ひろゆきが語る「1%の抜け道に気づく成功者」
「可能性」に気づく人、気づかない人の違いは、どこにあるのでしょうか(写真:masterzphotois/iStock)
アメリカで大ベストセラーとなったアレックス・バナヤン著『サードドア:精神的資産のふやし方』。
18歳の大学生が、期末試験前日に一念発起してテレビのクイズ番組に出場。ビル・ゲイツ、スピルバーグ、レディー・ガガなど世界屈指の成功者たちに突撃インタビューしようと七転八倒する実話だ。
日本最大の電子掲示板『2ちゃんねる(現5ちゃんねる)』の設立者で、現在は英語圏最大の匿名掲示板「4chan」の管理人ほか、多数の企業に携わる「ひろゆき」こと西村博之氏は『サードドア』をどう読んだのか。話を聞いた。
成功者が端折る肝心な部分がここにある
――ひろゆきさんはネット配信番組で『サードドア』についてお話しされていましたよね。
たまたま外国人の友人に薦められて原書のほうを読んだんです。その頃はまだ日本語版もなくて、世界18カ国で刊行されるようなヒット作だとは知らなかったんですけど、面白いなあと思って。ほとんどの成功者の話に欠けているものが書かれている本ですよね。
全米話題のベストセラー『サードドア:精神的資産のふやし方』の特設サイトはこちら(画像をクリックするとジャンプします)
成功した人は、才能があるとか優秀だとか言われますけど、スタートの時点では、ほかの一般人と同じですよね。それがある日、レディー・ガガはプロデューサーに見いだされて大スターになり、ビル・ゲイツはIBMと契約してOSを卸したことで大成功への足がかりができたりする。
でも、そもそもレディー・ガガはなぜそのプロデューサーと接点があったのか? 20代の若者だったビル・ゲイツはなぜIBMにOSを卸すことができたのか? 大抵の成功談は、この肝心な最初のステップアップのところが端折られているんですよ。
著者のアレックスは、その端折られた部分を成功者たちにじかに聞いてまわって、それぞれの体験を引き出していくところが珍しいし、面白く読みました。
アレックスは、人生には3つのドアがあると語っていますよね。ファーストドアは、多くの人が並ぶ正面入り口。セカンドドアは、VIP用入り口。そして自分だけに見つけられる抜け道=サードドア。僕もアレックスと同じで、正攻法、つまりファーストドアに並ぶのではなく、必ず抜け道があるはずだと思うタイプです。
例えば、起業して営業するにも、大企業にいきなり「仕事ください」とお願いに行ったところで、電通や博報堂のようなブランドがあればまだしも、何もない人間が「きのう広告代理店を立ち上げた22歳です」なんて自己紹介してもまず会ってもらえないですよ。そうすると、正攻法でない抜け道を探さなければ、成功の確率は上がらない。
岩波書店が以前、縁故採用しかしないと報道されて問題になったことがありましたけど、僕、あれは正しいと思っています。ああ言われたら、岩波書店に就職したいっていう人は、何とかして縁故を作ろうとしますよね。
知り合い経由で岩波書店の社員を探すとか、岩波書店の入り口を張って「こういう者です、縁故になってください!」と言い続けるとか。
このぐらいのことは誰でも思いつきますよね。でも、思いつくだけでみんなやらないんです。そこで「こうすれば突破できる」と方法を考えて実際に行動するエネルギーがある人というのは、営業になっても編集になってもやっていけますよ。
だから、エントリーの段階でそのハードルを超えてこられる人かどうかを見るというのは、僕、すごく賢いなと思ったんです。大バッシングされてやめたみたいですけどね。
凡人と成功者の違いは、動いてみること
――ひろゆきさんがビジネスの道に入ったときには、どんなサードドアを開けられたのでしょう?
ひろゆき/元2ちゃんねる管理人。本名・西村博之。1976年神奈川県生まれ。中央大卒。1999年にインターネット匿名掲示板「2ちゃんねる」を開設し、管理人になる。東京プラス代表取締役、未来検索ブラジル取締役など、多くの企業に携わり、企画立案やサービス運営、プログラマーとして活躍。2005年、ニワンゴ取締役管理人に就任。翌年、「ニコニコ動画」を開始。2009年に2ちゃんねるを譲渡後、2015年に英語圏最大の匿名掲示板「4chan」の管理人に(写真:吉濱篤志)
例えば、「2ちゃんねる」と「ニコニコ動画」の頃は、ユーザーの間で誹謗中傷や名誉棄損の問題が出てきたとき、加害者に直接文句を言うのでなく、その加害者が利用しているプロバイダーに文句を言うということをやりましたね。
普通は、被害者がプロバイダーに対して発信者開示請求をして、当事者同士で争ってもらうことになる。でも僕は、「こんな誹謗中傷をするお客さんがお宅のプロバイダーを利用していますが、放置するつもりですか? 対処しないなら、お宅からはうちのサイトを使えないようにします」というルールを作ったんです。
そしたら、プロバイダー側が自主的に対応してくれるようになりました。これはほかのサイトがやっていなかったことで、問題の解決にかなり効果的でしたね。こういう細かいことはたくさんあるんですけど、勇気を出してやってみた、というほどのことでもないんですよ。
みんなやらないのはなんでだろう。やってみたら何が起こるんだろう。そう思ってやってみたら、大したデメリットはなかった、というような感じです。やったことのないことをして失敗したり恥をかいたりするのは、大したことじゃないですよね。僕はとりあえずやってみちゃう派なんですよ。
――どうして多くの人は動いてみないのでしょうか?
