上回るのでやめておいたほうがいい」などと忠告することもあるが、独居ならばその心配はない。したがって保険の話を持っていきやすい。

次は、玄関先で何事も済まそうとしがちであること。保険契約の申込書も玄関先で書くような高齢者は、契約まで持っていくのに手っ取り早く、提案当日に契約に至る「即決」も可能で便利な存在だ(ただし「即決」は社内研修で禁止されている問題営業である)。

「こんにちは、郵便局でーす!」と声をかけると何の疑いもなくハンコを持って玄関に現れる高齢者も、「甘い客かも」と局員に思われる。郵便局員への信頼度の高さがあからさまにわかるからだ。もしかしたら認知症かな?と思われる高齢者も「甘い客」になりうる。重度の認知症の高齢者から契約を取れば、後々、家族とトラブルになるのは目に見えている。

家の中が散らかっているのも「甘い客」の特徴なのだそうだ。散らかっているから家に上げようとせず、玄関先で済まそうとする。だから「即決」しやすい。逆に、局員を家に上げて食事を振る舞う高齢者も「甘い客」になる可能性が高い。「話し相手になればいくらでも保険を契約してくれそう」(ある局員)だからだ。

郵便局の定額貯金や簡易保険でお金が増えた成功体験を持っているのも「甘い客」の条件だ。「郵便局員の勧める金融商品は儲かるに違いない」と早合点してくれるからだ。

「甘い客」と判断する8つのポイント

局員の話を総合して『週刊東洋経済』は特集「かんぽの闇 金融商品の罠」において郵便局員が訪問先で注目するポイント8項目のチェックシートを作成した。「3つ以上が該当すれば『甘い客』確定。2つなら『甘い客』候補、1つでも用心が必要だ」(別の局員)。


これで「甘い客」が自分の親に当てはまるならば、今すぐ実家で、かんぽの書類がないかをきちんと確認したほうがいい。いくつもの保険証書や契約書が出てくるかもしれない。その中には、子どもの自分がサインや捺印をした覚えのない保険もあるかもしれない。

ただ、保険証書を見つけ郵便局やかんぽ生命に連絡しても、まともに取り合ってくれないだろう。その場合には、金融庁に直接届け出るか、金融ADR(裁判外紛争解決手続き)の裁定審査会に足を運ぶのが賢明だ。

『週刊東洋経済』8月31日号(8月26日発売)の特集は「かんぽの闇 金融商品の罠」です。