香港デモの次は台湾…ついにトランプが斬り込む「中国の人権問題」

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米中貿易協議と香港デモ

大規模なデモと集会が続いている香港情勢について、米国のトランプ政権が中国の強硬策をけん制している。トランプ大統領は「米中貿易協議の合意が困難になる」と発言した。これは何を意味するのか。

結論を先に言えば、私は「トランプ政権が対中政策を一段と拡大・強化している」とみる。これまで、大統領は注意深く、米中対立を「ゼニ・カネの問題」にとどめていた。ところが、ついに、大統領自身が中国の人権や民主主義を問題視する姿勢を明らかにしたのだ。

トランプ氏は8月18日、香港情勢について「中国が暴力を行使して、もう1つの『天安門広場』になれば、貿易協議の合意は非常に難しくなる」と述べた。「天安門広場」は、中国政府が民主化運動を武力弾圧した1989年の天安門事件を指すのは言うまでもない。

これは、香港デモを米中貿易協議と結びつけた、初めての大統領発言である。これまで大統領は香港情勢に懸念を表明していたが、米中貿易協議に悪影響が及ぶ可能性に言及したことはなかった。

中国が香港デモを武力弾圧すれば、米国はもちろん、世界は「人権と民主主義に対する弾圧」と受け止めて、中国を厳しく批判する。そうなれば、香港にとどまらず、チベットや新疆ウィグルなど中国国内の人権弾圧に批判が飛び火するのは確実だ。

香港デモは単に香港だけでなく、中国共産党による人権・民主主義弾圧を糾弾している点が本質である。そんなデモをトランプ氏が米中貿易協議に結びつけたのは、米国が「これから中国の人権や民主主義についても、批判の刃を向けていくぞ」と宣言したも同然なのだ。

意外に聞こえるかもしれないが、中国の人権問題について、トランプ氏自身はこれまで、真正面から批判してこなかった。大統領が中国に要求してきたのは、あくまで貿易不均衡の是正や知的財産の保護、国営企業に対する補助金停止などだ。つまり、経済問題である。

米中対立が激化していると言っても、大統領自身は要求を経済分野にとどめ、人権や安全保障問題はノータッチに近かった。政権内で中国の人権弾圧を批判してきたのは、ペンス副大統領である(2018年10月12日公開コラム参照、https://gendai.ismedia.jp/articles/-/57929)。

それは「トランプ氏はゼニ・カネ以外に関心がなかった」のかもしれないし、あるいは副大統領と意図的に役割分担してきたのかもしれない。いずれにせよ、トランプ氏は15日時点でも、香港について「懸念している。暴力は見たくない」と述べただけだった。

今回、大統領自身がはっきりと香港デモを米中貿易協議に連動させた。ツイッターではなく、記者団に直接、語った点も見逃せない。強いメッセージを発信する意図があったからだろう。トランプ政権が一歩踏み込んだのは、明らかである。

「台湾への飛び火」を先読み

これに対して、中国外務省の報道官は「米国が香港問題を中国政府が対処すべき内政問題とするよう希望する」と述べた。本来なら「内政干渉だ」と大声で叫びたいところだろうが、あえて表現を抑えた配慮がにじみ出ている。それはなぜか。

ペンス副大統領が昨年10月の演説で中国の人権弾圧を批判した際、中国が「誤った言動を直ちにやめよ」と激怒したのと対照的だ。中国は「米国の中国批判はもはや止められない」と認識して、火に油を注ぐような反発を抑制したのだろう。

逆に言えば、中国側はそれほど「米中対立が貿易問題から人権、民主主義問題に拡大する」事態を恐れている。

トランプ政権が対中政策を貿易分野から他の分野に拡大している兆候は、他にもある。台湾への武器供与だ。トランプ政権は8月20日、台湾に新型のF16戦闘機66機を総額約80億ドル(約8500億円)で売却する方針を決め、米議会に通知した。

台湾への武器供与としては過去最大級であり、中国に対する真正面からの挑戦になる。この問題では、中国は「重大な内政干渉」と強く反発し「直ちに取り消せ」と要求した。中国の領土ではなく、実効支配も及んでいない台湾の防衛が中国の内政問題であるわけがない。

とはいえ、中国は一歩も引かないだろう。習近平体制の中国にとって、台湾は「核心的利益」であり、台湾奪取こそが国内で習支配の正統性を証明する最重要課題になっているからだ。

台湾に香港デモが飛び火する可能性もある。台湾の人々は「香港が落城すれば、次は台湾だ」と見極めている。中国が台湾に照準を定めて、攻勢をかけるに違いないからだ。そうと分かっているからこそ、トランプ政権は先手を打って戦闘機売却を決めたように見える。

米中対立は、香港デモと台湾への戦闘機売却によって、中国自身の人権と民主主義問題、さらに本丸の安全保障問題へと拡大しつつある。

貿易分野でも、トランプ政権が手を緩める気配はない。制裁関税第4弾を発表した後、中国が「必要な制裁をせざるをえない」と報復を示唆すると、トランプ氏は中国が報復すれば「究極の報復で対抗する」と記者団に語った。

究極の報復が何を意味するのか不明だが、大統領の手の内に「中国企業締め出し」策があるのは間違いない(2019年8月9日公開コラム、https://gendai.ismedia.jp/articles/-/66448)。米国の金融市場から中国企業を締め出すのだ。中国がトランプ氏に脅されて報復を断念すれば、習氏の求心力はガタ落ちになる。

「武力弾圧」してもしなくても…

中国は10月1日に建国70年の記念日、国慶節を迎える。習政権はそれまでにデモを収束させるのが絶対命題だが、逆に民主化勢力はその日を「決戦の日」と身構えているに違いない。

習氏は武力弾圧を決断するだろうか。私は「可能性は少なくない」とみる。習政権は「政策を合理的に判断する政権」とは言えないからだ。

習近平政権が合理的なら、米中対立を経済分野にとどめるためには、米国農産品輸入のような妥協策を積極的に進めればいいはずだ。だが、トランプ政権の制裁強化を受けて、逆に輸入拡大を凍結してしまった。それでは、対立に火の粉を注いだようなものだ。

なぜ、そうなるのかといえば、習政権が「メンツ重視」だからだろう。そうだとすれば、香港デモも「メンツ重視」で武力弾圧を決断する可能性はある、とみるべきだ。

ただ、武力弾圧を決断しても、それが「必ず成功する」とは限らない。逆に、習体制への打撃になる可能性もある。たとえば、弾圧部隊が命令に背いて、反乱を起こしたらどうなるか。弾圧してみても、目的であるデモ収束に成功しなかったら、習氏の威信低下は必至である。

逆に弾圧が成功したら、どうなるか。米国だけでなく世界は大規模な中国制裁に乗り出す。そうなれば、いまでも米中貿易戦争で苦境に立っている中国が、一段と苦しい立場に追い込まれるのは必至である。

だから「香港は一歩引いて妥協する」「米中対立も妥協して経済分野に話をとどめる」のが合理的な選択肢であるはずだが、習氏がそんな道を選ぶかどうか。さりとて、何も決断しなければ、デモが続くだけだ。結局、習氏は八方塞がりになりつつある。

習氏に残された時間は10月1日まで40日もない。逆に、トランプ氏は習氏と中国共産党を追い詰める絶好のチャンスを迎えている。