そこまでしてもやりたいのか、あるいはやりたくないかの話でしょうね。失敗するのがイヤだというのと、自分がやりたいことをしたいというのと、どっちをとるか。
有名人なら失敗でダメージを受けるかもしれませんけど、最初は何もない凡人の状態なんだから、失うような評価なんてそもそもないはずなんですよ。で、どうせゼロなら、やってみたほうがむしろ得だと僕は考えるわけです。
『サードドア』に登場する人のほとんどもそうですが、成功者は、成功しようとして行動した結果、成功しているんですよね。ただ才能があったからとか、ただ親の遺産があったからというだけで突然成功したという人はいません。だから、成功したいと思うなら動くしかないんですよ。成功者と凡人の違いは、まず動いてみるかどうかです。
成功したいと思うなら動くしかない
実際に動いてみると、得することもあるんです。例えば僕は、モスバーガーに行くとき、お店の前にいるのにアプリで注文してみたりしてます。そのほうがゆっくり選べるし、時間のロスを少なくできるから。
あと、僕は、百貨店やスーパーに行ったら、まずどこにトイレがあるかを確認してるんです。だから何、と思われるかもしれませんが、人が見てないような視点であえて見てみる。それがサードドアにつながることもある。
そうやって1つやって、大したことのない結果が出る。もう1つやって、やっぱり大したことのない結果が出る。でもまたやってみて……この繰り返しで抜け道にたどり着くんじゃないかな。特別なことはなくて、やるか、やらないかだけだと思います。
もちろん最初は、マネをするところから始まったりします。いきなり独自の方法を編み出そうなんて面倒臭いだけで意味がなくて、うまくいった人の方法をマネしないほうが損だとも思いますよ。
例えば「2ちゃんねる」を作ったときは、エンジニアに頼むお金もなかったので、まずはエンジニアのマネをして、自分でPerlというプログラミング言語を覚えるところから始まりました。プログラムって誰かが書いたものだから、その人のやり方をマネすれば自分だって書けるようになるんです。
世の中って、みんなが難しいと思っていることでも、一歩踏み出してやってみると大したことなかったりする。失敗したからって命まで取られるわけじゃないし、若いうちにいろいろやってみて、自分の手で動かせることをちょっとずつ増やしていくことが、成功に近づいていくんじゃないでしょうか。
アレックスは、「サードドアが必ずある」という前提で世の中を見ていますよね。これがポイントだと思います。
クイズ番組に出場して賞金を獲るにも、まずはオーディションに受からなければダメ。じゃあその合否を判断しているのは誰なのか、その人の印象に残るにはどうすればいいのかという視点で動いていく。そういう人って、何千人の中の数人のはずです。でも、こうすれば必ず確率が上がるという方法はどんな場面にもありますよ。
ウォーレン・バフェットの株主総会で質問するときのエピソードも面白いですよね。まずは質問者になるために、くじ引きに当選しなければならない。そこで会場の人数配置を観察して、当選しやすいのは熱心な人々が押し寄せる前のほうのブロックではなく、2階席のあのブロックだと考える。
冷静に考えれば誰にでもわかることですよね。だけど、ボーッと動いてしまう人が多いんですよ。
つまり、サードドアを見つけるのは、才能や頭のよさではない。何かを実現したいと思ったとき、その確率が1%でも高くなる方法はなんだろうという目線で世の中を見られるかどうかなんですよ。誰にでもできるけれど、みんなやらないことがある。成功者はみんなそれを知っているし、やっている。そういうことだと思います。
自分だけのカードで勝つときの快感
アレックスには、クイズ番組で優勝したエピソードを話せば、大体の人が食いついてくるという武器がありますよね。この強烈なエピソードを持っているかどうかも重要だと思います。
僕の知人の経営者に、中卒であることを武器にしている人がいるんです。経営者なんだから学歴なんてどうでもいいじゃないかと僕は思うんですけど、「中卒って言うと、相手が必ず食いついてきて、話を聞いてくれるから便利なんですよ」って言う。
つまり、一般的に欠点だと思われていることをあえてさらけ出すカードを使ったほうが、成功率が高まるわけです。コンプレックスこそ、自分にしかないカードに化ける場合があるんですよね。
自分にしかないとか、他の人があまり考えないカードで勝率を高めたり、勝ったときって、すごく気持ちいいと思うんですよ。そして、自分の持っている能力や機能を、どこに持っていけば人生がラクになるかということをいつも考えていると、人生が生きやすくなりますし、勝つとめちゃくちゃ楽しいですよ。
――『サードドア』ではインサイドマンの存在もポイントになっていますが、ひろゆきさんもそのようなコネクションは重要だと思いますか?
