五輪代表候補の大原洋人【写真:荒川祐史】

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五輪会場となる千葉県一宮町出身、1年後の表彰台をイメージ

 6月某日。千葉県一宮町の釣ヶ崎海岸・志田下ポイントでひとしきり波に乗った後、大原洋人は真っ白な歯をのぞかせながら言った。

「朝起きて海に行って波を見て、サーフィンができそうならして、夕方もまた海に行って…っていう1日の流れが一番安心しますね。海の近くにいて海に行かないと気持ち悪い。ソワソワしちゃいます(笑)」

 来年に控えた東京オリンピックの日本代表有力候補。生まれ育った一宮の海が会場となるだけに、出場にかける思いはひとしおだ。8歳からサーフィンを始め、「波質だったり、雰囲気だったり、ほとんど全ての状況でサーフィンしていると思うので、どういうコンディションになっても迷ったり不安な要素が出てくることはないという自信というか安心感」を抱かせる、勝手知ったる志田下ポイント。「あとは波を極めるだけ」と、1年後に表彰台に上がる姿もイメージできている。

 自然を相手にするスポーツは、その気まぐれに翻弄されることが多い。同じ海でも潮の流れや風の向きで、波はまったく違った姿を見せる。沖に出た途端、期待していた波が来なくなることもしばしば。「そうしたら臨機応変に作戦を変えたり、乗ってみた感覚でその時にできる限りのことをしたり」。波に対して常に受け身の立場だからこそ、巧みに乗りこなした時の充実感は計り知れない。

「試合の前に、今日の波だったらこういう演技をしたら勝てるんじゃないかなって予想するんです。自然が相手なので、予想しているサーフィンをするのも難しいし、それができたら十分。でも、予想以上のサーフィンができた時は手応えを感じますね。

 そのためにも、練習ではたくさんいろんな波でサーフィンするのが結構大切。波のコンディションが変わるのはもちろん、自分の中でも得意不得意はあるので、いい波ではなくても乗ってみる。どういう波でもコンスタントに自分のサーフィンができれば勝つ確率は上がるんじゃないかと」

 海が投げかけてくるあらゆる難題に答えられるよう、波に乗り、自分の引き出しを増やし続ける地道な作業。「言ってみれば、同じ波は2度と来ないので」と笑う姿から、自然を相手にした終わりなき駆け引きを心の底から楽しんでいる様子がうかがえる。

海とともに育った22歳「海に行くっていう動作が安心します」

 練習として海に向かう時は、課題やテーマを持って波に乗る。沖で波を待ちながら「次の波はこういうことができるかな」「今、こういうところがダメだったからコケちゃったのかな」と、前より少しでもいいサーフィンができるように頭の中はフル回転。その一方で、純粋に波に乗る楽しみだけを求めて海に向かうこともあるという。

「本当に自分が好きな波だったら、自分がやりたいサーフィンを好きなだけやる日もあります。そういう時は波を待っている時も何も思わない。ただ『早く波来い!』みたいなことしか思いません(笑)。しっかり課題を持って練習する日もあれば、全く何も考えずにただやりたいことをやるという日もある。自分の中では両方ともスキルアップにつながるんじゃないかと思うので」

 海とともに育った。「海に行くっていう動作が安心します」。生活の一部となったサーフィンは、白髪のお爺ちゃんになっても「やめることはないと思います。海に入るだけだったり、波を待つだけだったり、それでもサーフィン。年齢は関係ないし、楽しみ方は人それぞれ」と言う。全身全霊サーフィンに魅了されているが、海の怖さを感じたこともある。

「海外に行ったらたくさんありますね。大きな波が目の前に来てハッと息を飲んだり、『この波に飲まれたら死んじゃうかも』と思ったこともあります。でも大体、後になって思い返すと、怖く思ったこと自体が笑えてくるんですよね」

 そう言うと、目を細めてうれしそうに笑ったが、やっぱりサーフィンが大好き。海から離れられない。

 勝手知ったる地元の海でオリンピックが開催される千載一遇のチャンスに、「揃うものが揃い過ぎちゃって、逆に怖い(笑)」と話す。目標は「表彰台に乗りたいです」。メダルの色にはこだわらない。

 もちろん、まずは五輪出場権を獲得する必要がある。だが、もしサーフィンの神様が存在するなら、大原洋人が抱くサーフィン愛の大きさを頭の片隅に止めておいてくれるはずだ。(THE ANSWER編集部・佐藤 直子 / Naoko Sato)