僕は人付き合いが苦手なので、インサイドマンはいないですね。日本の場合、コネクションでうまくいった人というのは、だいたいみんなすごく忙しくて大変なんですよ。誘われたら飲み会に行ってお礼を言わなきゃいけないとか、紹介されたあの人に会わなきゃいけないとか、スケジュールがぎっしり詰まっている。
僕にはそういうのがないので、自分の好きなことをいつでもできる自由な時間があるんです。海外に住みたいと思えばすぐそうできる。でも世の中の成功した人は、あまりそういう自由がありませんよね。
自分だけのカードを使うという話ともつながりますが、世間的には、僕は変わり者だと思われている。だから、「お金を持っている成功者に近づきたい」とふわっと考えているような一般的な人は、あまり近寄ってこないんです。
超有名企業だと、社員を募集するとすごい数の応募が来ますよね。「有名」だから。でもほとんど使えないだろうし、優秀な人をその中から見つけ出すのはすごく難しい。逆に、そういう価値を持たない会社に入りたいと言ってくる人は、その会社に何かを感じていて、自分でなんとかしようと考えているケースが多いわけです。
それと同じで、僕も社会的評価がそんなに高くないので、近づいてくる人もクセのある、行動力の高い人が多いんですよ。だから、何かやろうとするときも、すぐに役に立つ人が見つかって、すぐに動ける。これってラクなんですよね、僕の言葉で言うと。
「成功の〇カ条」なんてウソだと思えるか
若い人は、ビジネス書の中に「成功の〇カ条」みたいなものを欲しがるかもしれませんけど、この本は逆ですよね。「成功の〇カ条」こそみんなが並ぶファーストドアそのもので、そこじゃない道がありますよねと言っている。
「成功の〇カ条」をやれば必ず成功するなんてウソじゃん、そんな簡単ならみんな成功してるよ、と。そんなふうに考えられるようになるのが、サードドア的視点を持つことだと思います。
日本も、1960〜70年代は経済成長していましたから、みんなが進む道を行けばよかった。有名大学を出て、大銀行とか一流企業に入って、これで一生安泰だと。でも今は銀行もリストラ、人気の生命保険会社もAIに仕事をとられてリストラですよ。
絶対安全、幸せだと思っていた道が、もう危険だらけになっている。これからは、みんなが群がって進むファーストドアこそが危険で、そこを行くとみんなと同じように落ちていく。だからセカンドドア、サードドアを探したほうがいいんですよ。
先ほどモスバーガーの例を出しましたけど、みんな間違っている。まず列に並ぼうとする。でも、ラクに得する道が実はすいてるんです。結構あるんですよ。抜け道が。要は、ほかの人がやってないことをいかに探し続けられるか。やってみて、成功体験を重ねていけばわかることです。
目の前に答えがあっても、気づく人と気づかない人がいますから、この本を読んでも、気づかない人がいるかもしれません。でも僕は、この本は、気づかせる要素が多いと思っています。スピルバーグとか、成功者は皆地味なコネクションを大事にしているところとか。若い人は、パッと読んだところで、それのどこがすごいのか、わからないかもしれませんが(笑)。
この本は、何かしたいんだけど、何をしたらいいかわからない人が読むといいと思います。心のどこかでちょっと、現状を変えたいと思っていて、凡人が何かを成し遂げるのに必要なことは何かを探したいと思っている人には、いい本ですよ。
実はアレックスから連絡が…
最近、ツイッター経由でアレックスから連絡があったんですよ。このインタビューの話をいただいたので、アレックスのツイッターをフォローしたら、フォローが返ってきて。僕のアカウントには認証マークがついているし、本の話もあるし、何か関係のある人だから連絡したほうがいいとピンと来たんでしょうね。
実は東洋経済さんはきみと僕との対談をセッティングしたかったそうなんだけど、今回はスケジュールが合わなかったんだ、というような話をしました。すごい、彼は本に書いたとおりにちゃんとやっているんだなあと思いました。
たまたま友人から薦められた一冊でしたけど、この本を読むために自分の時間を使うという行動をとった結果、アレックスと知り合えたし、今回のインタビューの話もいただいた。ちょうど、別の雑誌からお薦め本を紹介してくださいと依頼されて、この本を取り上げたんです。それで原稿料をもらえるわけだから(笑)、なんてことのない話かもしれませんが、動いてみると得することって、やっぱりあるんですよ。
(構成・泉美木蘭)